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2.ダメだこいつら……早く何とかしないと……




 ってシリアスしてるけど、ゲームじゃないんだから~。ああ、ついでにAAは省略してるからな。



 王宮前を出発して王都の門を出るのに二日を費やした。人通りが多いので、それほど早く移動できなかったんだ。

 それまでは街の宿に泊まったので、問題に気づくのが遅れてしまった。三日目早朝に王都の端に近い宿を立ち、門をくぐって二時間も進むと最初についた村で俺は今、まさしく某神を騙る誰かさんな状態にある。それというのも、目の前でコイツらのやっていることを見ているが、普通に泥棒だよな~。

「勇者様、薬草を見つけましたわ」

「こっちにはお金があったぜ」

 勝手に他人の家に上がり込み、タンスを開け、ツボや樽を叩き割り、見つけたアイテムやお金を持ち去っていく。無人になった隙を見計らって“仕事”をして行くものだから質が悪い。コイツらの手際から察するに、王都でも頻繁にやらかしていたんだろうな。

 だから、連中がアイテムやお金を俺に預けて家を出た後のわずかな時間で、手に入れた物とお金と割ったツボや樽の三倍の額を小袋に詰め、テーブルに置く。勇者様御一行が盗みを働いているだなんて、悪行を少しでも払拭する為だ。これがばれたら外聞が悪すぎる。

 それなのに連中は、勇者様御一行という免罪符があると思っていた。初めて気づいたときに勇者様に、なぜ盗むんですかと問いただしたら、こうのたまった。

「え? 普通のRPGなら当たり前じゃん?」

「そうですわ。勇者様のなさることでしたら神は御許しになりますわ」

 そんなんあるわけ無いんだけどなぁ。

 ちなみに俺が出してるお金は、出発時に国から支給された資金袋の金貨と、魔物を討伐した時に得るドロップ金貨である。ドロップ金貨はなぜか出た瞬間に、資金袋に入るらしい。しかもこの資金袋、どれだけ入れても大きさは変わらないんだぜ。ちなみにドロップアイテムは荷馬車の棚に入るようになっている。

 それはともかく、俺は最後に懐から出したお詫び状を置く。


“勇者様御一行が御宅の隠してあった薬草やお金を持ち出してしまいました。

 このお金はせめてものお詫びです。誠にすみません。”


 よっしゃ。完璧(邪笑)




 一仕事を終えた勇者様御一行は今、次の村への道中で昼食休憩中だ。

「うわ……まっず……」

「やっぱり美味しくないですわねぇ……」

「まったく……お前は勇者様と彼をお支えする私達を飢え死にさせるつもりか?」

「これなら俺の生まれた国の近くの外国の料理の方が美味しいかもな。命が惜しいから喰わねぇけど」

 食べるな危険のシールを貼って欲しい程に怪しげな材料や調味料の某国を例に出すなよ、失礼な。

 旅行者用の携帯食をお湯で戻したんだけど、水の量が二割ほど多かっただけじゃないか。元々そういう味なんだからな。まあそれでも、もう少し改善していかないと本気でいらない子になりそうだから、旅の前に母ちゃんから仕込まれた腕を披露するとしようか(ピキピキ)




 というわけで二つ目の村も通り過ぎ、三つ目の村まで半分来たところで午後の移動が終わる。

 そういえば、途中でレベルアップのファンファーレが二回聞こえたから、シュヴァルツは順調に、先頭に立って魔物狩りをしているらしい。ということは、だいぶ腹を空かせてることだろう。急いで水と飼葉を多めにやり、夕食の準備を始める。角ウサギのドロップ肉と村を通る時に買っておいた野菜や果物を、王都で準備しておいた調味料を使ってきちんと調理する。村で買った固い黒パンを薄めにスライスして添え、肉と野菜のシチュー、葉野菜と果物のサラダというメニューだ。

