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水鏡五国志 [第二部 烈日之巻]  作者: 子志
章之肆 奇縁錯綜
76/115

孤独な子ども

 戦姫と話し合いをした翌日、普段通りの業務を終えた私は兵法の講義の為に公子詠翠の宮へ向かった。暫く忙しくしていて来られなかったから、何だか随分久しぶりのような気がする。


 いつものように門番に名を名乗り取り次ぎを頼むと、足早にやってきた詠翠の従者が何故かあからさまに安堵の表情を浮かべた。

「鴻将軍!お待ちしておりました。我々では口出しできませんので……」

 急かすように案内する従者について歩きながら、私は首を傾げた。この様子は明らかにおかしい。

「一体どうした?」

 私の問いに、従者は無言で首を横に振った。行けばわかるとばかりに、ただただ足を進めていく。

 詠翠の居室に近づくにつれ、聞き覚えの無い声が耳に届いてきた。

「あなたは自分の立場を何と心得ているのです」

 不機嫌そうな、女性の声だ。

「あなたは歴とした王の子なのですよ。少しは自覚を持って――」

「申し上げます」

 多少強引に、従者が扉の前から声を掛ける。多分、誰かから説教されているらしい詠翠を救い出す口実として、私の来訪を待ちわびていたのだろう。何だかんだで、詠翠は結構臣下に愛されている。

「公子、鴻将軍がお見えです」

「ああ、もうそんな時間か……」

 そう応じた詠翠の声は、心なしか疲れているように聞こえた。その詠翠の声が何か指示する前に、女性の声が飛ぶ。

「此処へ通しなさい」

「……は、」

 意表を衝かれたようで、従者が一瞬固まる。中で詠翠が声をあげた。

「母上――」


 ああ、この女性は、詠翠の母親なのか。つまり、王妃というわけだ。


 私は困惑している従者の肩にそっと手を置き、一つ頷いて見せた。それから、戸口へ進んで名乗る。

「右軍大将軍鴻宵、参上致しました」

「お入りなさい」

 女性の声が答え、従者が戸を開けた。

 室内では、三十前後だろう女性と詠翠が向かい合って座っていた。詠翠が普段の気の強さが嘘のように萎れている。

「そなたが鴻宵ですか。話は聞き及んでいます」

 女性の物言いに内心首を傾げながら、私は型通りに挨拶した。

 普通、王妃といえど主君ではないのだから、卿クラスの臣下には敬意を表し、面と向かって名を呼びつけにはしない。春覇や蒼凌だって、正式には私の事を鴻将軍と呼ぶ。そういえば詠翠は初対面で私の名を呼びつけにしたが、やはり親子ということだろうか。但し詠翠は私を認めてからはちゃんと敬称を付けてくれているが。

