8.最弱の攻撃でも、大声で叫べば必殺技のように感じる…………
人、それを『厨二病』と言う
まあ、中身おっさんなのにそんな風に思うこと自体、大人になりきれないって事なんだろうね。
でも、大きなお友達とは呼ばれたくない。
ま、今はまだ肉体的には少年なので、自重せずに行こうwww
自重する余裕がないんですよ、今は。
ええ、もうヤケですよ。
もうどうにでもなーれの精神で!
実は、昨年より少々雪が多く降っているらしく、魔物である『雪大杉』が例年より三日程早く山を降りてきているそうで、その対応に帝都は大わらわであった。
しかも、今年からは俺が魔法で山に道をつけてしまった為に、進行速度も早くなっているという。
俺もその対処に駆り出され、昨年のような轍を踏まないように気をつけながら、魔法を使っている。
どうするかというと、直径二十センチメールの火炎球を大量に形成し、それから二センチメートルの火炎弾を順番に撃ち出す事にした。
その数二百球。
西門上で横に五十センチメートル間隔で二十個を並べ、それを上に三十センチメートル間隔で十段重ねて配置。
下の段左から順番に撃ち始め、一秒間で右端まで撃つ。
それを十段分繰り返し、また下の段から撃ち始めるのを繰り返すだけだ。
このやり方ならコントロールもしやすいし、待機している火炎球には魔力を補充するから途切れることもない。
広範囲にわたって攻撃しているため、そのほとんどが倒しきれていない。
だが、六割から九割ほどのダメージを負っている状態なので、門前にいる人達が対応できるから、気にする必要もなく後続の敵に集中できる。
最初の頃は、
「一段目、発射っ! 二段目、発射っ!」
ってな具合にやってたんだが、同じセリフばかりが三十分も続くと飽きが来てしまった。
そんで、名セリフで遊び始めたんだよな。
「バアアアアルッカンッ!!」 とか、
「フルッッッッバアアアァァァッストッッ!!」とか、
「前方の艦隊に斉射三連! 撃て────────っ!!」 とか、
北側を向いて、
「左舷! 弾幕薄いぞっ!」 とか、
「全砲門開け! 敵を引きつけて殲滅するっ! ……撃てっ!」 とか、
ボス格の大型が出てきた時なんかは、
「前方の敵に火力を集中っ! 食い破れっ!」 とか、なんとか……
いや〜〜〜〜前世を思い出しながら遊んでたら、カトリーヌさんがやって来て、俺の頭をひっ叩いた。
「やかましいっ!」
「ゴメンナサイ」
日が暮れて、雪大杉の動きも止まり、目に見える分の処分を任せた。
俺はカトリーヌさんに引き摺り降ろされ、門の側で正座させられてSEKKYOUを受けている。
悪夢のSEKKYOUは、夜の九時まで続いた。
…………俺の飯が……
地下王宮の食堂で、賄いを食べて当座をしのいだ俺は、シュヴァルツの下へと急ぐ。
あ─────、またレベルが上がったんだな。若干でかくなってやがる。
ユニコーンとバイコーンも同様だ。
魔物を弱めただけとはいえ、いくらかの経験値を得ていたか。
まったく……こうなると成長が早いってぇのも良し悪しだなぁ……
食い物をやって、ブラッシングでマッサージ。
無論、ユニコーンとバイコーンもやってやる。
こいつらがいるからか、シュヴァルツの威圧というか暴発がほとんど無いのはありがたい。
全部終わったら真夜中だった。
前世のオールナイトなんちゃらな若かりし頃なら何ともなかったんだが、今は早寝早起き朝ご飯な毎日なので、朝の早起きが少々つらい。
でもいつもの事になりつつある今日この頃。
地下にあるせいでいつ夜が明けたか判らないので、王宮ではもっぱら起床ラッパが鳴り響く。
誰だよ、こんなん考えた奴。
戦争物の映画かアニメの見過ぎだろ。
ま、効果的だけどな。
着替えて朝の鍛錬、シュヴァルツ達の飯、厩の掃除を一通りこなし、今日も山から来る魔物の除雪作業だ。
雪大杉は、枝の雪を払うだけで弱体化する。それを除雪作業とみんなは言っていた。地元向けのスラングだな。
んで、樹の幹にある顔の両眼の魔石を割るか抉り出せば倒す事ができる。
倒した雪大杉は全て回収し、木材や薪として重宝される。
木炭にすると鍛治仕事にうってつけの火力が得られるんだそうな。
世の中うまくできてんなと思った。
そんなこんなで春が来たー春が来たー北国に来た〜〜。
