9話 [一ヶ月間の修行]
「基礎魔法はまだまだ経験不足だが・・・。ふむ。獲得スキルは十分にある、問題ないだろう。」
独り言が多いな、この獣。
朝早くに俺は夢から強制的に覚めさせられ、現在朝食を取っている。さっきからこの獣がブツブツなにかを言っているようだ。
俺の事だろうが、嫌な予感がするので無視しよう。俺は聞こえないフリをして、昨日狩った亀の魔物のスープ、何かの肉のステーキ、僅かに発光しているサラダ、普通のパンを食べる事にした。
十分程で朝食を食べ終わり、食器を片付けようとしたら、急に話しかけてきた。
「おい、貴様! 今日から一ヶ月間、外で暮らすがいい!」
何言い出すんだ? と思ったら、変な提案をされた。え? 俺ってペットポジションだったっけな? 外で暮せって野宿しろってことか? まだ俺、赤ん坊 (一応) なんだが!?
もっと詳しく説明を!
「もっとくあしくせつめいお!」
「・・・ふむ。簡単に説明すると、この森の中で一ヶ月間自給自足で生き延びよ、ということだな。これもいい経験になるだろう。」
くっ、もっと具体的に!
「くっ、もっとぐたいていに!」
「面倒な・・・・・・基礎スキル以外のスキルは自身で開発する者が多いゆえ、一人で試行錯誤し自分だけのスキルを獲得する環境が必要なのだ。分かったか?」
幻魔は皆そうしている。という声はこれからのことを案じている俺の耳には入ってこなかった。
つ、つまりこれから一ヶ月間この危険な森で暮らせと!? ついさっきまですっかり油断していた! 俺、異世界に来て三日目にして心が折れそうなんだが!?
サバイバル生活なんてハードすぎないか!
魔物を倒して飯を作って・・・そうか、料理スキル覚えたから家庭科の評定が二だった俺でもちゃんとした飯作れるのかっ!
魔物討伐も一回だけだが一応経験はあるし・・・寝る場所さえあれば自給自足もいけるか! いやいや、やっぱり危ないって! まだ赤ん坊なんだぞ俺・・・もし強い魔物に出くわしでもしたら今度こそ死ぬ!!
理解したが・・・拒否! 断固拒否だ! 絶対殺されるのがオチだ!
「りかいしたが・・・きょひ! だんこきょひだ! ぜったいこおさえるのがおちら!」
「大丈夫だ。いざ貴様の命が危険になった場合には、己が貴様を助けてやる。」
そう言われ、反論を許さないとでも言いたげな表情で睨みつけられたら、こりゃもう逆らえない。俺が折れるしかないのか!! でも、家なしでの生活はな・・・食料とかの調達も魔物以外はよく知らないしな・・・不安しかないんだが!?
あまり期待できないな・・・
「あまりきたいできないな・・・」
「後で己に土下座する事になるぞ。」
ぐっ・・・それよりも俺は一ヶ月間野宿しないといけないのか?
「ぐっ・・・そえよりもおれはいっかげつかんのじゅくしあいといけないのか?」
「・・・む。そうだな、確か西の方に掃除すれば住める遺跡があったはずだぞ。そこを目指すがいい。」
そう話し終えた後、ディガライさんから何枚かの着替えの入った袋を渡され、俺は半強制的に家から追い出された。
ディガライさんに見込まれたのが運の尽き・・・受け入れるしかないか! 難しく考えるのは後にして、一ヶ月間前向きに頑張っていこう! うん、難しいな。もう心が折れそうだ。
「炎属性スキルを試す時は周囲に注意するんだぞ。」
「了解だ! じゃあ、行ってくる!」
浮遊は使えないので、身体強化をし、徒歩で西へ向かう。身体強化、ずっと発動させていたいんだが、魔力消費量が少し多いから無理なんだよな・・・
この一ヶ月間で何とかしたいところだ。
何はさておき、言われた通りに遺跡を目指して歩いていくことにした。
遺跡に着いたら一旦荷物を置いて、魔物討伐・・・は後回しで、今日は基礎魔法とかのスキルレベルを上げてみるか! 鑑定 (微) の熟練度も上げたかったところだしな!
