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焼肉 その3
気を取り直して、肉を焼く。
「いい?自分のお箸で生肉を触ったらダメなのよ」
「さっき聞いた」
娘は淡々としたものだ。
息子は何も言わずにホットプレートの上の肉を見つめている。
愛しいのか?
「焼けたお肉は自分のお箸で取るのよ。この竹箸を使うのは生の時だけ!」
「分かってるって。もう、五月蝿い!」
つれないなあ。
食中毒防止の為にも大事なことなんだからね!
私は肉を裏返していく。
うん、良い焼き色だね。
「…あれ?」
「何?お母さんどうしたの」
「今ひっくり返したお肉は半分生だけど、このひっくり返した面は焼けているよね?でも竹箸で触っちゃった」
「だから?」
「生肉を触った箸で触ったこの肉はどうなる?」
私は、この難問にフリーズしてしまった。
気がついた時には、…肉がなくなっていた。