 何にせよ、まだ子どもとして認められる年齢の詠翠とは違い、彼女は大人だ。あまり誉められた態度ではないのは間違いない。

「思ったより若いのですね。そなたが詠翠に兵の事を教えているとか」

「はい」

 王妃が立ち上がる。片膝をついて頭を下げている私を見下ろす気配がした。

「つまりこの件は、そなたの怠慢というわけですね」

「は――」

 いきなりのきつい言葉に、私は思わず中途半端な疑問の声をあげてしまう。

「母上!」

 詠翠が咎めるように母を呼ぶが、黙りなさい、という一喝で沈黙した。

「詠翠に武術を教えるのもそなたの役目でしょう。そなたが怠るから、詠翠が馬鹿なことをするのです」

 ああ。


 嗚呼――なんてことだ。この人は……


「詠翠が太子などに近づいたのはそなたの怠慢でしょう」


 この人は、詠翠と太子の絆を断ち切りに来たんだ。

 多分、蒼凌を追い落として自分の息子を王位につける為に。

 太子を失脚させたいのに、当の詠翠が太子と仲良くしていてはやりにくいということなのだろう。


「……公子の剣術を拝見致しましたところ、」

「言い訳は無用です」

 私の言葉を遮って、王妃は冷たく言った。

「今後一切、詠翠を太子に近づけることは許しません。次に職務を怠った場合、そなたを解任します」

 一方的に言って、王妃は部屋を出ていった。


 なんてことだ。

 あの母親は、息子の意思を何とも思っていないのか。


「鴻将軍……」

 詠翠の細い声が耳に届く。母を見送りに出る気力も無いのか、椅子に座って項垂れたまま、詠翠は呟くように言った。

「私は、兄上と仲良くしてはならないのか」

 私は言葉に詰まった。そんな事はない、と言いたい。けれども、王妃に釘を刺されてしまった以上、それを言えば私は国王派に反逆者と認定されかねない。当然詠翠から引き離されてしまう。そうなったら、詠翠は益々孤独になってしまう。


 王妃に会って、気づいた。

 ひょっとして詠翠は、両親の愛情をあまり受けていないんじゃないだろうか。だから侍従相手に武術の稽古をすることが彼にできる唯一の遊びで、意地を張り肩肘張った生意気な態度で寂しさをまぎらわして。肉親である蒼凌に剣を教えてもらい始めると深く彼になついた。多分蒼凌が、詠翠に真っ直ぐ向き合ってくれた初めての肉親だから。