ディガライさんの言った新しいスキルの獲得ってどうすれば出来るのか不明だから保留だな・・・面白そうだけど、今は死なないように基礎を固めておく必要があるよな。うんうん。何事にも慎重にいこう!
というよりあの獣の説明が足りなさすぎるのがいけないんだよ!
今後の予定を頭の中でたてていると、後ろから何かが後をつけてくる気配を感じた。魔物か!?
俺は戦闘態勢になり、結界を厳重に張りなおし、後ろを振り返った。
ガサッ
草むらから何か・・・見慣れたヤツが出てきた。
「ヴァッヴァ!!」
そこには何時ぞやのカタツムリの殻を背中に乗せた二足歩行のグミっぽいヤツがいた。
何故ここにいる!? もしかしてストーカー!? モテ期到来なのか!? う、嬉しくねー!
・・・冗談はさておき、コイツは無害っぽいから無視することにする。一先ず遺跡に行かないとだしな!
無視を決め込み、遺跡へと向かっていく。どうにかして撒きたかったが、以外にも足が早かったため、何度も失敗した。
そういえば、小学校の頃に鬼ごっこで俺のことだけを追いかけ回すだけ追いかけ回して、捕まえられる距離にいてもタッチしないっていう本物の鬼みたいな奴がいたな。奴は元気にしているだろうか。
ストーカーする魔物を撒くのを諦め、どうでもいい前世の思い出に浸っていると、
ガサ、ガサ、ガサササ
近くの草むらから音がした。僅かに殺気も感じる。
「オ゛オ゛オ゛ォォオオ゛」
その魔物は呻き声をあげて、俺に襲いかかってきた。だが、結界を張っていたため、当然俺は無傷だ。
その魔物は、人間の足のない、胴から上だけが動いているお化けのような形状で、よく見たら髪も手も全部植物の根っこでできているようだった。
う、上半身だけだが、人間型の敵を倒すのってなんだか気が引けるな・・・
と、攻撃するのを躊躇していたら、その魔物はストーカー君に襲いかかっていた。って、アイツまだ着いてきていたのか!? 流石に魔物に出くわしたんだから逃げろよ!!
「よけろっ!」
俺は咄嗟に敵に向かって攻撃をしていた。少し焦っていたせいか、どんな攻撃魔法をしたか覚えていない。気づいたら、先程ストーカー君を襲おうとしていた魔物は、カピカピに干からびていた。なんだ、何したんだ俺・・・。
゛ 強奪水 ゛ の獲得条件が揃いました。獲得しますか?
可 (女神の加護) 不可
えっ、ええ!? 今のが新しいスキルなのか!? 無意識のうちに発動していたんだが・・・使い方を間違えたら危なそうなスキルだな、これ。
一応不可を押せるか試してみたが、まだ不具合中のようだ。全く反応する気配が無かった。早く直してくれませんかね!?
何回押しても無駄だということはもう学んだので、取り敢えず可 (女神の加護) を押した。
゛強奪水 ゛ 獲得
うん、あの魔物の干からび具合からして、このスキルはあまり使わない方が平和的だよな。全く、少しトラウマになりかけたぞ!
「ヴァー! ヴァヴァ!」
「大丈夫か?」
あ、しまった! ずっと無視しまくっていたのに、話しかけてしまった!
「ヴァ!」
ストーカー君はそこら辺にある木の棒を、後ろに背負っているカタツムリの殻から取り出し、地面に文字を書いた。思っていた以上に器用なヤツだ。
ふむふむ、何何・・・
・・・読めないぞ! この世界の文字なんて分からなくて当たり前か!
うーん、あ、そうだ! 鑑定 (微) があったな。
気を取り直して・・・
(ボクはグッポ族の一人。助けてくれて感謝。言葉通じない残念。ついていくこと良い?)
「ヴァッ!!」
「・・・お前、許可とる前から着いてきていただろ・・・」
と言うと、寂しそうな顔をして、
(だめ?)
と書き加えてきた。
「いや、別にいいけど、着いてきても面白いことなんて何も無いぞ?」
「ヴァヴァー!!」
余程嬉しかったのか、急に俺の周りを3周駆け回ったかと思いきや、石につまずいて転んでいた。
「ところで、名前は? ちなみに俺はユアドだ!」
自己紹介をすると、ストーカー君は地面に
(ボクはシュピ!)
