第三章第5話 カルザール道中
カルザール王国。
立地的には四方を山に囲まれ、高度も高い位置にある国だった。
俺はその国に傭兵として雇ってもらうために山を登っているところだったのだが……。
「貴様ら、何者だ!!」
運悪く、ヴィンセント兵に見つかってしまった。
敵の数はざっと30程度。
こっちは俺含めて20。
数の上では向こうが有利ではある。
「貿易商です。 カルザールに香辛料を売りにいくところでして」
俺はヴィンセント兵の頭と思われる男に近づき、金子の入った袋をその兵の手に握らせる。
「…………俺を買収する気か、お前?」
そういって兵頭は睨みながらドスのきいた声でそう言い放つ。
(ちっ……、こいつ金では転ばないのか)
「いえいえ、お近づきの印で御座います。 通行料も含んでいますが」
兵頭は部下たちを見て、
「やけにものものしい男たちだな。 あいつらは?」
「へぇ……、この近隣は野盗が多いため、護衛として引き連れておりまして」
「ふむ。 ……ところでお前、どっかで見たことあるんだよな」
「へ? 私はただの貿易商ですよ。 ひょっとしてどこかの町で私どもの香辛料お買いになられたことがあるんですか?」
「いや、町ではない。 戦場で、お前を見たことがある」
「せ、戦場? 私は一度も戦場になんかいったことないですって」
俺は慌てて否定するも、心ではもう覚悟を決め、部下たちに目合わせをして合図を送った。
俺が昔駆け抜けた戦場でこいつは俺を見たんだろう。
霧雨という禍剣を持った傭兵を。
顔は笑顔を崩さず、俺は殺気を必死に潜めながら、ギリギリの交渉を続ける。
「そろそろ、いいだろう。 お前は何者だ?」
兵頭が腰の剣を抜いた。
もはや、とぼけても意味がない。
「ですから、ただの貿易商ですよ」
そう言い終わると同時に目の前の兵頭は血飛沫を上げ、たおれこんだ。
「!!」
「お前!!」
一瞬、何が起こったかわからなかった兵頭の部下たちが色めき出す。
「迂闊なんだよ、お前ら。 数で慢心したか?」
俺の部下たちも次々抜刀する。
この世界には様々な兵種が存在する。
その中で侍という兵種はこと白兵戦においては最大の攻撃力をもつ。
それを立証したのはほかでもないヴィンセント帝国である。
今でこそ、侍を多く抱えるオオエドはヴィンセント帝国に臣従しているが、その歴史に至るまで、ヴィンセント帝国と侍は幾多の戦争を経ている。
その戦い戦いの中で侍はヴィンセント帝国が抱える幾多の兵種を白兵戦で圧倒した歴がある。
これまで白兵戦最強と言われた竜兵ですら、侍に白兵戦で敗走を繰り返したのである。
侍が持つ刀。
鉈のように頑丈で剃刀の用に斬れるこの武器が侍を白兵戦最強と軍学の常識になったのだった。
「俺らを白兵戦で潰したければ10倍の兵を持ってこい」
勝負は一瞬で決した。