9.テンプレを繰り返されるのは、当事者には辛いものがあるわけで……
俺は御老公様でも将軍様でもお奉行様でもないんだからね!
お願い、ハチかもしれないというのは言わないでくださいorz
久々の宿で一夜明けたわけだが、朝食前にシュヴァルツ達の世話をしている最中に、宿の使用人に呼ばれた。
支配人からという事で、応接間に通される。
そこには支配人とは別に、若く身なりの良い人物が待っていた。
「お呼びという事ですが、どのような用事でしょう?」
「恐れ入ります、お客様。こちらはこの街をお治めになられている、タンドール侯爵様の使いの方です」
「朝早くから申し訳ございません。私はタンドール家侍従の者です。実は折り入ってお願いがありまして、貴方が連れている馬を譲って欲しいのです。我が主であらせられるタンドール侯爵様があの馬達を気に入られ、是非とも手に入れたいと仰せになりました。これはタンドール侯爵領に住む者にとって、大変名誉な事なのです」
丁寧な口調なんだが、態度が慇懃無礼なのに気付いてない様子。
上から目線の見下し感がハンパない。
コリャあ以前のバカ商人と同じ人種なんだろうな。
「そのお話はお断りします。あの馬達は我が国の国王陛下が所有するものですから、誰かにお譲りするという事はできません。それに……」
「なんですと?! 貴方は我が名誉ある申し出を断るというのですかっ?!」
アー、こっちの話をぶった切ってきたよ……しかも、上から目線は相変わらずで、貴族に仕えていながら他国の国王を蔑ろにするとは……
「そ・れ・に、我々は魔王退治に向かう途中なのです。その任を放り出すわけにはいきません。そもそも、我が国の国王陛下の持ち馬を配下の者が勝手に処分する事は、国王陛下に対する背信行為で……」
「誰が貴様の国の事を聞いているっ! 私はあの黒馬を譲れと言っているのだっ! 貴様の背信行為だかなんだか知らないが、そんな事は知った事かっ!!」
無茶苦茶だな、ヲイ……殴りたくなってきたよ。
「それはあんたの主人も同じ考えなのか?」
「……あんただと…………貴様! 誰に向かって言っているのか分かって……」
「お前の立場なんざぁどうでも良い。我が国の国王陛下の持ち馬を……」
「どうでも良いとは何事だ?! きさ……」
面倒臭くなったので、馬鹿の口を右手で捕まえて無理矢理閉じる。
「人の話を最後まで聞けよボケ。
お前の言っている事は我が国の国王陛下に対する侮辱である。それは外交問題に発展しかねない程の事だという自覚はあるのか? 下手をすれば戦争だぞ? その原因が馬を強請る行為だとしたら、お前の名がその馬鹿さ加減で歴史に刻まれる事になるが、それでもいいのか?
ついでに言えば、何の対価も無く物を持って行く行為は盗賊と変わらないからな。この国では権力者が盗賊行為を行うのが普通なのか? お前がやっている事はこの国を貶める行為だという事を自覚した方がいいぞ?」
ついつい右手に力が入ってしまうなぁ。まあ、交渉やら説教やら苦手だから、これで引かなかったらカチコミかな? 我ながら単純で短気だとは思うけど……いずれにせよ、良い結果にはならないだろうな。
シュヴァルツ達を寄越せなんて言われたから頭に血が上ってしまったが、結局は力押しか……ま、これ以上手出しされるのなら、ガキの特権と思って暴走してみようか(邪笑)
馬鹿を放すと、奴はこちらを睨み付ける。
あ、これは解ってないな。
馬鹿は立ち上がると無言で部屋を出て行った。
「支配人、どうやらこのままではご迷惑になりそうです。すぐにここを出ます。倉庫はあれ以上手を加える時間が無いので、そちらで手を入れるなりして下さい」
「……ああ、大丈夫です。後はこちらで……」
支配人が承諾してくれたので、部屋から荷物を出してくる。
「シュヴァルツ、済まないけど、お前達を寄越せと言ってくる奴が現れた。急いで街を出るからな」
「ブルルルルル」
シュヴァルツが頷くと、ユニコーンとバイコーンが馬車の前に移動する。俺達の会話を聞いてるから、さっさと動いてくれるのはありがたい。
