私の計算が正しければ・・・
私はとんでもないことに気付いてしまった。
「私の計算が正しければ…。あと三十分後に家で点けっぱなしにしているコタツから火の手が上がる」
まさかとは思った。まさかと思って計算してみたらこの結果である。
「なんということだ」
「教授、お時間です」
私の生徒の一人がドアを勢いよく開けて入って来た。
「先生、やっぱり先生はさすがです。タイムマシンがまさか21世紀に完成するなんて」
「ふっ」
やはり私は天才だ。南半球の脳と呼ばれるテルミンですら私が今まさに緊急状態にいることに気付かないのだから。計算すればすぐに出るというのに。ちなみに私はテルミンが実は浮気していることをすでに計算により導きだしている。
「いやあ、パチンコばっかり行ってるただのおっさんだと思ってましたよ」
黙れ。それ以上私を侮辱すると私が編み出した法則を「テルミン浮気の法則」として学会で発表するぞ。
「テルミン、気付かないのか。私は今非常に切迫した状況にいるのだ」
「えっ」
コーヒーをすすりながらちらりとテルミンを見る。ふふ、お前には分かるまい。
「まさか、奥さんが今役所に離婚届けを取りに行っていることですか…。」
テルミンはそわそわしている。
「あ、ああそうだな。それもあるが」
何だと、こいつやはり只者ではない。私より先にそのことに気付くとは。二秒ほど計算してみたが、ううむテルミンの言うとおりだ。
「大丈夫ですよ。奥さんが今日の発表を見て先生にまだ利用価値があると判断するようにすれば三割五厘近く回復します。それより先生、一体なにがあったんですか」
なんとも理論武装なアドバイスだ。的確ではあるが。
「実はな」
「娘さんが今夜家に帰らないことは言わなくていいですよ」
「うっ、いやそのことではない。実はな…」
「あ、先生。時間です。早く行かないと」
「いや、実は今すぐ帰らねばならんのだ」
「何言ってるんですか先生。タイムマシンを。人類の夢を。待ち望んでいる世界中の人を置いて何処に行こうっていうのですか」
私は半ば無理やり連れられ、千二百七台のカメラと一万三百五十人の前に立たされた。この中の一体何人が私が今とんでもないことになっていることを知っているだろう。いや、分かるわけがない。こいつらはただ夢が叶うのを待っているだけだ。だが夢を叶えた私には分かる。現実とは無慈悲なものだ。私の計算が正しければテルミンは私の妻と浮気している。
「今、私が導きだした公式によれば……」
私は世界中の人々が見ている前で「テルミン浮気の法則」を説明した。司会者はポカンとしているが冗談と思ったのか言い終わると同時に陽気に喋りだした。
まあ、半分は正解だ。私がみんなを和ませようとしているのだと思ったのだろう。だが、その動機が違うのだよ。ステージ袖にテルミンが真っ青な顔で立っているのが見える。
やはりお前は頭がいい。ただし私の次にな…。
「私の計算が正しければコタツを火元とする火災によりタイムマシンは燃えてしまった」