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水鏡五国志 [第二部 烈日之巻]  作者: 子志
章之肆 奇縁錯綜
83/115

捜索

 同じ頃、昏から碧の領内へ向かって流れ込む川に船を浮かべ、山地を見上げている者達が居た。

「住民の話によると、血痕は川の側で途絶えてた」

 情報を口に出して確認したのは庵識である。

「その川を下っていけば碧に入る。でも碧側まで流れ着いていれば多少は何か情報が入る筈だ」

「つまり、国境の手前――ここらに函朔がいる可能性が高い、とそういうわけですかい」

 庵識の言葉にそう続けたのは支源だ。函朔の友人でもある彼は、船の櫂を漕ぎながら目の前の山を見上げた。

「しかしここを探すのは骨が折れますぜ。なんせ野盗の巣窟だ」

「わかってるよ、それくらい」

 憮然と返した庵識は、船に乗っていたもう一人の男を肘で小突いた。

「だからこいつを連れてきたんじゃないか」

 小突かれた男は剽軽に肩を竦める。

「酷いな、末の旦那。俺を捨て駒にする気かい」

 言葉の割には明るく言って、男は手に持っていたふくべをあおった。昼間だというのに、そのふくべからは濃い酒の匂いが漂っている。

「捨て駒なんて人聞きの悪い。安心しな、ここの野盗は原則堅気には手出ししないって話だ」

「原則って何だよ原則って。大丈夫なんだろうな、本当に」

 ぶつくさ言いながら男は更に酒をあおり、傍らの袋からほんの小さな包みを幾つか取り出して懐に仕舞った。

「安心しろ、死んだら骨くらい拾ってやる」

 支源が言って、船を岸に寄せる。

「勘弁してくれよ。弟が泣くだろ」

「泣くようなタマかよ」

 軽口を叩き合いながら、男は船から飛び降りた。船はすぐに岸から離れる。

「やれやれ……」

 深く息を吐きながら、男はまた酒を飲んだ。

「まぁ、やるからにはきちっとやってやるさ」

 ふらり、ふらりと千鳥足で歩き出しながら、一気にふくべの酒を空にした。完全な酔っぱらいの態で山道に踏み込んでいく。

「酒は~飲めども~」

 適当な節で適当な歌を歌いながら、あちらによろけ、こちらによろけ。

 がさり、と傍らの茂みが動いた。

「の~ま~れ~……ぐぅ」

 ばたり、と男が倒れる。そのまま、酔い潰れて眠ってしまったようだ。


 ややあって、茂みから小さな獣が這い出してきた。灰茶の毛並みをした子狼である。

 子狼は一頻り男の臭いを嗅ぎ回ると、どこへともなく駆け出していった。




 横たわったまま、函朔は右腕を持ち上げた。

 こちらは、もう問題ない。

 続いて、左腕を持ち上げようとする。

「っ……」

 肩から胸元へ鋭い痛みが走り、喉から呻きが漏れた。

 まだ、動けない。

 早く回復してくれ、とじりじりする思いで祈った。

「無理して動かすと治るもんも治らんぞ」

 すっかり函朔の見張り役として定着しているらしい男がからかうように言う。それに睨みだけを返して、函朔は天井を見上げた。

 あれから、幾日経っただろう。

 鴻宵は、秋伊は、元気にしているだろうか。

 物思いに沈む函朔の耳に、不意に室外の喧騒が届いた。

漠埜(ばくや)ぁ!」

 戸口の簾を跳ね上げて入ってきたのは、これまたすっかり見慣れてしまった恵玲である。

「おう恵玲。お前いつも怒ってんな」

「うるさいよ!それよりあんたがそんなの拾ってくるから、狼達にまで拾い癖がついたじゃないか!」

 酷い言い様である。内心苦笑しながら、函朔は二人のやり取りを見守った。

「そりゃあ面白い。何を拾って来たんだ?」

「面白くも何ともないよ!酔っ払って山に迷い込んだ上に潰れて道で寝てた馬鹿なんて拾ってどうしろってんだい!」

 それはまた間抜けな人間もいたものだ。函朔は呆れたが、見張りの男――漠埜の方は気に入ったらしい。声を上げて大笑いした。

「そいつは大した馬鹿だな。まぁ、見つけちまった以上は山道に放っといて死なれても寝覚めが悪いだろ。少し休ませてやれ」

「またそういう!」

「まぁ、ただの馬鹿なら害にはならんだろ」

 漠埜の呑気な物言いに、恵玲は怒り心頭に発したようだった。

「だったらあんたが面倒見な!どうせそいつの見張りだけじゃ暇だろ!」

 そう吐き捨てて出ていったと思ったら、やがて大柄な狼に男を引き摺らせて戻ってきた。酔い潰れているらしい男は狼に襟首をくわえられて文字通り引き摺られているのだが、目を醒ます気配は無い。呑気なものである。

「おお、よく寝てんなぁ」

「感心してる場合かい!ちゃんと責任持って追い出しなよ!」

 恵玲はびしっと漠埜に指を突きつけ、部屋を出ていった。その後を、狼が追って行く。

「やれやれ、相変わらず気の短い奴だ」

 漠埜は溜息混じりにぼやくと、筵を敷いて酔い潰れた男をその上に転がした。

「見ず知らずの酔っぱらいを介抱って、随分親切だな」

 函朔が皮肉っぽく声をかけると、漠埜は肩を竦めた。

「どうもな、馬鹿は放っとけない性分なんだ、昔から」

 それはまた損な性分だな、と思った函朔は何気なく酔っ払いに視線を向け、視界に入った顔に目を瞬かせた。それとほぼ同時にその男は呻き声を上げ、手近にいた漠埜の服の裾を掴む。