二頭を馬車に繋ぎ、宿を出る。
西門へ向かうと、街道をふさぐように兵士達が陣取っている。だいたい三百名に足りないくらいかな。盾と長槍を構えて、道幅いっぱいに二十人の五段構え。その後ろに、剣と盾を装備した兵が同数、更にその後ろに弓兵が三段、あとは騎兵が残りを占めている。
そして最後尾に、馬車の屋根に乗ったあの馬鹿がこちらを見下ろすように立っていた。
「領主様の馬を盗んだ盗人よ! 逃がしはしない! おとなしく捕まるんだな!」
盗っ人猛々しいとはこの事かー。やっぱなー(棒読) こんなテンプレいらんっちゅーに……
思わずとーい目になってしまう。どっかの領主なら「テンプレktkr!」と大歓迎なんだろうが、俺は疲れてしまう方なんでな。ありがたくねぇ。ハリセン持ったツッコミ神もいないし。
なんて思ってると、シュヴァルツの様子が変わる。
その姿は全身が黄金に輝く、どっかのファイターのスーパー○ードか、スーパー野菜人のようだ。こっちは正しく猛々しいよな。
「シュヴァルツ! それはいろいろ問題があるからやめとけ!」
俺の声が聞こえたのか、金色の輝きがしおしおと消える。ちょっと恨めしげにこっちを一睨みし、兵達に向かって駆けだした。
とたんにひるむ兵士達。体高五メートル越え、頭頂までなら七メートル程もあるシュヴァルツが、勢いを増しながら重い地響き立てて向かってくるのだ。これを見てびびらないのは、相当な猛者だろう。
そしてその最前列の手前で大きくジャンプ!
前方の馬車に乗っている馬鹿を前足で引っかけ、馬車の向こうへと落としたんだが、ここからは見えないので奴がどうなっているのかは判らない。
おそらく、プチッとされたんじゃないかと思うが……いずれにせよ、馬鹿に相応しい犬死にだったな。
おっと、その間に、ユニコーンとバイコーンの様子ががががが……風雪纏うなユニコーン! 雷光纏うなバイコーン! こっちは生身の人間なんだ、寒さにも雷にも弱いんだ!
硬直している俺の事なんか頭にないコイツらは、グッと力を溜め、一気に加速しやがった!
硬直している俺の事なんか全く頭に無いんだろうな!
単純脳筋な奴らめ!
防衛ラインを易々と突破し、轢かれた百名ほどの兵達は死屍累々、恐らくその半分は死んでる。もろに踏まれてたし。
残りも復帰は絶望的だ。
正直悲惨すぎてこっちは言葉もない。
まあここは、三十六計というやつで逃げるに限る。
こんなアホな国にいたら、魔王退治どころじゃない。これ以上トラブルはゴメンだ。
とっとと西門を抜け、街道をひた走る。
十日程かけて三つの村を通り過ぎ、再び城壁に囲まれた街へとたどり着いた。
門の前で人々が並んでるのを見て、再び嫌な予感が……
二時間以上かかって漸く街に入る事が出来たが、今度は前方から装飾過多の馬車が来るのが見える。
護衛の兵士が五十人以上でその馬車をぐるりと囲んでおり、だいぶ物々しい。
俺は馬車を右側に寄せる。この世界では、馬車は右側通行が基本なんだぜ。
馬車が右に寄ると、シュヴァルツも合わせて右に寄ってくれる。指図しなくても動いてくれるから助かるよな。
だが、装飾過多の馬車を囲っていた兵達の半分が、シュヴァルツの前に立ちはだかった。無論、槍も構えている。そして装飾過多の馬車が側まで来た。
ドアが開き、従者と思われる人物が降りて来て、こちらの馬車のドアに向かって一礼する。
シュヴァルツ達の秣を詰め込んでるだけなんだけどな。
「貴方のお連れになられている黒馬とユニコーン・バイコーンを我が主が気に入られました。ぜひ我が主へ献上して栄誉を賜わらん事を願います」
あー、こいつも慇懃無礼な奴かー。シュヴァルツが切れないといいけど……ぁ。
ドガシャッ! グゴゴンッ! メキャメキャッ!
早速、装飾過多な馬車の破壊活動に勤しむシュヴァルツさんでした。
周囲にいた護衛兵達が槍で応戦するが、なんと! シュヴァルツの周囲に見えない壁があるらしく、攻撃が届かない!
