1.記憶有りの転生? ヒャッハーーーー! オレTUEEE! で無双してやんよ!
ショボーーーン(AA略
無双できませんでした。
ああ、いきなりテンション下がっててスマン。
俺はジョン。14才だ。前世の記憶を持って転生をした。
記憶が戻り始めたのが10才の頃からで、やっと昨年、ほとんどの記憶が戻った。
だが、よくネット小説にあるようなチート能力を全く感じ無いんだよ。
無論、魔法も使えないし、魔族や亜人も近くにはいない。魔物は弱っちいのがいるけどな。
転生の神様には会わなかった、うん。
そういった諸々に気づいたのが12才の頃。
んで、チートが無いなら知識でと思ったんだが、これもまた、大抵の物ならここにも存在することがわかって来た。
例えば肥料、或いは柔らかいパン、又は味噌や醤油、あとは風呂とかトイレとか白紙とか鞍や鐙、馬車の板サスペンションだ。
どうやらこの世界には、既に転生者が居たらしい。それも百年以上も前にだ。
俺だって少々の知識くらいは持ってたから、肥料や鞍や鐙や板バネなんかは提案できたのにー!
ああ、オセロやトランプどころかウノもチェスも将棋も囲碁まであるんだぜ?
全く、やってらんねぇよ。
料理やお菓子作りは趣味じゃなかったから、そもそも知らないしな。子作り子育てはしたが。
でも、プリンとかアイスクリームとか苺のショートケーキとか普通にあるんだよなー。
などと考えながら、俺はテリヤキバーガーとポテトフライとコーラのセットを食べている。うまー。
「おおいっ! ジョン! いつまでメシ食ってやがる! さっさと手伝え!」
「わかったよ! クソ親父!」
俺は何処にいるかっつーと、国の騎士団の大厩舎だったりする。
親父が騎士団の厩舎で調教師をやっていてな、俺にあとを継がせようと手伝いをさせているんだよ。
他にも百人以上の世話人がいるし騎士見習いの連中もいるから、人手があるように見えるが、馬が七百頭ほどもいるとなれば話は違ってくると想像できるだろう。
おまけに騎士団の見習いは、所属する隊の幹部が所有する馬しか世話しねぇんだよ。
騎士団以外にも伝令用や日々の買い物用や王族貴族用などなど、様々な用途に必要以上の数の馬がいる。これらの世話が、俺達厩舎勤めの役目となる。
出産を控えている牝馬も二十頭以上いるし、親父たちのようなベテランはいつもピリピリしていてこっちは精神的にキツイんだわ。
朝から夕方まで馬の世話にかかりっきり、夜も当番で厩舎の見回りがある。
それに、王都周辺でもスライム程度の魔物は出てくるんだ。
だから日常的にそいつらの退治も仕事のうちになっている。ちなみに俺はLv4程度だ。
おかげで女の子との出会いすらねぇよ。くっすん。
そんなある日、俺は何故か近衛団の団長に呼び出された。
「お呼びでしょうか、団長閣下?」
「うむ。君は我が国に勇者が現れたことを知っているか?」
「いいえ、初耳です。そういう話を聞く暇すらありません」
「そうか、そういう仕事であったな。では始めから説明する。
我が国の北の端にある村に、勇者が現れたという御神託が下されたのが昨年のことだ。
神殿と国の調査団が彼を王都へ連れて来たのが半年前になる。
そして勇者としての力量を上げるために訓練と魔物討伐を繰り返し、彼自身が満足できるレベルになったので、魔王城へ向かうことになった。
その馬車の御者として君が選ばれたというわけだ」
驚いた。勇者っていたんだ。
まあ、どんな奴かは知らないが、御者をしろというならやってやるさ。変わり映えしないここを出るチャンスだしな。
「わかりました。それで、出発はいつでしょうか?」
「うむ、彼ら用の馬車を特注で作らせていたんだが、五日後には完成する。
それから旅に必要なものを積み込んで、出発は一週間後というところだろうな」
「はい」
「ああ、それと、君は専用のテントを準備しておけ。馬の世話も君がすることになるからな。
それに、馬車は彼らの寝台としても使われる。お前はお邪魔というわけだ」
ナニ、その理不尽?
