視力の話
異常に目が悪い。
コンタクトは怖いので、メガネを愛用しているが、メガネを掛けていても夕方以降、自転車に乗るのは控えている。
人を引いたら困るからである。
母曰く、私は超難産だったらしい。
生まれたとき、チアノーゼが出ていて、体重は3000gを越えていたのに保育器に数日入れられていたそうだ。
生まれるときに頭の辺りで引っ掛かっている時間が長かったので、視力に影響が出たのではないか、というのだ。
そのわりに、母は私になかなかメガネを掛けさせてくれなかった。
教室の一番前の席に座っていてなお黒板の字が読めないのに、である。
お陰さまで、小学校6年生まで、私は無駄にアホだった。
ノートをとれないのだから、そりゃ成績が伸びる訳がない。
6年のときの担任のクラゲ先生が家庭訪問で、「お母さん、愛さんはほんとに目が見えていません。メガネ作ってあげてください。」と言ってくれるまで、私はほぼ直感だけで生きていたのである。
初めてメガネを作りに行ったときには、すでに両目で0.1も視力がなかった。
ちなみに、母がメガネを作ってくれなかった理由は、「メガネっ子にしたくなかったから。」だそうだ。
ならもうちょっと上手に出産してくれ....。
でもそのお陰で、大人になってから一度だけ行った小さな眼科では、少々面白い体験ができた。
まず、視力検査である。
当然、裸眼では両目で見ても一番上の輪っかが見えない。
そうすると、おもむろに看護師さんが胸の辺りに手を掲げてゆーっくりゆーっくり近寄ってきた。
「ハイこれ何本かわかりますかぁわかりますかぁー。」
怖い。
要は看護師は指を何本か立てていて、それがわかった地点で私の視力を予想しよう、と言うのである。
早く答えなければ、このおばちゃんはどこまでもゆーっくりゆーっくり接近してくるのだ。
「さ、3本!」
「はい、診察室へどうぞー。」
今もって、これで私の視力がどれだけ正確に測れたのか、よくわからない。
次に診察である。
なかなかご高齢のおじいちゃん先生は言った。
「うん。あなたはね、目を使わない職業に就きなさい。どんどん悪くなるだけだから。処方箋出しとくからねー。」
.....目を使わない職業。
面白いことを言う。
一応、なんとなくは見えていて、とりあえずメガネで矯正もできていたにもかかわらずのこの診察。
ただ者ではない。
だが、それでは困るのである。
だからこの病院には(面白かったけど)二度と行かなかった。
実はもうそろそろ、メガネでは矯正できないところまで、私の視力は低下している。
コンタクトならまだいけるのか?
そこら辺は病院に行っていないのでわからないが。
しかし、さすがは年の功。
あのおじいちゃん先生の診察は、超アナログでアバウトなわりに正確だったなと、スマホのちぃさぁい字をポチポチと打ちながら思う。
ごめんね、せんせ。