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対決

********


 泉はとても不思議な気分で、朝食を夜刀と並んで食べていた。八重は孫のような存在の夜刀が偶然にも泉のことを守っていてくれたことに深く感謝していた。


「まさか、泉がオレの遠い親戚だったなんて世間ってのは、案外狭いもんだな!」

「もしかしたら、何かが夜刀を導いてくれたのかもしれないね。(笑)」

「そうかもしれないな。それに、泉は従姉で義姉さんでもある光に良く似てるんだ」

「織衣の息子の真澄の嫁になったあの光という娘だね。話は聞いてるよ。そうかい、泉と似ているのかい(笑)」


 たまたま通りかかったつもりだったが、夜刀は無意識に何かに導かれていたのかもしれないと八重に言われて、光に良く似た泉を前に夜刀は亡き祖母のことを思い浮かべていた。


「それで……これから、どうやってあの老婆を祓うの?」

「そうだな……泉はまだ、自分の能力がわからないんだよな……オレが一気に祓っちまっても良いけど。どうする?」

「出来るなら、魂を浄化してあげたい。お祖母ちゃん! どうやれば良いの?」


 心優しく育った孫娘を嬉しそうに八重は目を細めて見つめると、その手を取って頷いていた。


********


 八重は、優しく泉の手を自分の両手で包み込むように握りしめて、何かを確かめるように泉の手に意識を集中させていた。


「大丈夫……。泉の中にも私と同じ能力が眠っている。きっと、強く望めば力は開放されるだろうから、心配ない」

「へへへ♪ だったら、行くか? 早くしないと、泉の友達がそろそろ危ないぜ!」

「嘘っ!? 誰?」

「久美ちゃん? だったかな?」


 夜刀に久美が危ないと知らされた泉は、急いで服を着替えて靴を履いて玄関を出ると、夜刀を真っ直ぐ見つめて力強く叫んでいた。


「お願い夜刀……私たちを助けて!!」

「へいへい、喜んで~(笑)」


 泉に助けてと言われて嬉しそうに返事をすると、夜刀は泉の手を取って久美の所へ向かって走り出した。


********


 夜刀に手を引かれて泉が連れて来られた場所は、久美の家ではなくて雷太と原西が入院中の病院だった。


「久美……病院にいるの?」

「ああ、ここにいる。もう一人いるみたいだ。紗由理ちゃん? だったかな?」

「やだ……紗由理も一緒なのね。無事でいてくれたら良いけど」

「まだ、大丈夫だ!」


不安そうに病院を見上げる泉の手を強く握りしめて、また夜刀は走り出した。


「急がねえと、他の地縛霊や怨霊化しかけている奴らが集まり出してるぜ!」

「どうすれば良い?」

「奴らが見えたら、泉は強く望めば良いだけだ! もとの姿に戻って光の向こうへ行けってな!」

「わかった。やってみる!」


 光の力の使い方を夜刀に教えてもらった泉は、強く夜刀の手を握り返して不安な気持ちを封じ込めようとしていた。


「大丈夫だ! 奴らも生きてる頃は普通の人間だったんだから、怖がることなんか何もないだろ?」

「そうだね。うん! ありがとう夜刀!」


 そして、泉と夜刀が3階の雷太の病室へ行くと……怨霊化した老婆に久美が、掴みかかられて悲鳴をあげていた。


********


「イヤァァァァァァ―!!」


 病室の隅に追い込まれ、気味の悪い形相の老婆に掴みかかられて久美はパニックを起こしかけていた。


「久美!! 久美!!」

「泉!! 助けて泉!!」


 久美の名前を必死に叫んで手を伸ばして久美の手を取り、泉は久美を自分の方へ引き寄せて助け出すと、夜刀に言われたとおり老婆に近付いて自分の両手で枯れ木のような老婆の腕を掴んで強く望んで老婆に語りかけていた。


「お願い!! あなたはもう死んでるの……もとの姿に戻って光の向こうへ行って!! このままじゃ、あなたは闇の底へ葬られてしまいます! お願い……もとの姿に戻って!」

【ウウウウウウウ……オマエナドニコノクルシミガ……ウウウウウ】


泉の言葉に必死に抵抗しようとしている老婆の過去の記憶が泉の頭の中に流れ込んで来た。


流れ込んで来た老婆の記憶は、鮮明な映像のように泉の頭の中に映し出されていた。この怨霊化した老婆は、もともとあの家に一人で住んでいた高坂ナツという女性だった。ナツは二十年前の8月に運悪くあの家で、強盗に押し入られ首を絞められて殺され……放置された。天蓋孤独の身であったがために死んだことも誰にも知られず……葬ってもらうことも出来ないままあの廃屋で二十年間恨みを募らせていたようだ。