雪解け水も昨年に俺が整備した溝に流れ、湿地帯にもならずに済んだ。
俺は王宮へ呼ばれる。
「そなたが来て一年半か……」
「はっ」
「どうだ、このまま余に仕えぬか?」
「陛下よりの直接のお声掛けはありがたく存じますが、魔王退治のために勇者様を生き返らせねばなりません。平にご容赦を」
「そうであったな。では、好きに致せ」
「はっ」
謁見の間でそんなやり取りをし、旅の準備をする。
馬車にあった秣はとっくに新しいものに入れ替わっているし、ユニコーンとバイコーンに合わせた馬具も準備できていた。
「さて、明日の朝、出発するか」
シュヴァルツ達も旅立ちを弁えているらしく、引き締まった感じがする。
あとは、お世話になった人達に、軽く挨拶まわりしてこよう。
翌朝の夜明け前、ユニコーンとバイコーンを馬車に繋ぎ、宿を出る。
シュヴァルツを先頭にして馬車が続いた。
帝都の南門を出た時、山間から朝日が顔を出す。
さあ、出発だ。場所は変われど朝日を浴びるのは気持ちがいいもんだな。
真っ直ぐ南への街道を辿り、丘を越え、谷を渡り、途中に休憩所はあっても村や街はなく、結局南にある港町まで二十日程かかった。
途中十日目からは南西に向かっていたから、全体的には西へ進んでいるんだろう。
辿り着いた港町は風光明媚で、多くの人出で賑わっている。
俺達は街の北側入り口から来たが、東からの街道もあるらしい。
俺が北へと転進することになった、あの土砂崩れがあった街道だ。
今から思えば、あの村で街道が復旧するのを待ってた方が、結果的には早かったかもしれないな。
まあ、今更言っても仕方ないか。
街を進むが、広場に差し掛かったところで、十名の警備兵に止められてしまう。
「そこの馬車、止まれ!」
「はい、何でしょう?」
「その黒馬は魔物ではないのか?」
「いいえ、普通の馬です」
・
・
・
答えた瞬間、周囲から音が消えた。
道行く人々が唖然とした表情でこちらを見ている。
「……待て待て待て待て、その大きさで『普通』は無いだろう?!」
「ですよねー。でも、生まれた時から見てるんですが、本当に、普通の馬ですよ。
ただ、魔物退治をよくやっているだけの」
「いやいやいやいや! 魔物退治してるってだけでも普通じゃ無いから!」
周囲にいる人達も警備兵の叫びに頷いていた。
「そうなんですか?」
「そうなんだよ!」
そうなんだー。
シュヴァルツを見ると、明後日の方を見ていた。
「ともかく、こいつは街中でそうそう暴れる事はないですから」
「そんなの信用できるわけないだろう!」
だよねー。どう見ても世紀末覇王専用騎馬だもんなー。
「それじゃあ、街道を西に向かいたいので、街の通過だけはさせてください」
警備兵は少し考え、
「それならば、我等がついて西門を出るのを確認する」
「あ、はい、お願いします」
馬車の左右に一人ずつ、ユニコーンとバイコーンに一人ずつ、そしてシュヴァルツの左右に三人ずつ付いた形で、そのまま西門の外二百メートル先まで連れて行かれた。
途中では街の人達が物見高くやってきて、シュヴァルツ達を指差しながら驚きの声をあげていた。
「ここまで来ればいいだろう。もう、戻ってくるんじゃないぞ」
「はい。どうもお世話になりました」
そう言って馬車を進める。
「って、ムショから出所した元受刑者じゃないんだから!」
思わず叫んでしまった。
ま、ともかく、港町を通過したわけだが、街の見物も買い物もできなかったので、次の村か街で補給するしかないだろうな。
とまあ、諦めたところで気が付いた。
「野宿じゃん」
仕方なく西へ向かって進み、だいぶ日が傾いた頃、街道沿いの休憩所に辿り着いた。
ユニコーンとバイコーンから馬車を外し、秣と水を準備する。
大量に食べるから、野菜や果物も並べた。
食べてる時には俺も食事の準備をして食べる。
そのあとはブラッシングとマッサージ。
重労働だが俺のステータスなら問題なくこなせるとはいえ、助手が欲しいとは思う。
勇者様よりはマシなら文句は言わないんだが……
それらが終わったら日課の自主練。
あまり疲れなくなったから、適度に切り上げて休む事にする。
夜にはお客さんが来る事もあるからな。
そんなわけで、焚き火を前にして毛布に包まって寝る。
いらっしゃーい。
東の空がほんのかすかに明るくなり始める頃、探知結界に反応あり!