「お、起きたか?」

「……水」

「おう。持ってきてやるから手を放せ。野郎にすがられてもこれっぽっちも嬉しくねぇんでな」

「……蜜水が飲みたい……」

「あぁ?贅沢言うんじゃねぇよ」

 男の手を裾から外して水瓶に向かいかけていた漠埜が苦い顔をする。

「甘いのが飲みたい……」

「……これ程厄介な馬鹿も珍しいな、まったく」

 溜息を吐きながらも、漠埜は出口に向かった。どうやら蜜水を持ってきてやるつもりらしい。

「おとなしくしてろよ。不用意に部屋から出ると噛み殺されるからな」

 物騒な一言を残して、部屋を後にした。

 漠埜の気配が遠ざかる。

 するとすぐさま、それまでぐったりしていた男が起き上がった。

「いやぁ、ここまでうまくいくとは思わなかったなぁ」

 からりと笑いながら、函朔に目を向ける。

「探すまでもなく探し物発見とはね」

「……お前」

 函朔は男を見上げ、溜息を吐いた。

「危ない橋を渡りやがる」

 函朔はこの男を知っていた。何の事はない。庵氏兵団の仲間だった。しかも函朔もこの男も支源と懇意にしていたから、互いに知らない仲ではない。

「好きでこんな危険冒したわけじゃないさ。末の旦那の策だよ。人使いが荒いったらない」

 肩を竦めた男は、一瞬で顔を引き締めた。

「さて、どうする。逃げるなら手を貸すが」

「……いや」

 函朔は首を横に振る。

「今はまだ動けない。動けるようになれば自力で脱出する」

 そう言った函朔に、男は眉を寄せた。

「自力、ったって容易じゃないぞ。俺達の力が要るんじゃないか」

「いや」

 函朔の脳裏に、暫く前に考えた事が過る。

「俺と庵氏の関係から鴻宵との繋がりが露見するとまずい」

 函朔の説明はごく簡潔だったが、男は理解したようで何度か頷いた。

「わかった。じゃあこれやるよ」

 懐から何かを取り出し、函朔に手渡す。一寸ほどの球状のものが三つ。それから、薬草の包み。

「丸いのは獣避けの臭い玉。煙幕にもなる。薬草の方は気付けと傷薬だ」

「ありがとう。助かる」

 函朔が礼を言ってそれらを受けとると、男は真剣な目をして言った。

「必ず、生きて帰れよ」

 真っ直ぐな言葉が、重たく響く。

「俺は函朔は生きてるって、そう報告するからな」

「……ああ」

 函朔は頷いて、拳を握り締めた。

「さて」

 男の軽い声が、真剣な空気を霧散させる。

「これでひとまず俺の仕事は終わり、と。支源に酒でも奢らせよう」

 暢気に伸びをして、筵の上に座る。函朔は一つの疑問を投げ掛けた。

「正直、お前はこういう面倒事には関わらない奴だと思ってた」

 その言葉を受けて、男は肩を竦める。

「確かに、面倒事は嫌いさ」

 そう言ってから、悪戯っぽく笑った。

「でもまぁ、可愛い弟の大事な御主君が悲しんでるとあっちゃあね」

「弟……?」

 函朔はじっと男を見上げた。そういえば。

