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キツネ耳少女、誓う

ヴィクシー・カークランド。



人間キャラと獣人キャラが入り混じった不思議な世界観の乙女ゲーム、「ラビットホール~恋するウサ耳~」通称「ウサ耳」に登場する悪役キャラクター。

彼女は、輝くような長いブロンドに、ピンととがったキツネ耳を生やした見紛うかたなきキツネ少女だ。



小さくてふわふわで繊細でか弱くて「攻略キャラ達に守ってもらわないと5分も生きられないんじゃないのこいつ?」と言いたくなるような主人公のウサギ少女……ミレーユ・ベルモントに対して、ヴィクシーは容姿こそ魅力的だが中身は嫉妬深く狡猾な悪女キャラだ。



「ウサギって寂しいと死ぬんでしょ?あ、でもこれ嘘なんだっけ?死ネタ持ち出してまで繊細アピールしたいの?本当に寂しいと死ぬ他の動物に申し訳ないと思わないの?」だの「シロツメクサの食べ過ぎで中毒死しないかしら」だの、ドストレートに暴言を言い放つ彼女の豪胆な暴挙はある意味ファンの度肝を抜いた。

そして真向からの悪事だけでも十分に凄まじいのに、彼女はあらゆる手練手管を使ってウサギ少女のミレーユを陥れようとする。



学園のダンスパーティーの日程をごまかして彼女をパーティーから締め出そうとしたり、彼女の名を騙ってクラスメイトに嫌がらせをしたり、その他色々。

キツネというステレオタイプ(?)のとおり、彼女はその聡明さや機転を全て悪い方向へフル活用した。



それでも私……まだ普通のゲームプレイヤーであった頃の「私」が彼女に感情移入したのは、他のキャラが何となく癇に障るからというのももちろんある。

だが、それ以上に彼女に感情移入、もっといえば同情、そして少しばかりの呆れを抱くきっかけになったのは、彼女の恋する姿勢だ。



彼女が恋する相手は、ゲーム上の攻略キャラの一人である「アレン・ダービー」。

キリリと整った眉に、氷のように冷たい青い瞳……青といっても夏の青空とか、どこまでも広がる青い海だとかそんな「まっとうに綺麗」な比喩はおよそ似合わない青。鼻筋はスッと通り、薄目の唇は微笑みすら零さない。髪はそこらの女性よりもツヤツヤでサラサラの黒髪。

肌はきめ細かく、大理石のようなお顔には今説明したコテコテの美形パーツが規則正しく配置されている。


つまるところ彼は、人間不信・ドS・クール系美形といった属性のキャラで、メインヒーロー格の位置づけだった。確かパッケージにもセンターのいい位置をドヤ顔で占拠してた気がする。

それで、哀れにもヴィクシーはそんな男に恋をしているのだ。




「ウサ耳」のなかで、ヴィクシーが最も活躍……そう、悪い方向で活躍するのはアレンルートに入ったときだ。基本的にヴィクシーは、どのルートでも大なり小なり出しゃばって主人公・ミレーユを虐げる。



そんで、各々の攻略キャラ達に報復される。ここで重要なのは、「ヒロインは直接手を出さず、報復にくるのが攻略キャラ達」ということだ。ヒロインはあくまで敵も気遣う優しい天使なのであって、それでなお美形の恋人に常に守られる立場にいるのだ。




それで、ヴィクシーが恐ろしく嫉妬に狂うのは彼女の想い人であるアレンと、主人公のミレーユが惹かれ合うアレンルートに入ったときのみ。




アレンは獣人キャラではなく、普通の人間のキャラクターとして登場する。彼は王族との繋がりも深い由緒正しい貴族の生まれで、それゆえプライドが高い。大人たちの醜悪な権力争いを幼いころから何度も目にしてきた彼にとって、他人は疑るべきものであった。



