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0012 多重展開

師匠の修行はとても大変だった。

食トレだとかでたくさんご飯は食べさせられるし、睡眠時間もバラバラに設定されて生活リズムも崩れた。


でもその分、1ヶ月経つ頃には、明らかに強さが変わっていて驚くばかりだった。

師匠の修行は辛いし、師匠も修行中は鬼だ。


それでも師匠は根は優しくて、休みもきちんとある。最初はもうやりたくない、と逃げてばかりだったかが、今はこの人のもとで修行してよかったと思っている。


そして修行開始から1ヶ月経った今日、再び森で戦闘訓練を行う。

修行前に一回やった時は熊をなんとか倒せたが、再戦したら勝てないだろう、と師匠に言われるほどのギリギリだった。


だが、修行した今ならあの熊にもきっと勝てる。

そう思ってさほど緊張もせず、今日に臨んだ。


「師匠、倒すのがコイツとは聞いてないですよ…」

「なんだ、不服か?お前ならこいつも倒せるだろ」


はぁ、とため息をついて僕は少し先で湖の水を飲んでいる大きな鹿を見る。

この鹿はこの森の主と呼ばれている鹿で、水系統のスキルを大量に所持していることから、「水鹿」と呼ばれもする。


そんな奴とまともに渡り合えば、今の僕でも勝てるとは思えない。

でも師匠が勝てない相手に戦わせるとも思えない。きっと今までの修行で勝てるなにかを僕は手に入れているんだろう。


そう考えているうちに水鹿は、隠れていた僕らに気づきこちらに向かって、水撃を放ってきた。


「ちょっ…水撃はなてるのかよっ」

「ははっ、お前が使えるスキルは相手も使えると思え!」


師匠のいうことがもし本当なんだとしたら、あいつは少なくとも、水撃、水壁、洗浄水、洗浄、水生成、そして修行中に新しく手に入れた散水の6つを使ってくるということだ。

洗浄と洗浄水、水生成は戦闘ではあまり使えない。

そうなるとこちらの使えるスキルは3つ。一方で水鹿はいくつスキルを持っているのかわからない。


そうなると、差があるのは知力しかない…!


水鹿の放った水撃を全て避けきり、威嚇の意味も込めて強化水撃を1発、水鹿の足元にはなつ。

当たり前のように避けられ、水鹿は反撃と言わんばかりに水撃を多重展開してくる。


「多重展開までできるのかよっ!」


水撃を木などでなんとか防ぎ切り、どうやって攻撃するかを考える。

今の攻撃から見る限り、こいつも水壁で威力が増幅することはわかっていない。それなら、同じ数打てば威力の差でこちらが勝てる。

威力が勝っているからとはいえ、当たらなくては意味がない。どうする?


考えているうちにも水鹿は追撃の準備として、水撃の多重展開をしている。

このまま受けの体制に入っていたら、先にやられるのはこっちだ。

こうなったら…!


覚悟を決めて、水鹿の前に姿を現し、攻撃の準備を始める。


「散水、水撃、水壁、同時多重展開!」


使えるスキルを全部多重展開する。

スキルを多く同時に使えば使うほど、集中力と体力を使う。絶対に集中を切らさない。切らしたら僕は死ぬ…!


攻撃の準備が先に整ったのは水鹿で、水撃が僕に向かって飛んでくる。


「来た!発射!」


敵の水撃が水壁に当たる前に、水撃と散水を放つ。

僕はずっとこのチャンスを待っていた。


修行の期間に新しくわかった水壁のもう一つの仕様。

それは、敵の攻撃が水壁を通り抜けた時も同じように威力が増幅するが、水壁の中で僕の放った水撃と散水とぶつかれば、威力の高かった方に吸収されるということ。


要するに、水壁に先に入る僕の水撃と散水に、水鹿の水撃は威力は絶対に勝てないことを利用して、敵の水撃の威力までも吸収して威力を上げようということだ。


無事その試みはうまくいったようで、水壁の中で今まで以上に水撃と散水の威力が増幅し、水鹿に向かっていく。

水鹿はどうにか防御しようと水壁を展開するが、それは逆効果だ。


さらに威力の上がった水撃と散水は、水鹿の体に容赦なく当たり、僕の弾幕が終わる頃には、水鹿は倒れていた。


「よっし!」


なんとか水鹿を倒せた。

もし攻撃するタイミングが少しでも違ったら、死んでいたのは僕の方だったろう。

ともかく倒せてよかった。


「いやー、やるな。そんなに苦戦してなかったじゃないか」


師匠が戦闘が終わったのを見て、近づいてくる。

今の戦闘のどこが、苦戦してないように見えたのだろうか。


「これなら、修行は終わりで良さそうだな。おめでとう、卒業だ」


卒業だって?まだまだ強くなれることはあるというのに。


「師匠、まだまだ僕は学ばなきゃいけないことがあります!」

「ああ、そうかもな。だが俺から教えられることはもうない。これからは自分で、その答えを見つけるんだ。強くなりたいなら、自分で答えを探すんだ。いいな?」


師匠の言っていることは、正しいと思う。

確かに、人から答えを教えてもらってばかりいては強くはなれないだろう。

でも、まだ師匠から教わっていないことはたくさんある。もう少し、もう少し、そう言いたいのをグッと堪えて、師匠に告げた。


「今まで、お世話になりました!」

「おう」


師匠の元から巣立つ時が来た。

1ヶ月という短い期間だったけど、師匠からはいろんなことを学んだ。

これからは一人で答えを見つけていかなくてはならない。その言葉を忘れずに、前を向くことにした。


「痛かったぁ、はぁ水飲んでただけなのにさ」


突然背後から声がして、振り返る。

振り返った先には、先ほど倒したはずの水鹿が起き上がっていた。


「今、しゃべった…?」

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