「え、お前俺の名前忘れたとか言わないよな?」

「言わねぇよ。ただ……」

 これだけは、言いたい。

「似てねぇ兄弟だな。主に性格が」

「よく言われる。顔は似てんだけどな」

 からからと笑った男は、部屋に近づいてくる気配を感じ取って横になった。函朔も目を閉じる。

「恩に着るよ――漣璋(れんしょう)




 私が部屋で落ち込んでいようと思い悩んでいようと、容赦なく時は過ぎ日は暮れる。もうじき夕食の時間だけれど、気分はまだ晴れなかった。

「どうかなさったんですか?」

 部屋に私の衣類を置きに来た登蘭が、心配そうに声をかけてくる。何でもない、と答えても、私が余程酷い顔をしているのか、気遣わしげな視線は強まるばかりだった。

「そうだわ!」

 急に、登蘭が手を打つ。

「先に湯あみをなさってはどうです?ゆっくり温まれば良い気分転換になるかもしれませんよ」

「風呂か……」

 私は顔を上げ、呟いた。確かに、気分は紛れるかも知れない。

「湯船に熱めのお湯、張ってくれる?」

「ええ、勿論」

 登蘭がにこにこと笑いながら頷く。私も少しだけ気分が浮上した気がした。

「それじゃあ、頼む」

「はい、すぐに」

 この国の風呂は通常蒸し風呂の類なのだけれど、日本育ちの私は給料がそれなりにあるのを良いことに我儘を言って湯船を作らせたのだ。いつも入っているわけではなく、ゆっくりしたい時に湯を張って貰う。登蘭が提案してくれた通り、こういう時こそ活用すべきものだ。


 登蘭に支度をしてもらい、湯に入った私は大きく伸びをした。

「は~……気持ちいい……」

 浴槽の縁に腕を預け、顎を載せる。ほかほかと立ち上る湯気に紛れていた水精霊が私の髪に戯れていく。穏やかな時間。


 私は一度深呼吸をした。

 昏との睨み合い。

 行方のわからない函朔のこと。

 悩める詠翠のこと。

 ……蒼凌のこと。

 ちょっと、抱えすぎて疲れてしまったのかも知れない。


 一度頭をリセットしよう。でないと、良い考えも浮かばない。

 私は目を閉じて、首まで湯に浸かった。



 鴻宵が風呂に入って暫く。衣類の整理をしていた登蘭は、黎翡が部屋に居ないことに気づいた。

「あの」

 ちょうど近くに居た箙磬に声をかける。

「戦姫様がどちらにおられるか、ご存知ありませんか」

 箙磬は、ああ、と何でもない事のように答えた。

「戦姫様なら、浴室に行かれましたよ。子ども達と遊んでおられて泥がついたとかで」

「……え?」

 登蘭はさぁっと青ざめた。

 これはまずいことになったかも知れない。

「あ、あの、今浴室には鴻将軍が……」

「え?」

 二人は顔を見合わせ、一様にしまったという顔をした。



 そんな事とは露知らぬ私は、存分に湯を堪能してからそろそろ上がろうと立ち上がりかけた。

 ちょうど、その時。

 浴室の戸が開いた。

 ……え?

