0008 旅の始まり
フランさんと恋人になってから2週間が経った。
この2週間のうちに旅に出るための準備をしてきた。
僕がいなくなってもフランさんのお店が回るように、新しく従業員を雇い引き継ぎも終えたり、ギルドに他の街に入れるように通行許可証を発行してもらったりと数えきれないことをこの2週間のうちにした。
そしてとうとう今日、街から旅立つ日がきた。
「フランさん、今までお世話になりました。必ず戻ってきます」
「うん。いつまでも待ってるから。行ってらっしゃい!」
フランさんにお別れを伝え、街を発つ。
この街で僕は今までいろんなことを経験してきた。
15歳の頃この街に来て、最弱として蔑まれて住むところもなくて死にかけた。でも、フランさんに拾ってもらってなんとか今日まで生きていけた。
1ヶ月前に加護を授かってから、僕の人生は大きく変わった。それこそ、こうして旅に出れるようになるくらいには。
これからいろんな困難や楽しいことが僕を待っている。
そこに向かって僕は一歩を踏み出す。
「行ってきます!」
◇ ◇ ◇
馬車に乗せてもらって、隣の街へと向かう。
ガタンガタンと馬車の中で揺られながら、これからのことについて考える。
今向かっている町の名前はヴィネッタ。
大きな湖の上にある水上都市だ。観光名所としても有名な街で、水系統のスキルを修行するための都市としても知られている。
この街を行き先に選んだのは近かったのと、この街で水神の加護についての情報を少しでも得られたらいいな、という思いがあったからだ。
加護というものをもらった人がいるなんて、未だかつて聞いたことがない。もし、他にもらった人がいたのだとすれば詳細を知っておきたい。
それに、今僕の戦闘に関係するスキルは水系統のみだ。
それなら水系統のスキルを強化する方が強くなるためには手っ取り早い。
街に着いたら、神殿に行ってみて加護について聞いてみよう。
もしかしたら何か知っているかもしれない。
馬車に揺られているとだんだん眠くなってきた。
まだ道のりは長いから、少し眠ることにした。
「お客さん、起きてください。着きましたよ」
「んんっ?」
御者の人に体をゆすられて、目を覚ます。
どうやら街に着いたみたいだ。ぐっすり寝てしまっていた。
馬車に乗せてもらったお金を払い、町の中に入るための門へと近づく。
街に入るためには、ゲートと呼ばれている場所を通るのだが、そこで身分証だったり通行許可証を見せる必要がある。
いつでも見せれるように、手に持って準備する。
乗せてもらった馬車は確認が終わったようで、町の中へと入っていく。
御者の方がお辞儀してくれたので、僕もお辞儀をする。
門を通る前に馬車を下ろされたのは、馬車と人でゲートが違うからだ。
馬車の方のゲートは馬車の荷物まで細かく確認される。その時に馬車に乗っていていいのは御者のみと決まっているのだ。
当たり前なのだが、観光名所であるこの街にくる観光客は多い。
ということはそれだけ、ゲートを通るための列が長くなるということだ。さらに、通行許可証がないとかトラブルがあれば列は止まる。
なかなか進まず二時間だけが過ぎていく。
僕がゲートのところに辿り着いたのは、馬車から降りて1時間後のことだった。
「お待たせいたしました。身分証明書と通行許可証はございますか?」
手に持っていた2つを渡す。
「はい、大丈夫ですね。ヴィネッタへようこそ!」
お兄さんの声と共にゲートが開き、街へと足を踏み入れた。
「すごい…水上都市だ…」
ヴィネッタに入って最初に目に映ったのは、地面より多くの面積に広がる湖の水だった。この街は湖の上に建てられた街だから、水路が町の中にたくさん広がっている。
主な移動手段は船で、町の至る所を通っている水路を通って移動する。
観光客はそうもいかないが、この街に住んでいる人は船を持っているのが当たり前、という雰囲気だ。
さらに水がキラキラと輝いていて、今まで見たどの水よりも綺麗だった。
さすが水の街だ。
水路のいく先を目で辿っていくと、遠くに見える大きな神殿に繋がっている。
あの神殿こそ、僕の目的地だ。
早速神殿に向かって歩き出そうとしたが、歩くより船に乗る方が速そうだと思い、近くのバスに乗って神殿に向かうことにした。
この街じゃバスも船だ。こんな街、世界中でここしかないんじゃないだろうか。
バス乗り場でお金を払い、バスに乗る。
客が乗り終わると、バスはゆっくりと動き出した。




