無知は恥ずかしい
―実は、屋島の嘘なんですよ。それ
「へ、嘘……ですか?」
信じる方も少しどうかしていると思う、という感想は彼女に伝えないでおこう。
騙されていると知った彼女がこれから怒りだすかもしれない。
しかし、屋島のフォローなど、してはやらないと心に決めていた。
奴は、深く反省した方がいい。。
高崎さんは”きょとん”と、幼子がよくする様なあどけない表情だった。
「【嘘】……とは何でしょうか?」
―屋島は冗談を言って、人をからかうのが好きな奴なんです。だから、あんまり彼の言うことは真に受けない方がいいですよ
「……ああ、そういうことですか。【嘘】というのは【冗談】のことなのですね」
何となくだが、会話の歯車が噛み合っていない気がする。
彼女のニュアンスだと、まるで彼女が【嘘】という言葉を知らないかのように聞こえる。
彼女なりのユニークであろうか?
俺が返す言葉に詰まっているせいで、変な沈黙が生まれた。
彼女は ”あっ、えーっとぉ……”と戸惑った様子を見せた。
「実は、【冗談】というのも余りよく分かっていないんですけどね……えへへ……」
「こういうことが、よくあるんです。気を悪くさせたなら、ごめんなさい」
俯きがちになって、彼女は言葉を紡ぐ。
(ちょっと不思議な感じの子だな)
屋島から聞いてた話で、少し変わった子であることは分かっていたつもりだが。
想像してたより、変わっている。
(本気でこの子は【嘘】という言葉を知らないのではないか?)
しかし、そんなことは考えるまでもなく、あり得ない。
日常を生きていれば、嘘を知る機会に満ち溢れているのだから。
例えば、
・授業で教わる
・漢字ドリルにしこしこと【嘘】という字を書きなぐる
・親から ”嘘をついてはいけません” と叱られる
・日常のコミュニケーションで見られる見栄やはったり
・政見放送を観る……などなど。
「ほんとに気にしないでくださいね。私少し変わってるみたいで……」
そう言うと、彼女は居たたまれなくなったのか、この場から逃げるように立ち去ろうとした。
―あっ、ちょっと待ってくれ
俺は引き留めようとしたが、彼女はスタスタと小走りで走り去っていった。
(しまったな。戸惑いが大きすぎて、俺が黙り込んだせいだろう)
(彼女に嫌な思いをさせてしまったようだ)
また会ったときにでも謝罪をしないとな、と思いつつ、職員室前を後にした。
登場人物形容 -そのいち-
谷山明人(17歳)
・何を考えているか分からないと、人から言われることがある。
・姿勢よく座ることを心掛けている。
・頭の回転は速いが、人間関係においては疎い。
・縁のない眼鏡をかけている。
・部活動には所属していない。
・休み時間は読書をして過ごすことが多い。学
・学業の成績は上の下。
・友人は多くないが、彼を慕う人間が一定数いる。
・長身であるが、存在感に乏しい。
・父親が合気道の師範代である故、合気道の心得がある。