因みに俺は何もしてないよ? こっちに向かって来る槍を結界で防いでるから。
ユニコーンは氷の槍を飛ばすし、バイコーンは角から雷撃を飛ばしている。
当たり具合が良くて腕や足が千切れてる程度で、後は腹を貫いてるか頭が吹き飛んでいるかだ。
シュヴァルツに蹴られた奴なんて、五体バラバラで胴体はミンチになってるし。
バラバラになったのは、破壊活動を始めたシュヴァルツに大声で抗議しながら近寄った所を後足で蹴られた従者だ。
いきなり始まった惨劇に周囲は阿鼻叫喚となり、街の人間がこちらから見えない所へ避難した。
人がいない今のうちに、サッサと出発する。この国は貴族という名の盗賊ばかりかよ……
二週間かかって三つの村と一つの街を通り過ぎ、王都についた。
ちなみにその街でも領主の使いがやって来て、シュヴァルツ達を寄越せと言ってきた。無論、シュヴァルツ達が蹴散らしたわけで、いい加減ウンザリしている。
そんな心境でいるというのに、今、王都の門前に軍が展開している。明らかにこちらを敵として認識し、布陣しているとしか思えない。
シュヴァルツ達の走る速度と走破距離が桁違いなので、誰にも追い越される事はなかったはずだが……
それでも王都を通らないと、とんでもなく遠回りになってしまう。
そのまま進むと、十騎程の隊がこちらに歩み出てきた。
「黒馬とユニコーン・バイコーンの持ち主に告ぐ!
それらの馬は国王陛下が持つに相応しいものである!
よって、貴様にその馬達を献上する栄誉を与えよう!」
この国全体がこうなのか!?
俺はアキレたが、シュヴァルツはキレた。
前方の軍に対し、正面から突撃する。
ユニコーンとバイコーンも続いた。
軍の連中が狼狽えた瞬間、シュヴァルツが強烈な威圧をかける。
硬直する者がかなりの人数になったらしく、まとまった動きができなくなったところにシュヴァルツが前足で蹴散らし、踏み潰していった。
軍列の中央から左右に分断されたところで、ユニコーンが左側の連中に氷の槍を、バイコーンが右側の連中に雷の矢を連射で放つ。というか、ほとんど弾幕。だって、一秒毎に二十発以上が一斉に斉射されるんだぜ? まるで砲台だ。避ける間なんざこれっぽっちもない。
氷槍に貫かれ、雷で感電し、立ちはだかった連中は蹴散らされた。
生き残ったのは後方にいて、さっさと逃げ出した者だけ。
あとは悠々と街門を潜って西門を目指す。
王都は広いのだが速度はあまり出せないので、通過するのに三日はかかるかもしれん。
人や馬車の通りが減った、王都中央の大通りを進んでいく。
予想外に速いペースで進めるので、この様子だと今日中に王都の中心より西側まで進めそうだ。
だが、大きな通りと交差している十字路に差し掛かった所で、大通り前方の複数の横道から兵士が現れ、隊列を成して楯と長槍を構える。
今度は待ち伏せされていたので、左右の大通りにもすでに部隊が並び、楯と長槍を構えていた。
それぞれ三百人を超えるほどだろうか。右側の大通りの向こうには城が見える。
正面の軍列から、重装鎧を着た騎士が前に出て来た。
「国王陛下の御許である王都を騒がせる賊に告ぐ! 直ちに降伏せよ!」
そりゃまあ騒ぎを起こしてはいたけど、そっちから突っかかってきたんじゃないかよー。
それを全てこっちのせいにされてもなー。
そんな事を考えていると、不意にシュヴァルツが城の方を見た。そして、城に向かって歩き出す。
「おい! シュヴァルツ! 一体どうしたんだ?!」
一歩一歩、何かを確かめるように、城を睨みながら進んで行くのを見ていると、俺にも判る気配がある。
かなり強い魔物の気配だ。
どうやらこの国の中枢に、強い魔物が巣食っているらしい。
この国がいろいろオカシイのは、魔物のせいなのか?
たぶん、そうなんだろうな。
シュヴァルツの前に陣取っている兵達が、素直に道を開けた。
王城の正門前に到着したのは日が沈みかけた頃。
当然正門は閉じている。
恐らくシュヴァルツは、もし人間の姿であれば、仁王立ちしている事だろう。
気分的にはそれで違いない、ウン。
あれ? 魔力が集まっている?
って、オイ待てコラ待てちょっと待て!
シュヴァルツの前に魔力が集まって巨大な光球になっていく?!
これは……集束魔法?!
マサカ?! 星の光で砕くアレか?!