気配から察するに、二十名あまりってところか。
しかも、コッチを取り囲む布陣で近付いて来てるから、敵と判断して問題ないだろう。
ここはひとつ、空間系統上級の魔法で結界を作り、連中をそれに閉じ込めるとしよう。
こっちに被害がなくて殲滅できれば楽でいい。
相手はほぼ満遍なく広がって俺達を囲んでいるな。それなら、俺達を囲うように結界を張る。そして連中の外側にも結界を張る。そんでもって、外側の結界を内側に縮めていった。
すると、こっちの広場に押し出されてくる者が十名余り。
あれ? 盗賊って感じじゃなさそう。
中には結構良い鎧を着ている者もいる。
でも統一性は無いし、どういう連中なの?
残り半分は、縮めてきたのとは反対側にいるので、こちら側も寄せてくる。
そして俺達を覆っている内側の結界に触れたところから融合させ、連中だけを結界内に残す。
意味不明な事が起こっていると思っているらしく、結界に向かって剣を振ったり魔法をぶつけたりタックルしてたり、それぞれ混乱中? それとも現状打開のために奮闘中?
いずれにしても、俺が張った結界を破ろうと躍起になっているが、彼等の力では無理だろうな。
防音の魔法もかかっているから、こっちには何の影響も無いし。
さて、よくわからない連中を捕まえたわけだが、みんなこっちを睨んでくるから、恐らく話を聞くと面倒臭い事になりそうだ。
というわけで、結界の下から三メートルを黒い色にし、そこから上を透明なままにして放置。
ま、四日経ったら自然に消えるように設定しておいたので、多分放置しても大丈夫だろう。
音も遮断してあるから、静かに朝食がとれる。
朝はやっぱり、静かに過ごしたいよね。
食後はサクッと出発準備まで終え、少々地図を確認。
街道を西に進めば、七日で魔物に滅ぼされたという街に着く。
そんな幽霊が出そうなところはさっさと通り過ぎるのが吉。
てなわけで、出発!