「え? それはどういう……」
「会えばわかる」
俺の質問に、団長は苦虫を噛んだようになった。
釈然としないまま、団長室を後にする。
厩舎に戻り、いつも通りに仕事を始めるが、掃除が終わったところへ親父たちがやってきた。
「ジョン! 勇者が使う馬車の御者に推薦しておいたぞ!」
「アンタかあぁぁっ!」
俺は思わず親父に殴りかかる。
親父は俺の拳を軽くいなし、足を引っ掛けてすっ転ばせる。
うわっ……やっぱ敵わねェ。さすがにLv8は強エェ。
「弱えぇクセに、一々突っ掛かんじゃねぇよ。
それよりお前ェはもう、あがれ。出発の準備でもしろ」
「一週間後だから慌てなくてもいいだろ?」
「馬の選定、馬具の調整、野宿の道具、保存食の選び方、お前の武器や防具、馬や馬車を守るための戦い方、準備することは多いぞ」
「うひいいいいいぃぃっ!!」
俺は急いで厩舎の責任者であるテルマット子爵様の所へ行く。
テルマット子爵様は無類の馬好きで有名で、城や騎士団で用いられる全ての馬の手配を一手に纏めておられる方である。
勇者のための馬車の手配にも関わっているはずだ。
子爵様の部屋の前には二人の騎士が護衛に立っているので、“馬の手配について”という用件を申告する。
片方の騎士が子爵様に伺いを立て、俺は入室を許可された。
「失礼します、テルマット子爵様」
「来たか。御者の件は聞いているな?」
「はい」
「お前が御者となってここから居なくなると、頭の痛くなる問題が残る」
「は、はあぁ……」
それだけで全て解ってしまった。
この厩舎には一頭だけ、俺にしか世話をすることを許さない黒馬がいる。
しかもそいつは普通の馬に比べ、二回りも巨大で気性が荒いのだ。
黒○号と言えばイメージが湧くだろうか。名前もシュヴァルツだし。
生まれた頃から俺が面倒を見てきたからなぁ。
シュヴァルツが一歳の頃から、放牧地に現れたスライムやホーンラビットを一緒になって退治してきたんだよ。
おかげでその辺の騎士よりも強いので、変にプライドが高い。俺以外は背に乗せてもらえないし、馬車を引くことも無い。
唯一役立ちそうなのが種付けで、それすらも牝が怖がってなかなか上手くいかない。
そのくせ餌は他の馬の倍は喰う。
まさにお荷物となっていたんだ。
ちなみに、最初は「パンチ」って名前にしようとしたが、親父に殴られてダメだった。ちくせう……
「そこでだ、シュヴァルツを気に入っている物好きな牝馬から二頭選ぶ。とは言っても、該当するのはあの二頭しか居ないがな。
そして、その二頭に馬車を引かせる。シュヴァルツはその前を行かせればいいだろう。魔物に対する露払いだ」
「なる程、それなら騒ぎにはならないでしょう。俺の苦労は三倍ですが」
「我らが厩舎の平穏のためだ。諦めろ」
酷ェっ! 人身御供かよっ!
そう思っても口にできない下っ端。哀しいなぁ。
「ワカリマシタ。シュヴァルツ達に話してきます」
俺はテルマット子爵様の部屋を辞し、シュヴァルツの所へ行く。
数ある厩舎の中で、最も離れた場所にシュヴァルツはいる。
シュヴァルツの種付けは、そばの林でと自分で決めているらしい。
だからこそ、事が済んだらすぐに戻れる厩舎の端っこがあてがわれているのだ。
「シュヴァルツー」
「ブルルルルルルッ!」
「……前々から言ってるけど、その世紀末覇王な見下し目線はやめろって」
何というかこう、全てを見下す目線なんだよな、コイツ。ドヤ顔とは違って迫力が重い。
力無く平手ツッコミをすると、シュヴァルツは俺の方に頭を寄せてくる。
「シュヴァルツ、大事な話だからしっかり聞いてくれ。
俺は今度、勇者が乗る馬車の御者をすることになったんだ」
ビキッ! っとシュヴァルツの顔に血管が浮く。沸点低いな、ヲイ。
「でだ、お前も行くんだけど、馬車、引く?」
ビキビキッ! っと顔の血管が増え、太くなった。
「だよな。お前、絶対に馬車引かないもんな。
だからさ、セシーとイープに馬車を引かせて、お前は先頭で出て来る魔物を片っ端から倒すってことでどう?」
「ブルルルルルルッ!」
とたんに機嫌良く頷くシュヴァルツ。こいつの性格なら魔物退治の方がましだよな。
まさにテルマット子爵様の狙い通りってわけだ。
「それじゃあ、セシーとイープを連れて来るよ」
何というか、『シュヴァルツが大好きー』な態度が露骨な二頭。
セシーは白馬、イープは葦毛である。
ともかく、セシーとイープを連れ……連れ……引きずられている俺がいる。
「ヒヒーーン!」
「ブルルルル!」
「待て待て待て待てっ! 落ち着けオマエラっ!」
二頭の手綱を掴み、シュヴァルツの所へ行くと言った瞬間、暴走したのだっ!
二頭とはいえ、手綱を持ってる人間一人引きずるってどうよ?!
