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 雷太が入院している病室へ行くと、部屋の前にある長椅子に雷太の母親の京子が疲れはてた様子で座っていた。


「京子さん! 雷太の怪我の具合は?」

「ああ、泉ちゃん。心配して来てくれたのね、ありがとう。怪我の具合は右足を骨折した位で済んだんだけど……」

「京子さん、顔色悪いよ! 雷太……怪我以外に他にも悪いとこがあるの?」


 自分の母と古くからの友人関係でもある京子の横に座って、泉が雷太の様子を訊ねると……京子は泉の右手を両手で握りしめて涙ぐんでいた。


「島から帰って翌日の夜から、少し様子が変だと思ってはいたんだけど……」

「ら、雷太……ど、ど……どこか変だったの? 昼間は普通だったのに……」

「あの日の夜よ……夕食の後に雷太が自分の部屋で誰かに向かって大声で叫んでいたのよ……こっちに来るな!ってね。慌てて誰かに何かされてるのかと心配して部屋のドアを開けたら、そこには雷太しかいなかったの……」


 泉とそのすぐ側で話を聞いていた4人は、雷太が誰に向かって叫んでいたのか想像することが容易だったこともあって、お互い顔を見合わせて息を呑んでいた。


********


 京子の話では、その夜から雷太が何かに怯えて常に背後を気にして落ち着きがなくなって、突然大声で何度も「来るな!」と叫んでパニックを起こして明らかに雷太は普通ではなかったようだ。


そして昨日の夜、事故にあった時も雷太が何かに怯えて自ら道路へ飛び出した様子が車載カメラに映っていたことを肩を震わせながら京子は泉たちに詳しく話し終えると泉の手を握ったまま立ち上がっていた。


「とにかく雷太に会ってやって! 泉ちゃんたちになら、何か話すかもしれないし」

「そうだね……」


京子に手を引かれて病室へ入ると、片足を吊るされて顔や腕も怪我をして見るからに痛々しい姿に変わり果てた雷太が、天井を見つめたままベッドに横たわっていた。


********


 いつもの雷太なら、泉たちの顔を見て明るく笑いながら「やっちまった!」と言っておどけてくれただろう……。


しかし、今の泉たちの目の前にいる雷太は脱け殻のようにピクリとも顔を動かさずにただ黙って病室の天井を見つめていた。


「雷太……わかる? 泉ちゃんよ!」

「…………」

「ちょっと、雷太? ふざけてるなら怒るからね!」

「おい! 雷太! 何か言えよ!」


 母親の京子の呼びかけにも全く無反応の雷太を見て、泉たちはベッドを囲んで必死になって雷太に呼びかけたのだが、雷太が反応することはなかった。


「雷太……どうしちゃったの?」

「まるで魂が抜けちゃったみたいだよね?」

「怖いこと言うなよ!」


泉たちが雷太の変わり果てた姿を見て、驚きを隠せないでいると……事故の後、雷太はまだ一言も言葉を口にしていないのだと、京子は啜り泣きながらその場にしゃがみこんでしまった。



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