正体見たり
おれは、勢いよく後ろを振り返る。
すると、うちの高校の制服を着た女子が見えた。
そこに居たのはクラスメイトの山咲 美波だった。
彼女は、目を大きく見開いている。
「いやー、見つかってしまったかぁ」
山咲さんはよく通る声で、そう言った。
照れているのか、頭の後ろを擦りながら、下向き加減だ。
照れなければいけないのは、確実に俺の方だというのに。
もしかすると、見ていた彼女の方が、俺よりずっと恥ずかしく思えたのだろうか。
それくらい、俺は無様だったのかもしれない。
そして、かくいう俺はといえば、完全に固まってしまっていた。
硬直という奴である。
まるで、茹でる前のそうめんである。
いやしかし、幽霊で無かったことは喜ばしいことだ。よかった。
だが結局クラスメイトに俺の奇行がバレてしまうという順当なバットエンドを迎えてしまった。
当初に想定していた通りの不幸である。
明日の朝、普段より緊張した面持ちで教室に入った俺を、クラスメイト達が小馬鹿にした笑い顔で、ひそひそ話に興じたのならば、きっと彼女がSNS等を使って、俺の奇行を皆さまにご紹介した、ということになるだろう。
(こういう時は冷静に。なるべく被害を小さくする方向に動かなければならない)
口の中がひどく乾いていた。
―あー、え、えっと。山咲は、いつから教室に居たんだ?
―俺が教室に入った時には居なかったと思うのだが……
「いや、その。あのね。キーホルダー!キーホルダー落としちゃって……」
「私の好きなロックバンドがいてね。そのキーホルダーなの。落としちゃって、探してたから」
そう言って、山咲は右手を掲げる。
彼女の右手には、犬のキャラクターが描かれたキーホルダーがあった。
そいつは後ろ脚で器用に立ち上がり、ギターを持って不敵な笑顔を浮かべている。
―そうか、それで地面にしゃがんでいたから、俺は見逃したわけか
「そう、そうだよ!谷山が私を見逃したのが、よくなかったね」
―ということは、俺がこの教室に入る前からこの教室にいたんだな?
「うん、そう」
――聞いたか?
俺はそう言い終えた後、ごくりと生唾を呑んだ。
もしかすると、山咲はイヤホンで音楽を聞いていた可能性がある。
何故なら、彼女はロックミュージックが好きだったはずだ。
山咲なら、学校の行き帰りや休み時間に音楽を聴くためのイヤホンを学校に持ち込んでいてもおかしくは――
「”いとおかし”……」
彼女は遠くを見上げて、そう呟いた。
どうやら俺を真似ているらしく、スカートのポッケに両手を突っ込んでいた。
よし、終わった。
どうやら、ばっちりと聞かれてしまっていたみたいだ。