まぁ、それはいい。

私が気に入らないのは、アレンが選民意識の塊であるということだ。お前それ、お前が「汚い、信じられない」と再三言い続けてきた大人たちと同じような思考回路だぞ!と正面指さして怒鳴りつけたくなるような設定。にもかかわらず彼は、誇りと驕りをどこまでも勘違いした俺様クール系ドSキャラとして成長した。

極めつけとなるのが、「アレンは獣人を差別し軽蔑し、徹底的に冷遇する」という設定だ。




彼は歪んだ差別意識とプライドの高さで獣人を差別し、虐げているのだ。

「イケメンなら俺様でもプライドが高くても周りを虐げてもいいと思うなよ!!」と何度言いたくなったことか。人によっちゃ「単なるさわやか系キャラにはない歪んだ設定があるイケメンなんて素敵!」と感じる設定らしいので、本当に始末に負えない。




そんな差別主義者であった彼は、ウサギの獣人であるミレーユの優しさや温かさに触れ、獣人に対する意識を改める。つまり改心するのだ。あっさりと。

ちょっと自然な態度で接された、態度を改めるように指摘されただけで、彼が幼いころから抱えていた差別意識がいとも簡単に矯正されたのだ。




獣人の女に現を抜かして「じゃあ獣人に対する意識を変えまーす」なんてお前それが通用すると思ってるのか!!お前がミレーユの優しさに蕩かされてふにゃふにゃになって皆と仲良くなります宣言するのは勝手だけれどそれで今までお前が働いてきた狼藉が許されると思ったら大間違いだぞ金持ちのクソ坊ちゃんよぉ!?と凄みたくなる展開だ。



重ねていうが、ゲーム上のヴィクシーはこんな男に恋をする。顔も家柄も頭脳も身体能力もいい、けれど獣人を軽蔑し続けてきたような男に。イケメン補正があって甘やかされてきた代表格のようなキャラに。

彼女はその美貌をフル活用して彼にアプローチするが、「獣の女に興味はない。俺のそばにいていいのはミレーユだけだ」と冷たく鼻で笑われて玉砕する。ウサギ娘であるミレーユを傍らにおいて「お前しか俺を癒してくれるヤツはいない」と甘い低音ボイスで口説いておきながら、同じ口で「獣の女」という言葉でヴィクシーを貶めるアレンの人間性を、私は心底疑った。



そこからヴィクシーは、アレンではなくアレンの寵愛を勝ち取ったミレーユに本格的な憎しみを抱き始めるのだ。あの女さえいなければ、同じ獣人なのに、なんであんな女が……!!と憎悪を募らせ、ミレーユを苛め抜く。そしてアレンに報復を受け、顔に傷をつけられる。剣で。ちゃんと切れるガチな剣で。そして強制退学をさせて学園から追い出す。ついでにヴィクシーの実家にも圧力をかけ、家族全員を混乱の渦に突き落とす。



そんなことがあっていいのか!!

確かにミレーユを虐めてたのはヴィクシーだよ!?

勉強も運動も平均値なミレーユを見下して、「ウサギの女ってこの世で一番得な立場にいると思うわ。だって自分を守ってくれる相手になら誰であろうと従順に身も心も捧げられるんだもの。」とかそういうひっどい暴言を吐いたりするのもヴィクシーだよ確かに!!



だからってアレンお前、関係ないヴィクシーの家族にまで圧力をかけるなんてちょっと反則だぞ!!やるならヴィクシーだけを狙えよ!!好きな女の前でダークヒーローぶりたいのはわかるけど!!!



正直に言って、ゲームをプレイしていた私…「前世」の私はこのアレンルートが大嫌いになった。もう二度とこいつを攻略対象にはするまいと、固く心に誓った。

それが今はこのざま。



攻略どころか、私は今後、事と次第によってはアレンに報復される惨めな女狐になるかもしれないのだ。そんな展開断固拒否する。

面倒くさい攻略キャラ達とヒロインなんか無視して、自由に生きる。


今の私ができること、というよりすべきことはこれに尽きる。

私はブロンドの髪の毛から生えたキツネ耳と、ドレスの穴から出ている立派な尻尾を心もちピンと張って、固く誓うのだった。


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