 思わず、中途半端な姿勢のままぴしっと固まる。戸を開けた誰かも、中に人が居る事に気づいて動きを止めたようだ。

 数秒、動けずにいる間に、立ち込めていた湯煙が戸口から吹き込んだ風に流されて視界が開ける。その向こうに現れた人物を見て、冷や汗が背中を伝った。

「れ……黎翡……」

 黎翡は無言のまま。見開かれた目が、まじまじと私の顔を見、体に向けられ、そしてまた顔に戻ってくる。

「……は?」

 漸く、黎翡の口から声が発せられた。

「はぁあああ!?」

 ああ……やってしまった。



 目の前には黎翡。隣にはつい先程仕事を終えて帰ってきた春覇。そして私は、何故か椅子の上に正座している。

「つまり」

 黎翡がどことなく消沈した様子で口を開く。

「貴方は女だったと、そういうことですの?」

「はい……」

「春覇との結婚は?」

「お互い都合が良いのでしただけで……偽装です」

 まるきり尋問されているような気分だ。そのせいかつい敬語で答えてしまう。

「……女の身で、ここまでの軍功を上げてきたんですの?」

 その問いには、思わず苦笑した。

「それはここに居る三人、皆同じじゃないか」

 黎翡も、春覇も。

「男か女か、なんて、多分根本的な問題ではないんだ。意志と覚悟を持って戦い続けられるなら」

 黎翡は大きな溜息を吐いた。

「……そう思うのなら何故、男のふりを?」

「『女』で居るのは危ないと思ったんだ……あの頃は、力が無かったから」

 そう、それからずるずると男として過ごし、今に至る。後悔はしていないし、あの時の判断が間違っていたとも思わない。けど。

「今更女には戻れない……でも結局男でもない。中途半端な存在だよ、私は」

 思わず漏れた自嘲的な言葉が、黎翡や春覇の耳に届いたのか否かはわからない。二人とも、何も言わなかったから。

 私はこの話題を断ち切る為に、立ち上がってにこりと笑った。

「さて、そろそろ夕飯だな。あ、黎翡。わかってると思うけど、この事は誰にも言わないように」

 うまく笑えていたのかどうか、私は知らない。




 碧と昏の国境に程近い小さな村に、庵識と支源は宿を取っていた。この場所で、三日待つ約束になっている。三日経っても漣璋が戻らなければ、計画は失敗と見なして一時撤退する手筈だ。

