第6章 絶技の蒼穹塔 (ぜつぎのそうきゅうとう / Azure Spire of Absolute Mastery)その2
鍵の宝石が指し示す方向へ、グループは仮想東京の街を西へ西へと進んだ。渋谷を抜け、新宿の高層ビル群を越え、住宅地が途切れた先の森と丘陵地帯。空が開け、風が強くなった瞬間——雲が渦を巻き、青く輝く超高層の塔が突如として現れた。塔は空を突き、底は地面に固定されず、わずかに浮遊している。周囲に青い風のバリアが張られ、近づくだけで体が弾かれる。マップに表示された名前は——絶技の蒼穹塔 (ぜつぎのそうきゅうとう / Azure Spire of Absolute Mastery)50フロア構成の技の塔。戦闘技術と反射神経、ジョブの極限を試す塔。兄鬼が刀を構え、静かに言った。「ここが二つ目か……風が強いな」千歳は兄鬼の隣に立ち、鬼面を被り直した。「兄鬼、今度も一緒に」ガントが巨盾を掲げ、クローネが杖を握り、ルミナがガンを確認する。鍵の宝石は、まだ輝きを弱めていない。残り三つの塔が、どこかで待っている。蒼穹塔の入口が、風を切り裂いて開いた。グループは一息つき、塔へ踏み入った。内部は、風が常に吹き荒れる戦場だった。各フロアに待ち受けるのは、特定の武器やジョブのマスター級モンスター。剣士フロア、槍使いフロア、弓使いフロア、魔法剣士フロア——階を上がるごとに敵の技量が上がり、グループは一進一退の激戦を繰り返した。傷は増え、息は上がり、誰もが限界を感じ始めていた。それでも、みんなで進んだ。そして、50フロア——最上階。広大な空中庭園のような空間。風が唸りを上げ、青い空がどこまでも続く。中央に立つのは、塔の最終守護者。Tempest Blade Sovereign (テンペスト・ブレイド・ソヴリン / 嵐刃の覇王)人型だが、体は半透明の風で構成され、手に持つ二本の剣は嵐を纏っている。動きは目で追えないほど速く、斬撃は風圧だけでプレイヤーを吹き飛ばす。戦闘開始直後、グループは苦戦を強いられた。嵐刃の覇王の剣閃が空間を切り裂き、兄鬼の刀を受け止め、逆に弾き飛ばす。千歳の二刀流も、風の壁に阻まれ届かない。ガントの盾は風圧でひび割れ、クローネの氷魔法は風で散らされる。ルミナの重力砲弾も、嵐の中で軌道を曲げられる。嵐刃の覇王の咆哮が部屋を震わせ、グループのHPが一気に削られる。兄鬼が歯を食いしばり、刀を握り直した。「このままじゃ……まずい」千歳の鬼装も発動したが、紅蓮の炎すら嵐刃の覇王の風体を溶かせない。時間切れで解除され、千歳は膝をついた。グループは追い詰められ、半数が戦闘不能に近い状態。兄鬼が前に出た。「捺鬼、下がれ! 俺が時間を稼ぐ!」千歳が叫ぶ。「兄鬼、危ない!」だが、兄鬼はすでに突進していた。長い日本刀を低く構え、紺色の鬼面の下で瞳を鋭く細める。嵐刃の覇王が二剣を交差させ、超高速の斬撃を放つ。風が咆哮し、空間が歪む。兄鬼はそれを——受け止めた。刀身が震え、腕が痺れるほどの衝撃。だが、一歩も引かない。さらに連撃が来る。兄鬼は刀を振るう速度を上げていく。最初は互角。次に、少し遅れる。兄鬼の心の中で、声が響く。——まだだ。この速度じゃ、倒せない。もっと速く。もっと——光よりも速く!刀が震え、残像が生まれる。兄鬼の動きが加速。斬撃の音が重なり、風を切り裂く。嵐刃の覇王の剣が、初めて兄鬼の刀に弾かれる。グループが息を呑む。兄鬼の刀が青い光を纏い、無数の残影を生む。「——『蒼穹絶影斬 (そうきゅうぜつえいざん / Azure Phantom Severance)』!!」兄鬼の叫びとともに、刀が嵐刃の覇王を貫いた。風の体が裂け、嵐が収まる。嵐刃の覇王が膝をつき、崩れ落ちる。全プレイヤーの視界に、システム通知が響いた。【オリジナルクリエイティブアビリティ獲得:『蒼穹絶影斬 (そうきゅうぜつえいざん / Azure Phantom Severance)』
獲得者:兄鬼】【Tempest Blade Sovereign 討伐】【絶技の蒼穹塔 踏破】部屋が静まり返った。次の瞬間、グループから驚きの声が上がった。「え……オリジナルクリエイティブアビリティ!?」「マジかよ……あれ、都市伝説レベルのやつじゃ……」「技の塔で新しく生み出された……? そんなの聞いたことないぞ!」クローネが目を丸くして兄鬼を見た。「伝説のアビリティ……あなたが作ったのね」ルミナも珍しく声を上げた。「すごいわ……本当に、伝説が生まれた瞬間を見ちゃった」ガントが巨盾を下ろし、感嘆の息を吐いた。「……不動の鉄壁の俺が言うのもなんだけど、鳥肌立ったぜ」千歳は兄鬼の袖を掴み、興奮気味に言った。「兄鬼! すごいよ! オリジナルアビリティだよ!?」兄鬼は鬼面を外し、照れくさそうに頭を掻いた。「……たまたまだよ。限界を超えたら、こんなのが出てきただけで」だが、みんなの目は尊敬と驚嘆に満ちていた。オリジナルクリエイティブアビリティ——超難度タワーで、プレイヤーが自ら“創造”した技がシステムに認められ、唯一無二のアビリティとして登録される、噂レベルの現象。これまで実証された例はほとんどなく、都市伝説扱いだった。それが、今、兄鬼の手に生まれた。光の柱から、新たな鍵が現れ——ラストアタックを決めた兄鬼の手に渡った。宝石が、次の方向を指し示す。塔全体が揺れ始め、グループは光に包まれて地上へ転移された。絶技の蒼穹塔が空から消えていく。兄鬼の手にある鍵の宝石が、次の方向を指し示す。残り三つの塔。伝説のアビリティを手にした兄鬼と、仲間たち。戦いは、まだ終わらない。