 携帯食をお湯で(ほぐ)しただけの昼食に比べれば出来が違うな、うん。

「おお! これなら食べられるじゃないか! あとはパンが柔らかければ問題ないんじゃね?」

 ほほう……柔らかいパンねぇ。

 勇者様のリクエストに応えるために、今夜にでもパンを仕込んでやろうじゃないか。パン酵母は母ちゃんから持たされたものがあるから、しばらくは持つだろう。道中で新たに用意する必要はあるが、荷物専用の馬車には酵母用の棚があるからいろいろ実験できる。

 ふと見ると、勇者様のハーレムメンバーが俺を睨んでいた。

「……えっと、どうしたんです?」

 尋ねてみても誰も答えず、皆向こう側を向いてしまった。なんじゃらほい?

 食事の片付けが終わると、俺は勇者様に今後の旅について提案する。

「勇者様、夕食後はまず、俺が最初に寝ます。そんで夜中に起きますので、朝まで不寝番をします。

 勇者様方は、俺と交代でお休みください。朝食を準備しておきますから」

「あ、そうか。野宿の時は不寝番が要るよな。夜中から朝までがお前一人になるけど、いいのか?

 俺達の方でもローテーションを組むぞ?」

「大丈夫ですよ。旅はまだ始まったばかりですし、今の俺でも不寝番くらいはできます。

 勇者様方の方こそ、夜はぐっすり休まれて下さい」

「そうか。悪いな」

「それが仕事ですから」

 使い終わった道具や食器を片付けた頃には、シュヴァルツ達は林の奥へと移動していた。旅の始めだというのに、お盛んなこった。

 俺は馬車の後ろに繋がれている道具や食料を積んだ荷車に乗り、夜中まで寝る。目覚まし時計をセットしてあるから大丈夫だろ。




 何となく騒がしいというか、体が揺れているような感じがして目が覚めた。

 あれ? 何で馬車が揺れてんだ?

 あ~~ん、あ~~ん、という色っぽい声も聞こえる。よく見ると、勇者様の馬車がギシギシと揺れていて、繋がっているこっちの荷車にまでその揺れが伝わっていたようだ。交代までまだのはずなんだがと思いながら焚き火の方を見ると、格闘家と弓士の女の子が二人だけで座っている。

 ということは、勇者様と神官の二人が馬車でいたしているということか……。

 昼間といい、今といい、こいつらは世間に出てはいけないんじゃないだろうか。冗談抜きにこいつらを早く何とかしないと、国の威信ってものが傷つくどころの話じゃなくなるだろう。

 このまま揺れてる荷車で寝ると具合が悪くなりそうなので、起きることにする。

 俺が欠伸をしながら焚き火に向かうと、二人が立ち上がって俺に向かって詰め寄ってくる。

「ちょっと! 遅いわよっ!」

「ええ? むしろ早い方ですが……」

 時計を見ると、真夜中ま一時間余りもある。

「勇者様への御奉仕が遅れれば、私達への印象が悪くなるかもしれないだろう?!」

「あの子にだけいい思いはさせない!」

 脳内桃色に()けてるだけかよ。

「わかりました。ここは俺が引き受けますから、どうぞお休みになってください」

 そう言った途端、二人は馬車へと駆け込んだ。そして、倍ぐらいに揺れ始め、三倍ぐらいにやかましくなった。イラっときた俺は、馬車を睨みつけて怒鳴る。

「いい加減に静かにしやがれ(サイレント)!」

 怒鳴った瞬間、すうっと辺りが静かになった。否、森からの虫の音は聞こえているから、馬車周りの音が聞こえなくなっただけか。その証拠に、馬車そのものは相変わらず揺れているが、その軋む音は聞こえなくなっている。

「これはまさか……」

 音を消す魔法か!

 馬車にいる連中が出てこないから、あの場所から外に音が漏れないってことかな?