そのくせシュヴァルツの見える所まで着いたら止まりやがった。
そして恥ずかしげにうつむき加減でチラ見する。
オマイらどこの恋する乙女だよ。三日に一度は種付けしてるだろうに……
「セシー、イープ、お前達が勇者の馬車を引くことになった」
ここまでを口にした途端、二頭からシュヴァルツを上回るプレッシャーが、が、がががが……
「おちつけ、お前ら。これからが肝心なんだから。
それでな、俺が馬車の御者になったんだが、シュヴァルツはお前達の前で魔物退治をする。
シュヴァルツの勇姿を目の前で見られる旅に出るんだが……」
またコイツらが恋する乙女モードに突入した。
目の中に星がキラキラと瞬いているからすぐに分かる。
「魔王を退治するか、お前達がシュヴァルツの子供を身籠るまでは、常に一緒になるな」
こうなったらこいつらは、乙女覚醒モードに移行する。
馬体がシュヴァルツを受け入れる状態になっただけなんだがね。
シュヴァルツがセシーとイープを連れて、厩舎の側の林に入って行って二時間。
俺はシュヴァルツを待つのもバカバカしいので、厩舎の入り口を開けたまま、家に帰っている。
終わった頃に行って、戻っているかを確認して入り口を閉めればいいからだ。シュヴァルツも、それくらいは心得ている。
だから、旅の準備とその他諸々を終え、夕食を取ってから厩舎へと赴くと、案の定、シュヴァルツ達はすでに戻っていた。
セシーとイープをシュヴァルツと一緒にしたまま、厩舎を閉める。
リア充でも相手が馬なら何とも思わないから不思議だな。
翌日、セシーとイープを連れて王都の西区に向かう。馬車に繋ぐ馬具を調整するためだ。
馬車を造っている工房は西門の外にあった。
工房での調整作業は午前中で終わり、厩舎へと戻ろうとイープにまたがった時、門側から四人の男女がやってくるのが見える。
剣士の男一人に女三人の組み合わせだ。女は神官、格闘家、弓士。いずれもそれらしい服装と装備で、美男美女ばかり。(リア充め。もげろ)とか思ったり。
側をすれ違う時、予想通りにキャッキャウフフ状態だったので、心の底から思いで人が殺せたらとマジに考えていた。
内心歯軋りしながら厩舎に戻ると、セシーとイープを牧場へ放し、俺は次の準備に向かう。旅に必要なものを準備するためだ。
馬車を守るための戦闘訓練だがな!
というわけで、俺は騎士団の訓練場に来ている。団長と副団長が実にイイ笑顔で迎えてくれた。
「さて、今後の旅のために鍛えてくれとの事だが、時間がなさすぎるので、ここは基礎固めに終始することになる。
訓練の仕方を教わるだけでも旅の間でどうにかなるだろう」
「どうにもならなかったら?」
「死ぬだけだな」
この一言で、俺は必死になって剣の振り方や足運び・体捌きの訓練法を覚えていった、出発の前日まで。
合格点までは程遠いそうだけどな!
たった四日ではどうにもならんわっ! (ちゃぶ台返しAA略
でも死にたくないから、毎日訓練する。キリッ。
訓練法を教えてくれた団長と副団長にお礼を言い、早朝は馬の世話、午前中に旅の準備・手配、午後に戦闘訓練、夕方からは旅の知識を習うというキツイ日々が始まり、ヒイヒイ言っている間に過ぎて行った。
んで、出発の当日。
早朝にシュヴァルツ達を連れて厩舎の本部へと向かう。
馬車は昨日の内に届けられていた。
セシーとイープを馬車へと繋ぎ、俺の荷物を馬車の後ろにある荷車へ積んで、王城前へ移動させる。
それから待つこと1時間程か、国王陛下が勇者一行を引き連れて現れた。後には王族の方々や宰相閣下・各大臣・貴族の皆様も続いて並び、周囲には騎士団が並んでいる。
(うげ~~。あいつらかよ……)
数日前に西門前ですれ違った、リア充な連中だった。ありがちなフラグだよな。
俺は馬車の扉を開け、脇に控える。
「それではジャスティス、頼んだぞ」
「はっはっはっ、心配いらねぇぜ。俺が魔王を倒してやるからさ」
周囲の者も、彼の言葉に全幅の信頼感を込めた笑顔を向けた。
今ぞんざいな口調で返事をした剣士の男が、イケメン勇者というやつか。
随分と軽い性格のようだな。これで陛下の前から移動したなら、どんな態度になるのやら。
一抹の不安どころかてんこ盛りのやっかい事になりそうだな~。
それにしても、名前が『ジャスティス』とは、厨二っつーか偽名にも程があるだろ。お前どう見ても日本人じゃないか。大方本名は『正義』と書いて『マサヨシ』辺りなんじゃねぇの? ま、その内ボロを出すだろ。
連中はそれぞれ挨拶をすると、サッサと馬車へと乗り込む。俺は扉を閉め、乗降用の階段を引っ込めた。それから、改めて騎士団の方を見やり、王家の方々へと深く一礼して御者席へと乗り込む。
「シュヴァルツ、東門を出て街道を真っ直ぐに、タンザムの街へ向かってくれ」
俺の指示を受けたシュヴァルツが歩き出すと、セシーとイープがその後に続く。
こうして勇者一行を乗せた馬車は、魔王退治の旅に出発した。