馬車は進むよどこまでも。
順調に旅程を消化中な俺たちの前に、立ちはだかるは雑魚魔物。
相も変わらずシュヴァルツがプチプチ踏み潰してサクサク進む。
順調すぎて怖いくらいだwww
途中で廃墟となっていた街を通過したが、手招きする幽霊が出た程度で特にイベントと思われる事も起こらずに無事通過できた。
毎朝毎晩、対魔物戦を想定した自主訓練が無駄かと思える今日この頃。
とうとう俺の出番なく隣国への国境に着いた。
前の港町を出てから十七日目になる。結構遠いもんだな。
検問を行う砦前には、多くの旅人や商人が並んでいる。
俺達が後ろに並ぶと、前の方に並んでいる者達がこちらを見ながら挙動不審。
しばらくすると、砦の兵士がやって来た。
「この巨馬の持ち主は誰だ?!」
「はい! こっちです!」
俺が御者席から降りながら返事をすると、兵士が俺を取り囲む。
「貴様がこの魔物のような馬の持ち主か?!」
「はい。でも、普通の馬ですよ」
・
・
・
また空気が固まった。
隊長格の人が、深くため息をつく。
「……普通の馬がそんなにでかいわけがない」
またこのパターンか。
内心ガックリしながら、ありきたりの弁明。
すると今回は呆れられながらも街へ入る事を許された。
この街では大きな宿もあるので、そこを紹介してもらう。ありがてぇ、ありがてぇ。
「良かったなぁ、シュヴァルツ。久々に安心して眠れるよ」
「ブルルルル」
嬉しそうな嘶きだ。
「申し訳御座いません、お客様の馬が大きすぎて、厩に入りきれません」
「ナンテコッター」
いきなりのダメ出し。仕方ないかー、こいつデカすぎるし。
うーーん。なら、いつもの土系統魔法で……
「こちらに空いている場所に、こいつらが入れるだけの建物を作っていいですか? 出る時には元に戻しますから」
「……支配人に相談してきます」
待つことしばし。
先ほどの店員と立派な衣装の男性が連れ立って来た。
「お客様、私はこの宿の支配人です。なんでも、あの空いている敷地に大きな倉庫のようなものをお造りしたいとか?」
「はい。この馬たちが入って寛げるくらいの大きさになりますけど」
支配人はしばし考え、
「それならば、お客様がご利用後は大型倉庫として使えるように、頑丈に作っていただけますか?
無論、作業に見合った報酬をご用意させていただきます。その際は宿泊料、その他の施設利用料を無料にもいたします。いかがでしょう?」
「そりゃあいい。では、少しばかり仕様を変更しましょう。まず、厩として作るので、屋根のすぐ下あたりの壁に明かりとり用の窓を付けます。これには、はめ殺しの光を通す板を付けましょう。あと、出入口には最初は何も付けません。大きく開いたままになります。出立の際にある程度の出入り口の大きさを開けた壁を作りますが、そこにつける扉は、そちらで取り付けてください。土や石を操って作るので、木でできた戸は作ることができないのですよ」
支配人は、俺が挙げた作業内容にしばし唖然とし、
「……それだけなさるのに、何日かかりますか?」
「そうですねー、簡単な下地作りはこれから陽が沈むまでには。ある程度頑丈に作るので、まずそれくらいかかります。明日は本格的に明かり取り部分の透明化と屋根の上に出るための階段と出入り口の作成、そして全体の強度を増すための石化と魔力付与による耐久力の強化、ってところですね」
さらに唖然とする支配人。
「それ程早くできるのですか? 少々信じがたいのですが?」
「可能ですよ。これでも土系統魔法は得意ですから」
ええ、レベルが高いだけなら簡単な土木作業くらいどうということはなかったんですけどね。
街道を整備する時には、排水やら勾配やら橋桁の強度保持と強化やら、イロイロ注ぎ込まなきゃいけない要素がてんこ盛りでしたよ。
おかげで簡単な構造の建物ならば、イメージと強化でなんとかなるようになったんだよ、余禄としては大きいんだけどな。
てなわけで、早速イメージを練り込んで魔法を放つ。
素材は深い場所から広く薄くで集め、地盤沈下などさせない。
土台から深く頑丈に形成、柱は太さを一メートルで中に鉄筋を仕込む。
梁と屋台骨を柱と同様に形成し、屋根を付けた。
ここまで出来たところで、空に赤みが差してくる。寝床を準備しないといけない。
通常の厩から大量の藁を移動し、床に敷き詰める。
それから水や秣を準備し、食べてる間にブラッシング。
図体がでかくなってきただけに、毎度毎度重労働だ。
だけど、俺のステータスも上がってるから、負担は幾らか軽減されている。
それでも汗をかいたので、風呂に入って食事を摂ったら眠気がすごかった。
数日はこの宿でゆっくりしよう。
俺もシュヴァルツ達も疲れているからな。
勇者様?
ああ、すっかり忘れてたや。