♯2
蛇腹はアナコンダの集会を開いていた。集会と言っても、大したものでは無い。ただ、メンバーを集めて、ダラダラと下品な話をするだけだ。
「あの女、すげえ乳でさぁ」
リーダーの蛇腹は金髪に、両耳には大きなリング状のピアスを三つずつ付け、さらには下にまで同じピアスを付けていた。蛇の名の通り、見た目も爬虫類を連想させる。
「あの女って誰です?」
「へへ、名前は知らね。可愛かったんで、路地裏に引きずって犯した」
「ぎゃはははは、蛇腹君って悪・・・・」
言い掛けた矢先、蛇腹の話に馬鹿笑いしていた、チャラそうな男の首が吹き飛んだ。
「え・・・・?」
目の前の光景が信じられず、蛇腹は、男の返り血を顔に浴びながら、茫然としていた。そこには黒い髪に鋭い目つきをした、明らかに普通では無い男が立っていた。彼はいつの間にか、蛇腹の目の前にいた。どうやら、信じがたいことだが、彼は手刀で、蛇腹の仲間の首を切断したらしい。
「うわああああああ」
蛇腹は絶叫した。そして、腰を抜かすと同時に、その顔を目の前の男の拳によって潰された。
「ぐげえ」
「おっと、お前だけは殺さないという依頼だったな。それ以外の奴らについては特に指示は無いから、殺しても構わんのだろう」
男が回し蹴りを放つと、そこから衝撃波のようなものが放たれ、周囲にいたアナコンダメンバーの奴らの体が横方向に真っ二つに切断され、宙に浮いた。
「さてと、後はお前だけだな」
「ひっ、テメーは誰だ?」
「兵士ガルドのバッツだ。さて、どうしようか。足腰立たないだから、骨折させれば良いのか・・・・?」
「よ、よせ」
蛇腹は怯えていた。無理も無い。目の前にいるのは間違いなく怪物だ。
「た、助けて・・・・」
「殺しはしない。そういう依頼だった」
バッツは蛇腹の首根っこを掴むと、コンクリートの壁に思い切り叩き付けた。
「ぐああああ」
背中を強く打ち付けて、その場にのたうち回る蛇腹。バッツはそれを静かに追い詰める。
「ひい・・・・」
「そろそろ仕上げにするか」
「ま、待て、あ、あれは美雪?」
「え?」
バッツが後ろを向いた瞬間、蛇腹は凄まじい速さで立ち上がると、サッとバッツから離れた。
「やっぱりかあ、美雪に頼まれたのか。あの女、俺がせっかく天国へ連れてってやったのに。殺してやるぜ」
蛇腹は言いながら走り去ってしまった。バッツは追い駆けようとしたが、自身の腹の鳴る音を聞いて、追うのを止めた。
「そうだ飯にしよう。確か、彼女との契約に期間は設けてはいないはずだ。まあ、今日か明日ぐらいに終わらせるさ」
蛇腹は何とか、アジトである廃ビルの中に逃げ込むと、瓦礫まみれの部屋の真ん中で、テーブル一杯に積み上げられた食事をガツガツと食べる、銀髪の若い男の足にしがみ付いた。
「お、おい。テメー、何飯なんぞ食ってやがる。仕事だぞ」
「ん、君は確か・・・・」
「蛇腹だ。テメー、せっかく用心棒として雇って、散々贅沢させてやっているというのに、ちっとも役に立たねえ。ええ、どういうことだ?」
「ふん、君からの依頼は、このアジトの防衛だろう。君の用心棒になったつもりは無いが。ところで、その傷はどうした?」
「けっ・・・・」
蛇腹は唾を吐いた。その中に、彼の白い歯も混じっていた。
「変な奴にやられたんだよ?」
「変な奴か。そいつは何か言っていたか?」
「ガルドが何とかとか、依頼だとか言ってたな」
「ガルドだと」
銀髪の男は突然立ち上がると、足にしがみ付いていた、蛇腹の体がひっくり返った。
「痛、怪我人を大事にしろや」
「ガルドか。名前とクラス名は?」
「知るかよ。なんだよそれ」
「名前は聞いていないのか?」
「え、あ、バッツとか言ってたな」
「バッツか」
銀髪の男は思うところがあるのか、顎に手を当てて低く唸った。
「兵士ガルドだな。そうか、私と同じ、しかもあの狂戦士のバッツが相手とは、暇つぶしに転生した世界だが、少しは楽しめそうだ」
銀髪の男はそのままスタスタと廃ビルの外へと出て行った。
「ちょっと待て、どこへ行くんだ?」
「ああ、忘れていた。君はバッツをどうしたいんだね?」
「あ、殺せ。殺してこい」
「了解だ。新しい依頼だな。しかし、暗殺の依頼は少し高くつくぞ」
「ああ?」
銀髪の男は蛇腹の首をつかむと、そのまま持ちあげた。
「うぐぐ」
蛇腹の両足が地上を離れる。
「人の命を奪うということは、自分の命も失うということ。私の報酬のモットーは等価交換だ。ゆえに、君も死ぬのだ」
銀髪の男はそのまま力を込めた。すると、蛇腹の目玉が飛び出し、コロコロとアスファルトの床に転がって行った。
「ふん」
事切れた蛇腹を投げ捨てた銀髪の男は、背後から殺気を感じ、ゆっくりとその方向へと振り返った。




