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第五話 生まれてきた意味

 ユーリアが薔薇の宮殿内のニコラウスの部屋を去った後、ニコラウスはユーリアに初めて会った日のことを思い出していた。


 その日、ニコラウスは薔薇の庭園で、庭師に教わった薔薇の冠を作っていた。


――完成したら、お母様に差し上げよう。


 と、ニコラウスは考えていた。


 ナイフで危なっかしいながらも、薔薇の花を丹念に取っていった。赤と白の薔薇が交互になるように、工夫を凝らす。

 なんとか編み込んで、薔薇の冠を完成させると、ニコラウスはにんまりした。


――きっと、お母様も喜ぶ。


 その頃、皇帝主催の仮面舞踏会で、何やら良いことがなかったのか、グラティアは顔を曇らせていたのだった。


 お母様に元気なってもらいたい。そう願いながら息子は薔薇の冠を作ったのだった。


 今すぐ、お母様にお持ちしよう、と思ったニコラウスは、グラティアの部屋へ急ごうとした。


 だが、しだれ柳の向こう側から、しくしく泣く子どもの声が聴こえた。

 それが女の子の泣き声だとは気づかなかった。


 女の子の泣き声を聴いたことがなかったニコラウスは、しだれ柳の向こう側を覗き込んで、初めて知ったのだった。


――君、だあれ? どうして泣いているの?


 と、ニコラウスは女の子に話しかけた。


 女の子は、湖の煌めきのような銀髪にスミレのような紫色の瞳をしていた。紫色の瞳には涙をいっぱい、貯めていた。


 あれ、この子の瞳、見覚えあるなあ、とニコラウスは思った。


――お父様そっくりの目だ。


 ニコラウスは気付いた。この泣いている女の子は皇女で、ニコラウスの異母妹だと。


――ねえ、なんで泣いてるの?


 もう一度、ニコラウスが尋ねると、異母妹はしゃくりあげて、言った。


――みんな、私のことが嫌いなの。お父様もお母様も気にしていないのよ。


 異母妹は、そう言って更に泣いた。


――お母様とお父様が君を嫌いだって? 絶対そんなことないと思うけどなあ。君がこんな風に泣いてるのを君のお母様が見たら、悲しむよ。僕のお母様は、僕のこと、“宝物”だって言ってくれるし、“貴方は生まれて来ただけで立派なのよ”って言ってくれるよ? 君のお母様だって、そう思ってるよ。


 ニコラウスは、普段母親から言われていたことを伝えた。


――本当に?


 異母妹の目から涙が零れた。


――本当だよ、あと君、名前は?

――ユーリア……。

――ユーリア? じゃあ、ユリーって呼ぶね。ユリーが生まれて来た時、ユリーのお母様はきっと幸せだったよ。

――そうかしら……?

――そうだよ、元気出してよ、この薔薇の冠をあげるから――。


 薔薇の冠を被ったユーリアは、神秘的な美しさを誇っていた。ニコラウスは、その時、この冠はユーリアのためにあると思った。


 “貴方は生まれて来ただけで立派”。幼い頃、その言葉を何度も聞いた。

 まるで、グラティアが自分に言い聞かせるかのように発したこの言葉は本当に正しいのだろうか。


 ユーリアを慰めた幼い頃は、この言葉の正しさを信じていた。


 だが、婚姻関係を伴わない、皇帝マクシミリアンと愛人グラティアの間に生まれて来た自分は、生まれて来ただけで立派なのだろうか。

 “正しくない子”である自分が生まれて来た時、グラティアは幸せだったのだろうか。


 そして、皇后はユーリアを生んで幸せだったのだろうか。


 ニコラウスは皇后ヘレーネが子どもを生んで、幸せそうにしている様子を見たことがなかった。


「ねえ、ユリー、僕らは生まれてきて本当によかったって、いつかは思いたいものだね」


 ニコラウスは、もうそこには居ない妹に向けて、言葉を紡いだ。

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