 そんな詠翠を、無情に兄と引き離せというのか。


「公子……」

「私は、将軍が怠慢だったなどと思ってはいない」

 母のきつい物言いを思い出してか、詠翠が弁護を始める。

「将軍の判断は正しかった。兄上に教わるようになって、私は急速に腕が上がったのを感じる。母上は少しばかり口がきついだけなのだ。母上は……」

 言い募る詠翠を見ていると、悲しくなってくる。

 あんな風にきつい態度を向けられても、母親は母親。詠翠は、母を嫌いにはなれないんだ。

「……公子」

 母を庇う詠翠に掛けるべき言葉を見つけられず、結局私は論点を微妙にずらした。

「確かに、公子に武術をお教えするのは私の役目。良かれと思ってした事とはいえ、浅慮に過ぎました」

「そんな事はない」

 否定する詠翠の声は弱い。平時の元気はどこへ行ったのか、別人のようにおとなしかった。

「これよりは、私がお教え致しましょう。王妃があのように仰った以上、東宮にはお見えになりませんよう。太子には、私からお話し致します」

 ひとまず今は、従うしかない。詠翠は蒼凌とは会わない方がいいだろう。

「うむ……」

 私の進言に詠翠は頷いたが、何だかまだ鬱いでいるようだった。顔色が悪いようにすら見える。

「どうかなさいましたか」

「将軍……」

 詠翠が何か言いかけて、思い直したように口を閉じる。言おうか言うまいか迷っている様子を見て取って、私は根気強く待った。


 暫しの逡巡の後、漸く詠翠が口を開く。

「私は、何も知らない……」

 私は黙って先の言葉を待った。詠翠は自分の中でまだ消化出来ていないような、そんな顔のまま、ぐっと自身の腕を掴む。

「兄上は……」

 その声は、どこか泣きそうに震えていて。


「兄上は兄殺しだと、母上が」


 なんてことだろう。

 私は寸時言葉を失った。


 詠翠は多分、前太子の乱の詳細を知らない。普段の口ぶりから考えて、恐らくは何か乱があったらしいという程度の認識しか無かったに違いない。


 それが、知ってしまった。

 最悪の相手から、最悪の言葉で。


「私は……何を、信じれば良い?」

 信ずべき母の口から出た、信じても良いと思っていた兄を貶める言葉。それは未熟な詠翠を迷わせるには十分だ。

「教えてくれ、鴻宵」

 すがるように、詠翠は問う。

「私は、何を信じればいい?」

 私は一度目を閉じ、深く呼吸した。

 詠翠の教育に携わる者として、ここが正念場だ。

「公子が何を信じるべきか……答えは決まっています」


 詠翠はこれから、望むと望まざるとに関わらず政争に巻き込まれることになるだろう。

 兄である蒼凌と対立する時が来るかも知れない。

 そして私は知っている。蒼凌は、たとえ相手が血を分けた弟であろうと、敵になった以上は容赦しない。それは春覇にも、私にも、言える事だ。

 出来ることなら、そんな事態は招きたくない。けれど。


「公子、ご自身です」

 決めるのは詠翠だ。

「何も知らぬ私に、自ら決めよと言うのか」

「知らぬ事があるなら知る者に問われる事です」

 情報を集めて、篩にかけて、そして判断するべきだ。

「ならば教えよ。母上が仰った事は真実か」

「事実です」

 即答した私に、詠翠は目を見開いて言葉を無くした。信じたかったのだろう。漸く親しみを感じた兄を。

 私は一呼吸置いてから、続けた。

「しかし、真実とは限りません」

「……何?」

 詠翠の声音に困惑が滲む。私は努めて淡々と言葉を紡いだ。

「太子が嘗て兄を殺めた、それは事実です。しかしそこに至るまでに何があり、太子が何を思って兄君を手に掛けたのか、真実は王妃の仰った通りとは限りません」

「……そうか」

 詠翠はどこかほっとしたようだった。

「ならば、事実のみでなく真実を私に教えてくれ」

「それはできません」

 私はきっぱりと言った。

「私のみならず、何人たりともそれはできない――人は各々主観を持ち、それに基づいて出来事を認識致します。完全なる真実を、誰も語る事はできないのです。況してや私は当時の経緯をこの目で見たわけではありません」

