上手くは言えないな
少し世界に目を向けてみると居なくなったあの子と同じような声の人もいるし同じような顔の人もいる。
当たり前なんだけどやっぱり少し違う。
似ているだけで心はまったく動かないのが自分でも不思議で。
声が重なる瞬間があっても胸の奥のほうまでは全然届かない。
どれだけ遠くから聞こえてきてもあの子の声だけは一瞬で分かったのに。
街の雑踏のなかでふいに聞こえた笑い声が、ほんの少しだけあの子に似ていたときの感覚を今でも覚えている。
振り返る前から「違う」って分かってしまうんだよね。
似ているだけで、その似ているところが逆に欠けているみたいに感じてしまう。
あの子は世界に一人しかいなかったんだと、残酷なくらい単純なことが時間が経つほど骨の奥に沈んでいく。
記憶のなかの声は薄れていくのに、違う声には決してすり替わらない。
顔だってそうだ。
似ている輪郭や似ている目つきの人を街で見かけるたびに、どこかで期待してしまう自分が嫌になる。
でも近づけば近づくほど違いがはっきりして、たった一つの「同じ」が無いだけで別の人になってしまう。
当然なんだけど、それを当然だと納得するまでがずっと苦しい。
世界にはたくさんの声があって、たくさんの顔があって、そのどれもが誰かに似ているのに、たった一人だけは似ているだけでは代わりにならない。
まるで、残された空気そのものにあの子の形が刻まれているみたいに。
思い出すほど静かで、静かすぎて、いつまでもそこにいるのかいないのか、自分でも分からなくなる。
ただひとつ確かなのは、どれだけ似ている人を見つけても、「あの子じゃない」という結論だけは毎回変わらないということだ。