叩いて砕いてOHANASHIするアレか?!
非殺傷設定だから大丈夫とか抜かすアレなのか?!
ズドオオォォォォン!!
ついに解き放たれた魔法は、閉じられていた正門を木っ端微塵に吹き飛ばし、進路上の諸々を粉々にし、王城を切り通して更に向こうの丘を消滅させた。
大惨事である。
周囲に展開していた軍の連中が大きく動揺していた。
そしてこちらに向けて槍を構える。
ユニコーンは左側を、バイコーンは右側を、俺は馬車の屋根に上がって後方を警戒する。
と、その時、
「やってくれたわね。せっかくいい気分で寝ていたのに、邪魔されたわ」
破壊された跡を辿って現れたのは、スケスケのネグリジェを着たエロい美人のお姉さん。
下着をつけていないらしく、先程から謎の光が肝心な場所を隠している(笑)
「さっきの砲撃でも無傷とは……その胸部装甲は相当なモノらしいな」
耳の上から羊のような角が生えていて光っているが、そんな事は気にならない。
とにかく胸だ。
胸がでかい!
一歩一歩歩く度にユッサリユッサリたゆんたゆんと揺れている。
まさに魔乳! というか、爆乳! というか、冬瓜?!
でもこんだけデカイと垂れるから、只ひたすら下品にしか見えんな。
ともかく、今回の首謀者らしき人物が出てきたわけで、彼女を退治すれば終了かな?
そう思った瞬間、ユニコーンとバイコーンが突撃をかける。馬車に乗った俺ごと(ココ重要)
そしてそれぞれが得意属性の風雪と雷光を纏い、ドリルのように渦を巻く。
俺は左右からの属性を伴う回転に引きずり込まれ、二つのドリルの間に巻き込まれた。
ドリルは時計回り、俺は反時計回りだ。
そして激突!
エロいお姉さんは二つのドリルをその爆乳で受け止めたらしいのだが、俺はその勢いのままお姉さんに突進する事になる。まるでどこかのロボット格闘アニメの師匠のように(笑)
そんで、お姉さんの頭に頭突きをかましてしまった!
オマケに俺のドリル回転が止まらない!
グリグリとおでこ同士が擦り合う!
「アチアチアチアチアチチ! 熱いわ!!」
叫んだのがまずかったのか、俺の方が上空に弾かれ、ドリル回転のままエロいお姉さんの向こう側へとムーンサルト十連発くらい回って地面に転がった。
「のおおおおおおおおお……………ぎぼぢわるい…………………」
十連ムーンサルトで酔っちまった……
まあ、俺自身もレベルが普通じゃないので、ちょっと転んだくらいの衝撃にしか感じられなかったけどな。
「ああああああああああっ!!ツノが!ツノがああああっ!!」
お姉さんの方は、ユニコーンとバイコーンのダブルドリルのせいで角が折れたもよう。
両手で頭を抱えてのたうち回っている。にも関わらず、肝心な部分は謎光で見えないという(苦笑)
あっちは痛みで、こっちは気持ち悪さで立ち上がれない。そこへシュヴァルツが来た。
グシャ………
踏み潰しやがった………グロい………………
そして俺を咥えて馬車に乗せると、西門へと走り出す。
無論、途中にいる兵士達を踏み散らかしながら。
お前の方が悪魔の手先に見えてしまうんだけど、どうよ?
夜通し王都を駆け抜け、翌日の夜明け前には西門を出た。
夜明け前では当然門は閉まっているのだが、先頭を行く誰かさんが前蹴りの一撃で粉砕してしまう。
瓦礫を乗り越えるのは馬車には厳しかったので、俺が土系魔法で退けたんだけどな。
ともかく、こんなおかしな国はさっさと出るに限る。
国の上層部を誰かさんが壊滅させてしまったので、とっとと逃げるという見方もあるか。
面倒には巻き込まれたくはないしな。
大殺戮を起こした俺たちが無責任に言うことでもないんだが、生きてる貴族が何とかしてくれるだろう。
とっ捕まって強制労働の日々はもう勘弁願いたいし、何より兵士とはいえあれだけの人数を殺しておいて無罪放免などあり得ないだろう。
追っ手がかかるかもしれないし、他国に指名手配を回される可能性もある。
魔王退治どころじゃなくなるのはまずいだろう、俺たちの旅はまだまだ続くんだからな。
あー、勇者様の棺を捨ててしまいたい。(本気)