0005 水撃のイメージ
水撃の練習を始めてから2週間がたった。
ようやく8割ぐらい的の中心に当てられるようになり、動く魔物にも当てられるようになってきた。
この2週間ひたすら水撃を打ち続けてわかったことは、水撃は水鉄砲に似ているということだ。水鉄砲は近いところにあるものを打つ分には、そのまま当てたいところを狙えばいい。しかし、遠いところにあるものを狙うときは水が下に下がることまで考えて狙わなくてはいけない。
水撃も同じようなものだ。
水鉄砲とは違って勢いが強い分、下に下がりにくいがどうしても真っ直ぐは飛ばない。きっとさらに上達すれば真っ直ぐ飛ばせるようになるんだろうが、今はできない。
そこで、下に下がることまで考えて打てば当たるようになったというわけだ。
しかし困ったことに真っ直ぐ飛んでいないからかもしれないが、威力が弱すぎてフットラビットも一撃で倒せない。
そんなわけで今度はコントロールではなく、威力をあげようじゃないかと、フットラビットに向けてひたすら打って練習することにした。
「しっかり狙って、水を一箇所に集めて、一気に放出するイメージで…!」
「水撃」
放った水撃はフットラビットに命中はしたものの倒しきれていない。
このイメージじゃきっと威力は上がらない。
それなら、色々やってみるしかないよね。
やってみるイメージは、一度だけ見たことがある銃とかいう武器だ。
子供の頃、街の中に現れた魔物を冒険者の人がその銃とか言った武器で倒しているのを、見たことがある。
それから、それを見た大人が水鉄砲というものを子供に売り始めたんだっけか。
「指から鉄の弾が出るイメージで、思いっきり打つ!」
「水撃」
僕が放った水の弾は見事にフットラビットに命中し、一撃でフットラビットを削り切った。
「よし、このイメージなら…!」
それからこのイメージを定着させるため、フットラビットに向けて水撃を放ち続けた。
日が暮れる頃には、フットラビットを20体倒していた。
「やっぱり一撃だと楽だな。2週間前からは考えられない成長だ」
加護を手に入れたあの日から僕の人生は変わった。
街の中で馬鹿にされることは少なくなったし、ギルドの中でもコソコソ陰口を叩かれることもない。
最初はみんな僕のスキルのことを他人から奪っただの、裏ルートから入手しただの、散々言っていたが僕のことを馬鹿にしなくても周りから避けられないとわかっただけで、何も言ってこなくなった。
結局みんな、僕を庇って他の人から馬鹿にされるのが嫌だっただけだ。
まあ、別にすぎたことはどうでもいい。
そんなことより、絡まれることがなくなったことでフランさんのお店で接客できる。
おかげでフランさんのお店が前よりも賑わうようになった。
やっぱり僕のせいでフランさんのお店にも迷惑をかけてしまっていた。
これからは少しでもお世話になった恩を返していかないとな。
「そういえば、どのぐらい経験値貯まったんだ?見てみるか」
前スキルを獲得してから一度もスキルツリーを開いていなかった。
久しぶりにスキルを取得するか、とスキルツリーを開く。
「な、なんだこりゃ!」
スキルツリーの残り経験値量に表示されていたのは180という数字だった。
よく考えてみれば毎日フットラビットは少しずつ狩り続けていた。その経験値が溜まってここまで溜まったのだろう。
早速スキルを獲得するかとスキルツリーのスキルを見る。
今回は新しいスキルを試してみたい。
とりあえず、洗浄は皿洗いに便利、という理由でⅢまで強化する。
これでもっとまとめてできるようになったら、ものすごく楽だ。
これで残り経験値は120。
水撃と洗浄はⅢまで強化したことで、それぞれ新しいスキルに分岐している。
もちろんさらに水撃と洗浄を強化することもできるが、新しいスキルの方を試してみることにした。
新しいスキルの名前は、「水壁」と「洗浄水」だ。
獲得するために必要な経験値量はどちらも20。強化に必要な40の経験値も足りているため、どちらもⅡまで強化する。
これで経験値は空っぽだ。余ったら返納したかったがしょうがない。
早速新しいスキルを試してみる。
「水壁」
唱えると同時に目の前に大きな水の壁ができる。
できた水の壁に触れてみると、普通の水のようで手が壁の中に入ってしまった。
これが壁になるのか疑わしかったが、試しに思いっきり叩いてみる。
叩くと水が硬くなっていたのか跳ね返された。
どうやらこの水の壁は衝撃から守るためのものらしい。
どういう原理なのかはわからないが、戦闘で使えそうだ。
それに使うのもそれほど難しくない。今度使ってみるか。
もう一つのスキルも試してみようと唱える。
「洗浄水」
唱えると手の前の空間に大きな水の塊ができ、フワフワと浮かんだ。
水生成のような感じだが、洗浄水という名前から感じるに洗浄と水生成が組み合わさったものなんだろう。
一応、スキル一覧から確認する。
確認すると、想像していたものと大体は一致していた。
ただ一つ違った点が、この洗浄水がアンデッド系の魔物に大ダメージを与えるという効果を持っていることだ。
日常的には洗浄効果のある水として使え、戦闘時はアンデッドへの攻撃として使える。相当な便利なスキルのようだった。
新しいスキルを手に入れてニコニコしながら、ギルドに換金しに向かった。
「換金よろしくー」
「はーい。フェート今日もニコニコだね。今日は、20体?20体も倒したの?」
ギルドで換金してもらおうとフットラビットの素材を渡すと、素材の数を数え終えると、あり得ないというふうに僕のことを見てくる。
僕が馬鹿にされないようになって、こいつの対応が少しウザくなくなった。
日々のストレスの軽減だ。
「そうだよ。早く換金して、フランさんの手伝いしなきゃいけないから」
「はいはい、そうでしたね。ほい、お金」
受け取ったお金の数を数えてあっていることを確認し、ギルドを出てフランさんのお店に向かう。
今日の稼ぎは銀貨2枚だ。
銀貨1枚で銅貨30枚だから、加護をもらう前の10日分ぐらいのお金だ。
銀貨2枚稼げれば十分暮らしていける。着実と旅に出る日が近づいていることを実感している。それまでにフランさんにきちんと恩返しができるよう頑張ろう、とお店の中に足を踏み入れた。
「フェートおかえりー。今日もお願いね」
「はい、任せてください!」




