いざ、学校へ
固い靴先がタイルに とん とん と跳ねる。
「それじゃ、いってきまーす」
ミナトの元気な声が、陽気な朝によく似合っている。
俺はにこりと微笑んで、愛する妹が学校へと旅立つのを見送った。
「って、何してんのよ、お兄。さっさと行くよ」
おや、バレてしまった。自然な感じを装っていたのだが。
我が家の通例として、学校がある平日の朝はミナトと一緒に家を発つ。
仲良し兄妹というわけでもないが、近ごろ物騒だから。何でも全裸の変態がうろついているらしい。
それに中高一貫校だし、校舎は違えど俺たちが向かうべきところはほとんど同じだ。
俺は重たい気持ちを背負って、靴を履くことにした。ここでいつまでも駄々をこねていると、兄としての尊厳を失いかねない。
俺が学校に行きたくないのは、とても嫌な予感がするからだ。
朝のワイドショーを観ていたら、知らないおじさんが総理大臣になっていた。
しかも、どうやら夢ではないらしいのだ。抓られて赤くなった頬っぺたがまだじんわりと熱を帯びている。
確かあの総理大臣は”屋島”とか言ったか
屋島総理。
やし……ま……?
ーあっ
思わず声が出た。これは記憶のひとつがある記憶と結びついたからだ。
「なに、うざいんだけど。ほんと早くしてよね」
ミナトが見るからにイライラしていた。しかし、自分の思いつきの方に気を取られる。
これは何と言えばいいのだろうか。瓢箪から駒?
いや、こんなことはあり得ない。そして、真相を確かめるにはいい方法がある。
学校に行って、屋島に話を聞けばいいのだ。
ーよし、いくぞ。ミナト。学校へ
「だから、さっきからそう言ってるじゃん。今日のお兄変だよ」
ミナトは怪訝な顔のまま、俺が靴を履き終わるのを待たずに、玄関から外に出た。
俺もその後に続く。
ーなあ、今の総理っていつから総理だったっけ
「え、いつだっけ。けっこう最近だったと思うけど」
ーあの人に、お前あったことないか?
ー無いに決まってるじゃん。総理大臣だよ?
そうか、だよな と俺は淡泊に返した。




