キツネ耳少女、気づく
色々勘違いしてしまって初っ端から大幅な加筆修正をする羽目になりましたね!
大人気乙女ゲーム「ラビットホール~恋するウサ耳~」。
この乙女ゲームの特徴は、その攻略対象者にある。
攻略対象者が全員イケメンなのはもちろんだけど、そのなかには人間のキャラに混じって……
狼やキツネ、ヒョウといったイケメン獣人キャラもいるのだ。
獣人といっても、ケモミミとしっぽが生えている程度のよくいえばライト、悪く言えばぬるい獣人キャラなのだけれど。
このラビットホールは、主人公であるウサギ少女が、人間や獣人のイケメンキャラと悲喜こもごもの恋を繰り広げる、そんな乙女ゲーム……。
その世界に、私は転生した。
主人公のウサギ少女としてではなく、
悪役のキツネ少女として。
そんな馬鹿なと言いたい気持ちはわかるけれど、むしろそのセリフを一番言いたいのは当の私なんだけれども。これは紛れもない事実だ。
見知らぬベッドの上でぱちり、と目を覚ます。
ベッドだけでなく部屋においてある家具全てが見慣れぬそれに変わっているのを見て、ただならぬ不安や恐慌が寝ぼけ眼の私を襲った。
ここはどこ、と呟くと同時に、私はベッドから弾かれるように立ち上がっていた。
部屋の隅に置いてある姿見の鏡の前に立ち、自分の姿を確認してみる。
その鏡に映っている姿が、いつもの見慣れた自分……こげ茶色をしたセミロングの髪、スリム……というより貧相な体形、なんとなく印象が薄い目元の女性であることを祈って。
しかし、その祈りはわずか2秒で崩れ去る。
鏡に映っているのは没個性を擬人化したような姿の「私」ではなく、性格が悪いつり目少女を体現したような姿の「私」だった。
嘘、これが私……!?と何やらメイクやヘアアレンジで生まれ変わった女性のような呟きを漏らしながら、ひとつひとつその姿形を確認する。
もちろん、そこには焦燥や混乱という感情しかない。
髪はまっすぐに伸びたロングヘア。
光の当たり方によっては、夕日のようなオレンジ色にも燃えるような赤毛にも見える、見事なブロンド。窓から差し込む朝日に照らされて、その髪の毛は大げさなぐらいにキラキラと輝いている。
背はすらりと高く、160センチ半ばぐらいまではあるだろう。すごい。デルモ体形ってやつですか?
しかも驚きなのが、細いわりになかなかどうして立派な膨らみが!
女性を象徴する膨らみ、いやもう普通に言っちゃおう、おっぱいがちゃんとある!!
「前の私」は、せいぜいBカップ程度の貧乳をひっさげて、いやひっさげる胸なんかじゃないけど、そんな薄いお胸を持った女性だった。
それが、「今の私」……赤みがかったブロンドのほうの「私」は、すらりとした長身でありながら大きさも形も完璧なおっぱいをむんと張って立っている。
こ、これは……Dカップはあるな……。
と、ここでハッと新しい自分のおっぱいにテンションが上がっていることに気付く。
朝起きたら別人になっていた、なんて事実はそれだけで大変なことなのにおっぱいひとつでそれが吹き飛びそうになっていた自分が情けない。
改めて、自分の姿を観察する。
ほっそりとした輪郭のうえには、キリリと結ばれた唇、スッと通った鼻筋、そして……怜悧に吊り上がった、オレンジ色の瞳が配置されていた。
ものすごい目力。
人を惹きつけも殺しもする鋭い眦だ。
この特徴を観察して、私はようやく思い出したのだ。
私は、いや正確には「彼女」は、乙女ゲーム「ラビットホール~恋するウサ耳~」の悪役、キツネ少女であるということを。
キツネ少女の名はヴィクシー・カークランド。
そして私は、何らかの理由で「彼女」になってしまった。