何も出来ないので話だけ聞くことにした
今回初めて投稿させていただきました。
至らないところも多々あると思いますが、続けていきたいと思います(笑)
私が日頃仕事しながら妄想していることを文書にしてみました。
まずは読んでいただければ嬉しいです。
暖かな風を肌で感じられる季節になってきた。
アポチは目を細めながら先日までの寒さを思い出していた。
「今年で成人かぁ・・・。大人になんてなりたくない・・・。」
はぁ・・。マジでため息しか出て来ない。俯いた先には新緑が顔を覗かせていた。
希望を言えば家でのんびりと暮らしていきたい。
しかし、現実はそうはいかないのである。実家もそんなに裕福ではない。貴族の家系でもなければ、名の知れた商家の家系でもない。
両親は小さな町のお役人。役人と言えば聞こえはいいが、小さな町の小さな役所のしかもよく分からない部署に配属されている。そこが地域振興課という名で、仕事内容は謎だ・・・。
分かっていることと言えば、薄給ってことぐらいである。
勘違いして欲しくないのは、両親と仲が悪い訳ではない。むしろ仲良しだ!よく仕事の話なんかも聞いている。ただ・・・「昨日から、犬狼族の獣人の〇〇さんが犬歯を痛めて、歯医者さんを紹介したんだけど、すごい歯医者さんのこと怖がってた」とかそのような世間話を子どもの頃から聞いていた。
アポチは自身の両親のことを考えながら顔を上げた。
「なんとかなるだろ」一言つぶやき歩き出した。小さな一歩だが、大きな一歩だった。
アポチが暮らしている場所はパレット大陸にある人族が多いレッド王国の、カーマインと言う小さな町である。四季がり、現代日本と変わらない季節感である。
この世界は大陸がまるで楕円のドーナッツの様な形をしている。大陸の外側と内側を海に挟まれ、ドーナッツの中心には大きな島がある。
外側の大陸をパレット大陸、内側の島をクリア大陸と呼ばれている。
可愛らしいことに、「色」にちなんだ地名が多く様々な種族が住んでいる。
グリーン地方にはエルフが、イエロー地方には神人族が、ブラック地方には魔族が、ブルー地方には魚人族が・・・スカイ地方には鳥翔族がいるが、気をつけなくてはいけないのがブルーとスカイが似た色の為、間違えかける人がいるのである。
父ちゃんの話では昔この二つを間違えて扱った政務官がいた国が滅びかけた事件があったらしい・・・。
と、このように多種多様の種族が暮らしている。
「色」は万物が共有して持っている物であり、文字や言語といった文化でもなく、誰もが見て識別出来ることから、地名には色が使われるようになったらしい。
また、この世界でどこの国でも共通の決まりごとがある。
「数え年で15歳になる物は必ず就業するか連合大学院に就学しなければならない。」
そうなのである。どこの地方でもどこの国でも決まっている。
たいていの奴は就職する。連合大学院はとてもレベルが高いからだ。
連合大学院についてはまた説明することにする。
職につくのは実はとても簡単で、真実の水晶に向かい合うだけで自分の適性のある職業が脳裏に刻まれる。
また、同時に銀板に文字が焼付くので周知されることになる。
そしてその職業に人生を捧げ、一生を終えるのがこの世界の理なのである。
アポチはとても不思議でならなかった。誰もこのことに疑問を抱かないのである。
(良く分からない透明な石ころが自分の人生を決めるなんて・・・気持ち悪くないのか?)
誰もが15歳になるときまでは、将来に胸を膨らませたりしている。
魔法士になり、極大魔法を極め賢者として名を馳せたいと思ってたやつ。
騎士になり女性初の騎士団長を目指している娘。
皆、何か夢を見て歩んで来ているが、不思議なことに水晶と向き合う「刹那の儀」になると全てを無かったかのように何かを受け入れていた。
昨年、アポチはこの「刹那の儀」に参加していた。(ただの雑用補助係としてだが・・・)
ふとあの光景を思い出した。
水晶の前に並ぶ成人の人達の顔は様々だった。
期待に溢れた顔、不安に襲われ顔色の優れない顔、なぜか無表情の顔。
(この後だったなぁ。皆水晶の前に立った途端に、目の輝きが変わった。
あそこで一体何を見たんだろう?)
そしてアポチはさらに鮮明に思いだす。
(あのシルバープレートも気持ち悪かったなぁ・・・。)
神官のおっさんの横でプレートを持ってただけのアポチだったが、成人者が水晶に向き合いシルバープレートに手を乗せたほんの2、3秒ごには知らぬ間にシルバープレートに名前と適性職が刻まれていた。
いくら目を凝らしても、その瞬間を見ることが出来なかった。
これが、「刹那の儀」と呼ばれる所以だったのだろうと理解したのだった。
明日は自分がその儀式を受ける番になる。
正直に言って、期待半分不安半分だった。
(絶対に今日は寝れないだろうな)
そっとランプの火を消しながら、アポチは布団に潜り込んだ。
そして、闇と静寂が漂う部屋の中に静かな寝息が響いていた。