********


【オマエナドニワタシハ……ハラエナイ!!】


 老婆はもの凄い力で泉を跳ね除けると、目の前から姿を消してしまった。


「嘘っ!? どこに消えたの?」

「やべえ!! 原西の病室に行っちまった!」


 老婆の怨念があまりにも深いものだったので、経験の無い泉にはすぐには浄化することが出来なくて逃がしてしまった。


「行くぞ!!」

「あ、うん!」


夜刀に手を掴まれて泉は原西がいる4階の病室へ急いだ。


「浄化出来そうになかったら、オレがやっちまうからな!」

「わかった! でも、もう一度やらせて!」


原西の病室に駆け込むと……やはりそこには、老婆が紗由理を病室の隅に追い詰めて不気味な笑い声を部屋中に響かせていた。


「紗由理!」

「泉! 来ちゃダメ! 泉までやられちゃうよ!」


紗由理は、必死になって老婆を振り払い泉に来るなと叫んでいた。


「やだ!! 絶対に助ける!」


泉は紗由理にそう叫ぶと、老婆の後ろから両手をかざしてさっきよりも強く老婆が浄化することを念じていた。


********


 すると老婆は真っ白な光に包み込まれて生前の姿を取り戻していた。


「やったぜ! 泉、あとは光の向こうへ導いてやるだけだ!」

「うん! ナツさん? あそこに見える白い光にゆっくり進んで下さい。あの光の向こうへ行くんです。そうすれば、もう苦しまなくて済みます」

『ああ……暖かい光だ。もう苦しまなくて済むんだね……ありがとう』


 先程まで抵抗していた恐ろしい形相の老婆が、泉の白い光の力で浄化されて嘘のように優しい普通の老女に姿を変えて光の向こうへ消えてしまった。


「やったじゃねえか! 初めてにしては、上出来だ! 良くやったな♪」

「ありがとう……夜刀……何だか凄く疲れたよ……」

「おいっ!? 泉! 泉!」


 初めて自分の能力で怨霊を浄化することが出来た泉は、緊張が解けた途端に気を失って夜刀の腕の中に倒れ込んでいた。


********


 倒れ込んだ泉をしっかりと夜刀は、抱き止めてその場に座り込んで苦笑していた。


「不味いな……まだ終わってねえんだけど。初心者の泉には、これが精一杯なんだろうな……へへへ」

「い、泉? だ、大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だ!」


意識を失って倒れた泉を見た紗由理が、慌てて側へ来て泉の顔を覗き込んでいた。


 すると、廊下をバタバタ誰かが走って来て悲痛な叫び声も聞こえたので、何事かと紗由理が急いで病室のドアを開けると、笹塚が息を切らして飛び込んで来た。


「病院の中に……すごい数の黒い影が徘徊してるんだ! いったいあれは、何なんだよ!」

「そりゃ……あれだ。あの世に行くことも出来ずにこの世をさまよってる魂だ。中にはあの婆さんみたいに怨霊化してるやつもいるかもな!」

「そんなのどうすんだよ!」 


 パニクる笹塚を夜刀はじっと見据えて泉を抱えたまま立ち上がると病室にある長椅子に泉をそっと下ろしてから、笹塚を指差して叫んだ。


「お前も男なら、泉と紗由理ちゃんをしっかりここでガードしてろ!! 奴らはオレが何とかしてやる!」

「あ、ああ! わかった!」


夜刀の言葉に笹塚は、ハッとしたように目を見開くと……背筋を伸ばして泉と紗由理を見てから、夜刀の目を真っ直ぐ見つめて頷いていた。


********


 病院の中をさまよう魂たちを見て、夜刀はひとつ大きな溜め息を吐くと屋上へ向かった。


(浄化させないまま、消してしまったら泉のやつ……怒るんだろうな……)


 泉の怒った顔を思い浮かべて夜刀はもうひとつ大きな溜め息を吐くと、集まって来た魂たちに向かって両手をかざしていた。


「あかん! 待って夜刀!!」


 夜刀が目を閉じて意識を集中させていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえて驚いて目を開けて振り返ると、そこには懐かしい姿があった。


「夜刀! 待って! 私がやるから!」

「……光!? どうして?」

「詳しい話は、後で! とりあえず、この沢山の魂を光の向こうへやらんとね!」


 光はニッコリ笑って夜刀の前に立つと、魂たちを白い光の力で全て浄化して光の向こうへあっという間に導いてしまった。



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