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9/11

ジャムはカロリーとか気にせず塗りたくると幸せ


最初の違和感は、朝のワイドショーだった。


頭の禿げたぽっちゃり眼鏡の中年男性が、ハンカチで汗を拭きながら、記者たちの質問に答えている。

その話し方はしろどもどろで、どうにも要領が得ない。

俺はダイニングのテーブルの前にて、椅子に座り、テレビを観ながら、いつも通りの朝を迎えている。


「おにい、今日は寝ぐせ凄いね。怪人みたいだよ」


テーブルを挟んで目の前に居る、妹のミナトにそう言われて、俺は”ん”と言葉を返す。


(この人、どっかで見たことあるな)


はて、どこで見たんだろう。


食卓に母親がサラダを運んできた。

トマトと……レタスと、玉ねぎ。ドレッシングは唐辛子の奴か。嫌いなんだがな、辛いのは。

俺がそう思ってムッとしていると、俺の目の前にだけ取り分けられたサラダが運ばれ、それにはシーザードレッシングが、かかっている。

咄嗟に母親の方に目を向けると、母親はニコッと微笑んだ。


なるほど、よくできたことで。



「あー、お兄だけズルい。特別じゃん」



ミナトは年頃なのか些細な事でよく怒る。


ほれ、これが欲しいのか。なら、俺は別にサラダ食べなくてもいいし、やるぞ。

俺はそう口には出さずに、俺のサラダを妹に差し出してみた。



「いらない!それは、お兄のでしょ!」


ミナトは、叫び調子でそう言うと、そっぽを向いた。



(さいですか)



難しい子に育ったものだ。

これでも中学では生徒会長を務めているというのだから、不思議だ。

内弁慶という奴かもしれない。


テレビに目を移すと、まだ先のおじさんが変わらない様子でそこに居た。


「いやー、そんなこと言われてもねー」


記者が”憲法改正に対して国民投票を実施する予定はあるか”という質問に、彼はそう答えた。


ようやく頭が起きてきたせいか、変なことに気付いてしまう。


”屋島総理、またもや記者会見にてチグハグな発言!?記者から注意も”


そんな見出しが右上に書いてある。


―屋島……総理……?


あれ、おかしい。

いまの総理大臣って阿部あべって苗字だったよな?

それに、こんな頼りないオジサンが総理大臣なわけないじゃないか。



「この人毎回こんなだよね。なんで総理大臣になれたんだろ?」



ミナトがそう疑問を口にした後、ジャムで真っ赤になった食パンをパクリと齧った。



―ミナト。


「ん、何?」


―ちょっとお兄ちゃんの頬っぺたを抓ってくれ


「いいよ」



少しは躊躇ったり、理由を尋ねたりするのが普通だと思うのだが、うちの妹は素直すぎるのか、俺のことが嫌いなのか、少しも間を置かずに俺の頬っぺたを抓った。



ーいてててて。もういい!もういいから!


「お兄、ほっぺ柔らかいね。意外」


―やめんか、こら



俺の想像しているより遥かに強い力で抓られてしまい、思わず涙が目に滲む。


随分と古典的な方法によってだが、俺はここが夢ではなく現実であることを知った。
























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