「だったらどうせよと言うのだ」

 詠翠は悲しげに問う。私はできるだけ冷静に語りかけた。

「やはり、問うのです。当時を知り、且つ公子が信を置けると思う方に。しかしその話は、やはり一つの事実でしかない。真実は、その話から、公子ご自身で判断なさい」

 詠翠は暫し黙った。それから、一つ頷く。

「……至氏に、問うてみよう」

 私はほっとした。

 私の言葉はちゃんと詠翠に届いたようだ。そして至鶯なら、きっと限りなく客観的な事実に近い話をしてくれるに違いない。

「……将軍は、本当に私を大切にしてくれる師だな」

「はい?」

 唐突にそんな事を言われて、私は目を瞬かせた。詠翠は年齢に似合わない、どこか疲れたような顔で淡々と話す。

「母上がここへ来たのは、二年ぶりだ。私が会いに行っても会ってはくれない。二年ぶりに会って……一言目が、『お前は立場を弁えられないのですか』だった」

「それは……」

 絶句。

 それが、母が子に対してとる態度だろうか。

「結局一言も、私自身を案じてはくれなかった」

 王妃が心配していたのは、詠翠が太子に近づきすぎて太子を排除できなくなること、ただ一点。彼女にとって、詠翠は権力闘争の道具に過ぎないとでも言うのだろうか。

「鴻将軍、私は……」

 うつむいたまま、詠翠は言う。

「私は、寂しい」

 零れ落ちた、詠翠の本音。まだ十二かそこらの少年の、人知れぬ孤独。

「公子……」

 かける言葉が、見つからない。

 同じく孤独でも、昏で会った黒零にはそれを当然とする慣れた雰囲気があった。彼は他の生活を知らなかったからだ。

 けれども、詠翠は違う。

 彼は母を慕い、拒絶され、あまつさえ兄とも引き離されたんだ。

「……済まぬ。弱音を吐いた」

 詠翠が力ない笑みを浮かべる。私は哀しくなった。

「……いいえ」

 無礼と知りつつ、そっと詠翠の背を撫でる。

「……よく、耐えてこられました」

 出来ることなら、私がそばにいると言ってやりたかった。けれども、それは保証できない言葉だ。無責任に言うべきではない。

「将軍……!」

 不意に、詠翠が動いた。私の胸元に飛び込み、幼い子どものように抱きつく。

「済まぬ。少し……すぐに、離れるから」

 私は丸まったその背に腕を回し、ぎゅっと抱き締めた。震える背を撫でながら、詠翠の頭に頬を寄せる。

「構いません。落ち着くでしょう、こうしていると」

「……うむ」


 人の腕に包まれていると、なんともいえない安堵感を覚えて心が凪いでくる。

 私はそれを、蒼凌に教わった。

 だから今、孤独に嘆く詠翠に、その暖かさを分けたいと思う。


 暫くそうしていると、詠翠はやがて穏やかな寝息を立て始めた。私はその体を抱え上げると、侍従を呼ぶ。

 やって来たのは私をここまで案内してきた少年で、眠っている詠翠を慌てて私から受け取った。

「気がつきませず、ご無礼を……」

「いや。構わない。お休みになったのはつい先程だ。寝床にお連れしてくれ。お風邪を召してはいけないから」

「はっ」

 侍従の少年はてきぱきと動いて侍女達に指示を出し、詠翠を寝所に寝かせに行った。私は兵法の講義のために携えてきた書物を開いて幾つか印を付け、侍女に貰った紙きれを要所に挟んだ。


 そうこうしているうちに、詠翠を無事に寝床に運び終えた侍従が戻ってくる。深く礼をして私の帰り道を先導しようとする彼を呼び止めた。

「少し、話を聞かせてくれないか」

「はい、私にお話できる事なら」

 素直に頷いた侍従は、場所を移しましょう、と言って歩き出した。

 案内されたのは客間のような場所だった。あまり人の来ない場所を選んだらしく、静かだ。勧められるままに椅子に座った私は、立ったままでいようとする侍従を対面に座らせた。

「ところで、今更すまないが名を教えてくれないか」

「はっ、申し遅れました。私は索興と申します」

 侍従の少年はそう名乗った。礼儀正しいが恐縮しすぎておどおどするようなところは無い、しっかりした少年だ。

「索興。公子にお仕えして長いのか?」

「はい。物心つく頃から、お側におります」

 詠翠の事を語る索興の表情は、どこまでも穏やかだ。ひょっとすると、詠翠と索興の間には、主従でありながら一種兄弟のような感情も通っているのかも知れない。

「ならば、教えてくれ」

 私は質問を切り出した。正直、この問題に踏み込むのはお節介かも知れないという迷いはある。それでも、あの勝ち気な詠翠が私にすがりつく程に弱っているのを見、況してやその肩が涙を堪えて震えていた事に気づいてしまえば、放ってはおけなかった。それに、この先詠翠の立場は重要になってくる。彼の心の在り方を探る事は、どの道必要だ。

「公子と母君のご関係は……」

 私が訊くと、索興は痛ましげな顔をした。

「正直、あまり芳しくありません。王妃は公子ご自身にはあまり関心が無いご様子で」

 丁寧ながらも、何処か険を含んだ言葉。彼女の関心は専ら詠翠の王位継承権にあり、詠翠自身には無いという実情が、彼の口ぶりからは読み取れた。

「それは以前からか」

「はい。公子がまだ赤子の頃から、そのようであったと」

 私は眉を寄せた。

「何故……ご自分の息子ではないか」

 理解が及ばず困惑する私に、索興も小さく首を振った。彼にも、王妃の心情は共感できるものではないらしい。

「……どうやら、王妃は母である前に女性でありたい型のお方のようで」

「は……」

 私は寸時言葉を失った。何とも単純というか、身勝手というか。そういう人もいるのだろうなと漠然とはわかっても、あまり納得はできない。

 子どもを持たない私が、何かを言えた立場ではないのかも知れないけれど。

「では、公子に母に代わる存在は?」

「私の母が、乳母として長らくお世話申し上げておりました。しかしながら、二年前に病で……」

 索興と詠翠は所謂乳兄弟に当たるらしい。心情的に近しいのも頷ける。二年前までは、索興の母がきちんと詠翠に愛情を注いでくれていたに違いない。だからこそ、実の母にあんな扱いを受けていても、詠翠はそれなりに素直に育ってこられたんだろう。