 ま、しばらくは様子見だな。

 静かになったし、少し鍛錬しよう。続けないと意味がなくなるからな。




 二時間ほど、出発前に習った戦闘基礎練習を繰り返し、汗を拭って着替える。

 それからパンの材料を出して混ぜ混ぜこねこね、焚き火からやや離れた所に置いて発酵させた。

 減った分の天然酵母を補うために、ツボを沸騰させた鍋に入れて滅菌、果物を適当な大きさに切っておき、滅菌したツボを出して冷ます。ミネラルウォーターなんて無いから樽の水と、切った果物をそこに入れた。今回使った果物はリンゴに似ているが、かなり酸っぱ目で糖度が低いので、砂糖を多めに追加する。そして密閉。

 あとは、荷馬車の棚に順番よく並べれば良い。

 次はシチューの下拵え。ウサギのドロップ肉を筋を切る方向に切って行き、調味料で下味をつけて馴染ませる。野菜の皮を剥き、火の通りやすいものは大きく、通りにくい物は小さく切って行った。鍋の水を捨てて油を引き、加熱してから野菜を炒める。軽く火が通ったところで肉を投入。塩、胡椒、その他調味料で味を加え、水を材料が浸るぐらいに入れる。そのまま煮込んで行こう。

 さて、発酵させていたパン生地は、叩いてガス抜きをしてから食パン用の金型に入れて二次発酵させる。

 ふうっと息を吐いたところで馬車からの声が聞こえてくる。魔法がきれたからなんだろうが、未だにやってたのかよ……様子からすると、四時間以上やりっぱなしかよ。

 色っぽいを通り越してエロ過ぎて聞くに耐えない、獣の唸り声のような喘ぎ声を先程の『静かにしやがれ(サイレント)!』で消す。全く、精神衛生上よろしくないなぁ。

 シチューの灰汁を掬いながら溜息が出る。こんなんで本当に、魔王なんて退治できるのかいな?

 大きな不安を抱きつつ、シチューを仕上げていく。




 日が昇って二時間以上が過ぎ、ようやく勇者様方が起きてきた。二度目の静かにしろの後、一時間ほどしてから馬車の揺れが止まったから、あんまり寝てないんじゃね?

 脳内お花畑にも程があるぞ。

 出てきた皆さんは、揃いも揃ってきっつい臭いを漂わせている。本人達は気づいてないだろう、そんな臭いが充満する中でずっと寝ていたんだからな。

 俺は冷たい目線を投げかけつつ、言い放った。

「うっわ、くっさ~」

 勇者様はともかく、取り巻きの女性陣は顔を赤らめつつこっちを睨みつけ、馬車へと走って行った。

 勇者様は気付いてないようで、あっけに取られている。

「勇者様、イカ臭いっす」

「なっ?! そんなに臭うのか?」

「馬車の扉が開いた時からここまで臭って来てたっす」

「そうか……すまん、シャワー浴びてくる」

 そう言って、馬車へと戻って行く。って、馬車にシャワーついてんのかよ。なんつー贅沢品。




 更に二時間してようやく食事を始めることになった。

 俺? 夜が明けてすぐに食べ終わってるので、少し早いけれど今で昼食を取ることにする。この後は夕方まで移動だしな。

「うめぇー! 柔らけー! マジ最高!」

 んで、俺の作ったパン手に勇者様がはしゃぎ、彼女達が <◯>Д<◯> こんな目でこっちを睨んできていて、居心地が悪いったらありゃしない。こっち見んな。

 ちょっと膨らみすぎて前方後円墳みたいになった食パンは、村で買った固い黒パンに比べると甘みがあって食べやすい。昨日の食事に比べれば格段に良くなっている。食事がマズイとやってられないもんな。

 食い終わって後片付けをする。片付けるのは俺しかいないんだけどな。

 太陽が真南になった頃、ようやく次の村へと移動開始だ。

 めっさ遅いんだけどな!



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