「これで見つからなけりゃ、函朔の捜索からは手を引けって言われてるんだ」

 水盤の時計を気にしながら、庵識は言った。

「兄貴だって函朔とは知らない仲じゃないのに、冷たいもんさ」

 憮然としたその口調に、支源は苦笑する。

「無理もありませんよ。旦那や若旦那には話してないんでしょう。いつまでも末の旦那が留守じゃあ怪しまれます」

 この一件は、ほぼ庵識の独断で行っているのだ。庵覚はそれを黙認する形で支持しているが、その代わり庵識は庵覚からの指示があれば必ず従うように言われている。

「それに、わかってんでしょう。これでもし見つからなけりゃ……」

 支源は言葉を濁したが、続く筈だった言葉は庵識も先刻承知である。

「わかってるよ」

 苦い表情を崩さずに、庵識は言った。


 これで見つからなければ――函朔が生きている可能性は、極めて低い。


 悲壮な沈黙が落ちかかった時、部屋の戸が無遠慮に引き開けられた。

「あれ?何だこの暗い雰囲気」

 戸を開けた張本人は至って暢気にそんなことを言ったが、庵識と支源には緊張が走った。

「……随分早かったじゃないか」

 庵識が会話の口火を切る。部屋に入って戸を閉めた漣璋は、支源の隣に座って彼が持っていたふくべを奪い取った。

「おい」

「仕事ならちゃんとこなして来たよ」

 支源の抗議に、漣璋が言葉を被せる。再び空気が張り詰めた。ただ一人、漣璋だけはのんびりとふくべを口に運ぶ。

「……で?」

 庵識が短く促した。その表情は険しい。漣璋はにこりと笑った。

「函朔な、居たよ」

 庵識の目が見開かれる。次いで、不審げに細められた。

「だったら、何でお前は一人なんだい」

 函朔を見つけたなら、当然連れて帰って来る筈だ。そう言いたげな庵識に、漣璋は苦笑を見せる。

「函朔が拒んだんだよ。庵氏を通して鴻将軍との関わりが露見すると迷惑がかかるからってさ。泣かせるね」

 支源が溜息を吐いた。函朔の思考を理解したのである。漣璋は肩を竦め、懐の辺りを軽く叩いた。

「とりあえず匂い玉と薬草は渡してきたから、あとはあいつ次第さ。俺の役目は全うしたよ」

「……わかった。ご苦労」

 庵識は何とも言えない表情でそう言うと、支源に目をやった。

「函朔が鴻宵に片想い中ってのは本当だったんだな」

「まぁ、大方のところは。あいつは別にそっちの気は無い筈なんだがな」

 支源は庵識の言葉にそう返し、漣璋の手からふくべを奪い返す。

「それで、報告はどうします」

 ふくべを追ってくる漣璋の手を叩き落としながらの問いに、庵識は思案げな顔をした。

「兄貴のとこへは俺が戻って報告するよ。問題は将軍のとこだけど……」


 函朔の意思を尊重するならば、庵氏兵団の人間が無闇に鴻家を訪ねていくのは好ましくない。慎誠に伝えれば鴻家にも伝わるだろうが、鴻宵に対して暴言を吐いた自覚のある庵識としては、できれば慎誠を介さずに誠意を見せたかった。それに、庵識は個人的に慎誠が少し苦手だった。へらへらしているようでいて何もかも見透かしているようなあの雰囲気に居心地の悪さを感じるのだ。


 唸る庵識を見て、支源は視線を傍らに流した。

「ちょうどいい、お前が行け」

「えっ」

 話を振られた漣璋は、思い切り渋い顔をした。

「やだよ。俺が庵氏兵団で働いてること、家族には隠してるの知ってるだろ?碧方面に行く荷の護衛だって避けてるのに冗談じゃない」

「だから庵氏兵団とは関わりなく個人で訪ねてけって言ってんだ。お前なら口実があるだろうが」

 支源が畳み掛けるが、漣璋はまだ渋っている。端で見ていた庵識は首を傾げた。

「何だい、漣璋は鴻家につてがあるのか?」

 庵氏兵団の人間達は、普段基本的に仲間の過去や私生活には立ち入ろうとしない。それが傭兵としての暗黙の了解だった。

 しかしここでは必要な情報と考えたのか、支源があっさりと問いに答える。

「こいつの弟があそこに仕えてるんですよ」

「支源!」

 漣璋が咎めるように名を呼ぶが、支源の方はどこ吹く風である。

「そりゃいいや」

 庵識が手を叩いた。

「行ってきてくれよ、漣璋。弟を訪ねてった事にすりゃ、うちとの繋がりを勘繰られずに済む」

「いや、でも……」

 漣璋が嫌そうに反論しかかるが、それよりも庵識の行動の方が早かった。

 音を立てて床に手をつき、がばりと頭を下げたのである。

「頼む!俺、この件について将軍に暴言吐いちまったんだ。けじめとして、可能な限り早く知らせたいんだよ」

 雇い主に頭を下げられては、さすがの漣璋もこれ以上駄々はこねられない。

 舌打ちをした漣璋は、支源の手からふくべを奪い取り、残っていた酒を一息に飲み干した。


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