0010 水神様
光が収まると、玉座に水色のドレスを着た女性が座っていた。
女性はすぐに玉座から立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。
『これで私が見えますか?』
また頭の中に直接声が響く。もしかしてこの声はこの人なのか?
「まさか、水神様…でございますか?」
お婆さんが女性にそう聞いた。僕も薄々そう感じていた。
突然光から現れる人なんかいるわけがない。
あんな神々しい光から出てくるのは神様とか天使だろう。
「ええ、私は水神と呼ばれているものです。ちょっと彼に用がありまして」
そう言って水神となのった女性はこちらをみる。
どうやら本当に水神みたいだな。
「あの、僕に何の用が?」
「今日は加護について私からあなたに説明しようかと思いまして」
加護について?願ったり叶ったりだが、そんなことを神から教えてもらうことが代償なしでできるのだろうか。
「加護について教えてもらえるのは代償なしですか?」
「勘が鋭いですね。教える代わりに一つお願いを聞いてほしいのです」
それから水神様は1つのお願いとその理由を説明した。
水神様のお願いというのが、「神水」を回収してほしいというものだった。
神水というのは、水神様がこの湖を作った時にこの地に授けたものの一つだ。この地に授けられたものは三種類あり、神水と魔晶と神石の3つだ。
神石はこの街が水の都市と呼ばれている理由になっているもので、水系統のスキルの成長を早めてくれる。
魔晶は水の魔力の中でもトップクラスの純度の魔力で作られている水晶で、これのおかげでこの街には綺麗な水が流れている。
こんなふうにこの街で授けられたものの2つは有効活用されている。
だが、神水だけは使われていなかった。
なぜか。それは、神水はもうこの街にはないからだった。
100年前、代々水系統のスキルを持っている貴族の一人、アクア家がこの街を訪れた。訪問の理由はご子息のスキルの修行のためで、約3ヶ月ほどこの街に滞在した。
そして滞在の間にご子息だけでなく、当主もぐんぐん成長し水系統のスキルの持ち主の中で5本の指に入るほどの力の持ち主になった。
それを理由に、「この街にある神器の3つは私が持つにふさわしい」と神殿の中に無理やり押し入ってきた。
もちろん、神殿の人たちは止め神器を死守しようとした。
しかし、強くなった当主は止まることがなく神殿の奥へと進んでいき、神器を守っていたガーディアンと呼ばれる水神様の遣わした門番も破壊し、神器の一つである神水を盗んだ。
当主が神水を盗んだのは、3つの中で一番効力が強いからという理由だ。
神水の効果は、飲むと一時的に水系統スキルの強さが格段に上がり、神水を使ってスキルを放つと性能が格段に上がるという戦闘面で優秀なものだ。
さらには神水はどれだけ飲んだり使ったとしても減ることのない、無限瓶という神器の中に入っている。
そんな神水を盗んだことでアクア家は突然貴族の中の階級を駆け上がり、今では王家の次に権力の強い4家のうちの一つになっている。
神水を使ってスキルを強化して、どんどんと貴族の階級を駆け上がっていっただけに飽き足らず、アクア家は「神水教」という宗教をつくり水神様ではなく神水を崇めている。
神水教はだんだんと勢力を拡大していて、世界に50万人の信者がいる大きな宗教となってしまっていた。
そんな状況を見かねた水神様は、どうにかしてその暴挙を止めようと僕を頼ってきたらしい。
話を聞いてる限り、今の僕では全く歯が立たないぐらいの強さを持っている集団だ。下手すれば命を失うぐらいには危険な話だと思う。
それでも僕はそのお願いを引き受けることにした。
それは加護について知りたかったからでもあるし、そんな暴挙を繰り返しているアクア家に対する怒りでもあったかもしれない。
「いいのですか?私がお願いしておいていうのもなんですが、相当危険です。それでもやってくれますか?」
「はい。アクア家はぶっ飛ばして、必ず神水を取り返してきます」
「そうですか。頼もしいです。それじゃあ、加護について詳しくお話ししますね」
水神様が語った加護についてはそれほど新しい情報ばかりではなかった。
大まかなことは僕が予想していた通りだった。
加護について新しくわかったことは大きく分けて2つ。
1つは、加護というのは僕しか得られないもので加護一つ一つにスキルツリーがあるということ。そして加護は授かったスキルとは違い、グレードアップすることがあり、条件を満たせばさらに強い加護になるらしい。
そのグレードアップの必需条件が信仰の強さだ。
信仰心がどれだけしっかりしているのかというのを神様というのは感じ取れるらしく、それによって加護を強化してくれるらしい。
水神様曰く、僕の信仰心は高いらしくそのままお願いね、と言われた。
この情報は大きな収穫だ。
もう1つは、加護の効果は相乗効果があるということ。
普通のスキルだと相乗効果というものはなく、掛け算だったり単体単体の効果の足し算になる。しかし、加護の場合はスキルと加護の相乗効果も、加護同士の相乗効果も発生する。
相乗効果をうまく使えば、戦力差が大きくある相手にも立ち向かえるようになることがある。早めに実験しておかないとな。
「ありがとうございます。おかげで加護については理解できました」
「こちらこそ、お願いを引き受けてくださったので助かります。よろしくお願いしますね」
そう言って水神様はにこりと笑う。
「ああ、そういえば経験値はどんどん返納してくださいね。水系統スキル以外が欲しくなったら返納すればきっと加護がもらえるはずです。でも神に対する信仰心は忘れないでくださいね?」
そう言いながら水神様は僕に指を刺しながら、無邪気に笑った。
見た目はクールな美女だけど、笑顔はとっても可愛いらしい。
そんな水神様と一緒にいた時間が長すぎて、気を保っていられなかったのかお婆さんたちは気を失って倒れている。
「あら、倒れてしまっていますね。この2人には私のことは秘密にするように伝えておいてください。それでは、またどこかで」
水神様は手を振りながら光に包まれて消えていった。
水神様が消えてから倒れている2人のところに向かう。
「大丈夫ですか?」
「う…うん、もう水神様はいないの…?」
先に起きたのは若い女性の方だった。
敬語じゃなくなってしまっているあたり、相当びっくりしてしまっていたのだろう。
「はい、もう水神様は帰りました。くれぐれもこのことは秘密に、とのことです」
「秘密にだなんて、そもそも恐ろしくていえないわよ…」
「あなた、何者なのですか?」
突然後ろから声がしてびっくりした。
後ろを振り返ると先ほどまで倒れていたはずのお婆さんが起き上がり、何か恐ろしいものでも見るような目でこちらを見ている。
「僕は水神様の加護を持っているだけの一般人ですよ。別に神様の使いとかでもないですし、そんなに怖がらないでください」
「わかりました…」
そう言いながら恐る恐るこちらに近づいてくる。
足元がふらついている2人を支えながら、ひとまず神殿の休憩所へと向かった。