「そうか……まだ、お寂しい年頃かな」

「そうですね。母君が近くに居ながら顧みられないのでは、尚更でしょう」

 詠翠はもうじき十二歳だ。いい加減親離れしている筈の年ではあるが、如何せん状況が状況。年の近い友人も兄弟もほとんどなく、孤独に育った詠翠は、性格上強がってはいるけれども、なお寂しさを拭えないのだろう。

「更に兄君からも遠ざけられて……か」

 蒼凌を兄上と呼び始めた詠翠は、あんなに生き生きしていたのに。

「鴻将軍」

 不意に索興が背筋を伸ばし、真っ直ぐに私を見据えた。

「どうか、将軍には公子のお側にいていただきたいのです」

「うん?」

 急な願い出に、私は首を傾げた。索興は真剣な表情を崩さない。

「母君に顧みられず兄君とも離された公子が、今本当に心許せる相手は、恐らく鴻将軍をおいて他にありません」

「そんなことは」

「あるのです」

 私の反論を遮って、索興は続ける。その表情は、どこか苦しそうだ。

「ご存じの通り、公子は勝ち気な性格です。それ故に、たとえどんなに近しくとも、我ら侍従には弱さをお見せになりません」

 私ははっとした。確かに詠翠の性格なら、侍従に弱音は吐かないだろう。

「公子が弱さをお見せになり、頼りきり甘える事ができるのは、もはや鴻将軍お一人なのです」

 先程の詠翠を見て確信した、と索興は言う。

「荏氏や至氏は遠すぎます。未だ公子は遠慮なさる。肉親は頼れません。そして我らでは力不足」

 索興は頭を下げた。

「お願い致します。どうか、公子のお心を支えてください」

 私は言葉に詰まった。索興の必死さといい、先程の詠翠の弱々しさといい、助けてやりたいのは山々だ。けれども。

「……済まないが、確約はしかねる」

 詠翠の立場と私の関係は、難しすぎる。しかしそれを口に出して説明するとなると、碧の王室に不和があることに言及せざるを得ず、危険すぎる。

 結局私は、苦笑まじりに索興に告げた。

「我が妻は、覇姫様だ」

 碧の現状に詳しければ、これだけでわかる筈だ。私の妻は春覇。そして春覇が最も敬愛する人物こそ、太子即ち紀蒼凌なのだ。もしも詠翠が太子と対立する日が来れば、私は詠翠に付くわけにはいかない。

 私の言うところを正確に理解したらしい索興は、唇を噛んで俯いた。

「公子は……」

 細い声に、胸が痛む。

「公子には、兄君と争うおつもりなど毛頭無いのです」

「わかっている」

 詠翠は王位の為に兄を押し退けるような陰猾さを持ってはいない。それでも。

「しかし周囲は公子のご意志に関わりなく動こう……避けられるか否かは、公子次第だ」

 言葉を切った私は立ち上がった。これ以上踏み込んだ話をする事は、お互いにとって危険すぎる。

 見送りに出た索興は、俯いたまま、小声で言った。

「最善を尽くします。どうか、公子に御慈悲を」

「ああ」

 頷いた私は、周囲に人目が無いのを見て、ぽんと索興の頭に手を載せた。

「お前も、気を張り過ぎないように。――公子が今、ああして素直に育っておられるのは、お前と母上のお陰だ」

 詠翠の為に、ちゃんと役立ってきているのだから、自分を追い詰めすぎないように。

 私の言葉に、索興は目を見開き、それから頬を染めた。あまり褒められ慣れていないのだろう。

「……ありがとうございます」

 小さく礼を述べる索興の頭を撫でて、私は宮を後にした。


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