第2章 生存者の集結
Vorthrax Chaos Drakeの討伐からわずか数分。秋葉原の中央通りは、まだ炎と煙に包まれていた。捺鬼と兄鬼は、背中を預け合いながら、押し寄せる雑魚カオス・モンスターの群れに立ち向かっていた。Azure Fang Abyss Wolfの小型個体が二十体近く、Crimson Vortex Hydraの幼体が四体、Umbra Bind Leviathanの触手分体が地面を這い回る。「千歳、右側七体来てる!」「わかった、兄鬼!」千歳の二刀が紅い軌跡を描き、兄鬼の長い日本刀が紺の閃光を放つ。雑魚とはいえ、数が多い。連携してくる攻撃は苛烈で、一撃で倒すのは難しい。二人は刀を交差させ、狼の群れが一斉に飛びかかってきた踏み潰し攻撃を同時に受け止めた。地面が震え、衝撃で膝が沈む。狼の牙が刀身をかすめ、火花が散る。「くっ……重い!」「耐えろ、捺鬼!」兄妹の刀が十字に絡み、互いの力を借りて押し返す。しかし、後ろからHydra幼体の炎が迫り、横から触手が絡みついてくる。回避が間に合わず、千歳の着物が焦げ、兄鬼の肩に触手が巻きつく。HPが危険域に落ち込む。このままでは押し潰される——その瞬間。遠くの高層ビルの屋上から、穏やかで優しい女性の声がシステム音声のように響いた。《Gravity Cannon Safety Release》続いて、充電を示す機械音声が全域に轟く。《10%……30%……60%……100%……120%……150%! Over Reactor Flow!》次の瞬間、巨大な重力波の砲弾が空を切り裂き、雑魚モンスターの群れを一気に押し潰した。狼の体が地面にめり込み、Hydraの頭がねじ曲がり、触手が粉々に砕け散る。衝撃波が通りを掃い、敵のほとんどが跡形もなく消滅した。千歳と兄鬼は刀を下ろし、声のした方向を見上げた。屋上から優雅に飛び降りてきたのは、長い銀髪をなびかせた女性アバター。淡いブルーのカウガール風コートに、腰の両側に巨大なガン・ホルスター。アバター名は「Lumina Grace」(ルミナ・グレイス)。おっとりとした柔らかな笑みを浮かべながら、両手のガンキャノンをゆっくりとホルスターに戻す。「あら、大変だったわね。お怪我はありません?」声は穏やかで、戦場の空気さえ和らげるようだった。千歳は目を丸くした。「……ありがとう! 助かった!」兄鬼も軽く頭を下げた。「ナイスショットだ。あのオーバーチャージ、わざとだったのか?」ルミナは小さく微笑み、首を傾げて答えた。「ええ。150%まで溜めると、負担は大きいけど……粉々にできるから」その言葉の最後、彼女の瞳がわずかに輝いた。柔らかな笑顔のまま、さらりと続ける。「敵は完全に消し去った方が、後腐れなくて気持ちいいでしょう?」千歳は一瞬、ぞくりとした。おっとりした口調と、サイコパスめいた本音のギャップ。兄鬼も苦笑いを浮かべながら、肩をすくめた。「……確かに効果的だったけど、怖えよ少し」ルミナはくすくすと笑い、悪びれずに言った。「ふふ、ごめんなさい。でも、生き残るためには必要でしょ?」三人で残りのわずかな敵を片付けると、ルミナが提案した。「生き残りは秋葉原駅に集まってるみたいよ。一緒に行きましょう?」こうして、三人は駅前広場へ向かった。広場にはすでに五十人近い生存者が集結していた。重装剣士、魔法使い、ガンナー、ヒーラー——さまざまなジョブのプレイヤーが、疲れた顔で情報を共有している。千歳たちは輪に加わり、現実世界の惨状を知る。仮想で壊されたビルが現実でも崩壊し、死者が出ていること。家族が無理にギアを外そうとして、一緒に感電死したケースが続出していること。沈痛な空気が流れる中、再び全域に赤いウィンドウが展開された。【ゼロ・リセット 追加通知】『浄化は進行中。
だが、我々は完全に無慈悲ではない。生き残る方法を提示しよう。これは知恵と気力のテストだ。Parallel Frontierには、五つの超難度タワーがある。深智の黒曜塔(Abyss Obelisk of Profound Wisdom)
絶技の蒼穹塔(Azure Spire of Absolute Mastery)
創世の虹晶塔(Prism Tower of Genesis)
不滅の紅蓮塔(Crimson Pagoda of Indomitable Will)
終焉の銀時塔(Argent Chrono-Tower of Apocalypse)これら五つをすべて踏破した者だけが、最後の「至高天覇塔 神座エテルノヴァ」(Eternova Throne of Divine Supremacy)への資格を得る。神座エテルノヴァの最上階を攻略すれば、オリジナルアビリティ「God Knows」が手に入る。それは、この状況を打破する鍵となるだろう。だが——我々はすでに介入済みだ。五つのタワーをすべて踏破した者には、オリジナルアビリティの代わりに、
特別な「解放プログラム」を付与する。これを使えば、全プレイヤーのダイバーズギアを強制解除できる。ただし、成功率は未知数。
失敗すれば、全員即死だ。さあ、生き残りを賭けたテストを始めよう。人口削減の名の下に。——ゼロ・リセット』広場がざわついた。「深智の黒曜塔……謎解きだけで何日かかるんだよ」「不滅の紅蓮塔は精神崩壊するって噂だぞ」「神座エテルノヴァなんて、誰も見たことないのに……」千歳は兄鬼とルミナを見た。兄鬼が静かに言った。「……やるしかねえな。五つ全部、攻略する」ルミナはおっとり微笑みながら、ガンを軽く回した。「私もお手伝いするわ。敵は……粉々にするのが一番よ?」千歳は少し身震いしつつも、頷いた。「うん……みんなで、生き残ろう」秋葉原駅前。生存者たちの新たな戦いが、ここから始まった。五つの超難度タワー、そして神座エテルノヴァ。ゼロ・リセットの提示した希望——それが本物か、さらなる罠か。兄妹と、若干サイコパスな微笑みを浮かべるガンマンとともに、夜の戦場は続く。




