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0011 修行

休憩所に着き、フラフラしている2人をソファに座らせる。

2人はぐったりとソファに座り、何かに落ち込むようにうつむいた。


「水神様に見放されていないといいのですが…」


しばらくしてお婆さんは俯きながらそう言った。

どうやら水神様の目の前で気を失ってしまったことを気にしていたみたいだ。

最後の水神様の感じだとその心配をする必要はなさそうだけどな。


「心配ないですよ。水神様は気にしてないです」

「そうだといいのですが…」


お婆さんはため息をつきながらうなだれている。

やっぱり水神様と直接会えたのに、失礼をしてしまったのが心配で仕方がないらしい。まあ、そりゃそうだ。


信仰してきた神様の前で失礼を働いたら、心配にもなるよな。


一方お婆さんがうなだれているのに対して、若い女性は少し回復して生き生きとしていた。


「それで、これからあなたはどうするの?」


考えてもいなかったことを聞かれて、少しドキッとする。


この街に来た目的だった加護についての情報は得られた。

その情報に合わせて考えるつもりだったから、これからどうするかは何も考えていなかった。


「まだ考えていないです」

「そうなんだ。それならこの町で修行していけば?水系統のスキルの持ち主なんだから、修行にはぴったりだよ」


確かにこの街は水系統のスキルの成長がはやい。

それならこの街で修行して強くなって別の街に行くのがいいのかもしれない。


「そうですね。僕は何年かこの町で修行をして神水を取り返せるぐらい強くなります」


そうだ、神水も取り返さなくてはならない。

そのためにももっと強くならないと。


「それなら、師匠を用意しましょう。水神様の認めた人ですから最高の師匠を用意させていただきますね」


さっきまで項垂れていたお婆さんが僕の修行の話を聞いて、起き上がりニコニコでそういった。

多分水神様に失礼なことをしたことの挽回のチャンスだと思ったんじゃないだろうか。


それから3日が過ぎた。

神殿の空いている部屋に泊まらせてもらい、この街の観光をして3日間を過ごした。

そして今日、お婆さんが用意してくれた師匠と面会する。


「お前がフェートか?」


面会の場所として指定された神殿の中庭で待っていると、後ろから声をかけられた。

振り返るとそこには、筋肉質な体で背中に大剣を携えている金髪の男性が立っていた。


「はい。あなたが師匠ですか?」

「ああ、そうだ。今日から俺はお前の師匠だ。一つだけ決めておこう。俺に口答えをするな。いいな?」


師匠は目で圧をかけながら「はい」というのを待っている。

強くなるためにこの人の弟子になるのが近道になるなら、断る意味がない。


僕は大きな声ではっきりと、「はい!」と返事した。


「いいだろう。早速修行を行う。ついてこい」

「はい」


師匠に連れられて町の外の森にきた。

この森は湖の近くに作られているからか、水系統のスキルを使うモンスターが多い。

水系統のスキルは水系統の魔物に対してはあまり攻撃が効かない。

効果はいまひとつ、なのだ。


だから水系統のスキルの人がこの森のモンスターを一人で倒すのは難しい。

敵からも同じようなことが言えるが、物理攻撃で攻撃してくるため敵の方が有利なことが多い。


そうやって町のみんながこの森を避けているうちに、森のモンスターはどんどん強くなっていき、魔水の森と呼ばれるようになった。


そんな森に連れてきて一体何をするというのだろうか。


「お前はこの森のモンスターと戦ったことはあるか?」

「いえ、まだ街に来たばかりですし…」

「そうか。それなら今からお前には一人でこの森のモンスターと戦ってもらう。ひとまず今のお前の力を見たいからな」


一人だって?

師匠だってこの森のモンスターを水系統のスキルの人が一人で倒すことは、難しいと知っているはずなのに。


師匠を見ると、「早く行かないのか?」といいたげな顔をしていた。

この目はマジだ。


ここでクヨクヨしていても仕方がないと思い、森の中へと足を踏み入れる。

森の奥へと進もうともう一歩を踏み出そうとした時だった。


「グァァァァ!!」


近くの洞穴から体に水を纏っている熊が進路に現れた。

相手は1体。本当なら戦いたくはないが、師匠に口答えせずやれと言われている以上やるしかない。


「水弾」


ひとまず熊目掛けて水弾を放って牽制する。

ダメージが少しでも入ってくれることを願っていたが、見る感じ痛くも痒くもなさそうだ。


そうなると最大火力で押し切るしかなさそうだ。


「水壁からの水撃!」


あまり練習では成功していなかった最小水壁に水撃を通す、最大火力強化水撃を放つ。水撃は無事に水壁を通り、勢いを増して熊に向かっていく。


バァーン


勢いよく熊の手へと直撃し、大きな音を立てた。

当たった場所を見ると少し赤くなっているぐらいで大きなダメージにはなっていなかった。


今打てる最大火力の攻撃でも大きなダメージになっていない。

それに次も最大火力の水撃を打てる確証はない。このままじゃ絶対勝てない…!


何か新しい策はないかと周りを見渡す。

周りに使えそうなものはなく、勝てないという事実が迫ってくるだけだった。


そうだ、あれならいけるかもしれない!


今まで一度も試したことのないことをぶっつけ本番でやってみることにした。

成功するかはわからないが、成功すればもしかしたらあるかもしれない!


「水壁多重展開!」


唱えると同時に小さな水壁を目の前に5枚展開する。

小さいとはいえ、最小ではなく練習で強化水撃を確実にできるようになった大きさのものを展開する。


「多重水撃!」


水壁多重展開に合わせて水撃も多重展開する。

多重展開するのは初めてで成功するのかはわからなかったが、どちらも無事に発動し放てる準備は整った。

多重水撃は普通の水撃とは違って即時発動ではなく、展開から発射まで時間差がある。


「発射!」


僕の声に合わせて大量の水撃が水壁を通って熊に向かって飛んでいく。

5枚全ての水壁を通った大量の水撃は、容赦なく熊に向かって襲いかかる。


大量の水弾が熊に直撃し、大きな音を立て続ける。

全ての水弾が熊に直撃し終わる頃には、熊はボロボロになっていた。


押し切るなら今だ、と強化水撃を1発熊に向かって放つ。

放った水撃は熊に直撃し、止めを刺した。


熊は大きな音を立てて倒れ、動かなくなった。


「お前、やるな」


戦闘が終わったのを見て師匠が近づいてきた。

顔を見るとニコニコで頷いている。


「よし、これなら俺の弟子になる適性がありそうだ。まさか水壁にあんな使い方があったとはな」


師匠はそう言って僕の頭をガシガシと撫でる。

撫でている間師匠はニコニコで僕のことを見ている。

この人は怖い見た目をしているが、優しい人なんだ。こんなにニコニコしながら頭を撫でる人が怖い人なわけがない。


そういえば、師匠は水壁を通ると水系統のスキルの威力が上がることを知らなかった。もしかしたら、気づいているのは僕だけかもしれない。

だとしたら、戦闘の時に大きなアドバンテージになる。

とはいえ、他のスキルももっと磨いて他のアドバンテージも見つけなきゃな。


そんなことを考えながら、しばらく師匠に頭を撫でられていた。


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