はじまり
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毎朝。この広大な海の前でじっと目を閉じて瞑想の真似事をしてから、学校へ登校している佐野泉は、この港町に幼い頃から母方の祖母の家で暮らしているごく普通の真面目な高校3年生だ。
そして、泉は明日から高校生活最後の夏休みを迎えようとしていた。
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「ねぇ~! いいじゃん。肝試しに泉も一緒に行こうよ♪」
「えーっ!? 肝試し? うーん。どうしようかなぁ……」
一学期の終業式を終えて家に帰る途中、親友の鎌田紗由理と太川久美に港から船に乗って一時間程で行ける島の小さな村の外れにある廃屋へ肝試しに行かないかと誘われていた。
「私たちだけじゃないんだよ! 1組の原西と笹塚も一緒に行ってくれるって!」
「嘘っ!? マジで?」
「それと、同じクラスの松河雷太も……雷太が原西と笹塚を誘ってくれたんだ♪」
原西佑樹と笹塚優と言えば、校内で5本の指に入るイケメンたちなので泉に誘いを断る理由なんてなかった。
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泉は、二つ返事で誘いに乗って紗由理たちと、この週末に肝試しに行くことを約束して帰宅した。
夏休みと言ったところで、泉の両親は泉を祖母に任せっきりにして都心に働きに出たまま帰る様子もないので、どこかへ家族旅行へ出かけるなんて予定もなかった。生真面目な泉としては、廃屋へ行くのは少し気が引けるが……高校生活最後の夏休みということが泉の背中を押していた。
そして、この肝試しが後々巻き起こる恐怖のはじまりであることなど、泉には想像することなんて出来るはずもなかった。