と書いてくれた。お前・・・名前、あったのか。
するとどこからともなく、ピコッ! と音がして、
熟練度が一定値を超えました。
鑑定 (微) → 鑑定 (並)
という文字が浮かび上がってきた。
「オメデト!オメデトッ」
「あれ、お前って喋れたっけ?」
「ボクの言葉、分かる!?」
「お、おう! これも鑑定 (並) の影響か・・・」
「???」
「いや、何でもない! 俺はこれから西にある遺跡まで行くつもりだ。シュピはどうする? 戻るならいまのう」
「ついてく!」
「・・・」
「ついてく!」
「怪我しても知らないぞ?」
「ヘイキー」
二足歩行のグミは元気よくそう答え、目的地まで一緒に着いていくことになった。
到着するまでの道のりで、シュピから食べれる木の実や薬草などを教えて貰った。
鑑定 (並) は、まだ草木の鑑定が出来る程便利じゃないようなので、正直助かった。
魔物はあの一度以降出くわしていない。シュピ曰く、魔物は夜に活動する者が大半だが、植物系の魔物は朝や昼間に居るそうだ。
それから何時間かして、遺跡らしい場所まで俺らは辿り着いたのだが・・・
正直言って、ここが本当に目的地だとしたら、普通の赤ん坊は泣いているだろう。
四角形の部屋が何個も積まれたような、まるで積み木で作った塔のような外見に、いかにも魔物の住処らしい雰囲気が漂う外見・・・
もしかして、ディガライさんの言ってた ゛掃除すれば住める遺跡 ゛ の ゛ 掃除 ゛ って・・・魔物の掃除 (討伐) ってことかよ!?
「イセキだ!」
「遺跡だな。」
「入ろっ」
「どうぞ。」
「一緒っ」
「勘弁して下さい。」
「行く!!!」
「ア゛アア゛ア゛アアアア゛アア」
魔物が出そうっていうのもあるが、何より、お化けが出そうな外見なんだもんな! や、やめろ! 強く引っ張るなああああ!
引き摺られるようにして、俺は遺跡の中へと入った。
薄暗いが松明が所々に設置してあるため、目が慣れると中がよく見えるようになった。
・・・あれ? 俺達、囲まれていないか??
「ギュキィイイイッ!」
目が四つの大きな、蝙蝠型の魔物に威嚇され、それを合図に三匹...四匹...五匹...と、だんだんこちらに集まってきた。最終的には十八匹も集まってしまい、八方塞がりだ。
攻撃されても怪我をしないよう、より協力な結界を張ろうとしたが・・・
「あれ、何で、でき、な・・・」
不発に終わり、俺は倒れてしまった。
そういえば、身体強化でかなり魔力使ってたんだっけな・・・くそ、結界、を・・・
重い体に鞭打ち、何とか結界を張った。俺の魔力が無くなったことを察知したのか、シュピは俺を担いですぐさま外へと避難した。以外に力持ちだな。いや、俺が軽いだけか!
幸いにも、魔物は外までは追ってこなかった。
俺達は遺跡付近にあった洞窟を見つけ、俺は魔力回復のために仮眠をし、シュピは食べ物を探しに行ってくれた。
うーん、魔力が復活したら、一階から制圧したいところだが・・・敵意があまり感じられなかったのが気になるな。話し合いとか出来ればいいんだが・・・
「食べ物、魔力っ」
そう言ってシュピはマンゴーの形をした果物を持ってきてくれた。
有難くもらい、一口食べると減った魔力が戻っていく感覚がした。しかもうまい!! なんだこれ!!
「凄いな、これ! シュピの分はないのか?」
「魔力、戻る食べ物! ボクは食べ物食べられない・・・」
「そうか・・・ところで聞きたいんだが、さっきの魔物達って険魔か?」
「ちがう。ボクと同じ!」
「魔物に近い険魔、か・・・じゃあ、あいつらとも喋れるのか?」
「たぶん??」
よし、少しの間遺跡に住まわせて貰えるように説得させてみせるぞ! うん・・・大丈夫だろう!
今後の方針が決まったところで、外を見てみると、もう夜になっていた。
「よーし、明日はあいつらを説得しに行くぞ!」
「わかったっ」
俺達は、布団が無かったのでディガライさんが持たせてくれた衣類を布団代わりにして、その日は寝ることにした。