ジャムはカロリーとか気にせず塗りたくると幸せ
最初の違和感は、朝のワイドショーだった。
頭の禿げたぽっちゃり眼鏡の中年男性が、ハンカチで汗を拭きながら、記者たちの質問に答えている。
その話し方はしろどもどろで、どうにも要領が得ない。
俺はダイニングのテーブルの前にて、椅子に座り、テレビを観ながら、いつも通りの朝を迎えている。
「おにい、今日は寝ぐせ凄いね。怪人みたいだよ」
テーブルを挟んで目の前に居る、妹のミナトにそう言われて、俺は”ん”と言葉を返す。
(この人、どっかで見たことあるな)
はて、どこで見たんだろう。
食卓に母親がサラダを運んできた。
トマトと……レタスと、玉ねぎ。ドレッシングは唐辛子の奴か。嫌いなんだがな、辛いのは。
俺がそう思ってムッとしていると、俺の目の前にだけ取り分けられたサラダが運ばれ、それにはシーザードレッシングが、かかっている。
咄嗟に母親の方に目を向けると、母親はニコッと微笑んだ。
なるほど、よくできたことで。
「あー、お兄だけズルい。特別じゃん」
ミナトは年頃なのか些細な事でよく怒る。
ほれ、これが欲しいのか。なら、俺は別にサラダ食べなくてもいいし、やるぞ。
俺はそう口には出さずに、俺のサラダを妹に差し出してみた。
「いらない!それは、お兄のでしょ!」
ミナトは、叫び調子でそう言うと、そっぽを向いた。
(さいですか)
難しい子に育ったものだ。
これでも中学では生徒会長を務めているというのだから、不思議だ。
内弁慶という奴かもしれない。
テレビに目を移すと、まだ先のおじさんが変わらない様子でそこに居た。
「いやー、そんなこと言われてもねー」
記者が”憲法改正に対して国民投票を実施する予定はあるか”という質問に、彼はそう答えた。
ようやく頭が起きてきたせいか、変なことに気付いてしまう。
”屋島総理、またもや記者会見にてチグハグな発言!?記者から注意も”
そんな見出しが右上に書いてある。
―屋島……総理……?
あれ、おかしい。
いまの総理大臣って阿部って苗字だったよな?
それに、こんな頼りないオジサンが総理大臣なわけないじゃないか。
「この人毎回こんなだよね。なんで総理大臣になれたんだろ?」
ミナトがそう疑問を口にした後、ジャムで真っ赤になった食パンをパクリと齧った。
―ミナト。
「ん、何?」
―ちょっとお兄ちゃんの頬っぺたを抓ってくれ
「いいよ」
少しは躊躇ったり、理由を尋ねたりするのが普通だと思うのだが、うちの妹は素直すぎるのか、俺のことが嫌いなのか、少しも間を置かずに俺の頬っぺたを抓った。
ーいてててて。もういい!もういいから!
「お兄、ほっぺ柔らかいね。意外」
―やめんか、こら
俺の想像しているより遥かに強い力で抓られてしまい、思わず涙が目に滲む。
随分と古典的な方法によってだが、俺はここが夢ではなく現実であることを知った。