十三話 アリアーヌの処遇
ナンシー城は、リュネビル城よりも一段は壮麗であった。
石壁は歪さもなく堅牢で、窓には美しい硝子がはめられていた。
ランガットはナンシー城の廊下で、視線をあちらこちらにやっていた。
ナンシー城は先代アルジャン女公エレーヌの時代からアルジャン公の居住地であり、政務も執り行われる場所でもあった。
ランガットはアンラン領主やアティニー領主といった面々と共に、アルジャン公の執務室へ入室した。
既に、アルジャン女公やユラン伯、サルグミーヌ卿といった貴人と共に戦ったほかの領主たちは、円卓を前にして座っていた。
――この城は執務室まで広いな。
ランガットは公を戴く貴人と土着領主である己との差を感じ取ってしまう。
貴人たちを待たせているので、ランガットたちは臣下の礼を取り、慌てて着席をした。
相変わらず、黒い喪服を纏っているアルジャン女公は、おもむろに口を開いた。
「皆に集まってもらったのは、リュクサン公妃の処遇を決めるためです」
ユーリアの声音は固く、明確であった。
沈黙が執務室を支配した。円卓を前に座る領主たちの視線が、黒い喪服の少女に集中する。
ランガットは自然と背筋を伸ばした。主君であるユーリアの紫色の瞳には、年齢に違う冷徹さが宿っている。
「公妃は今、ナンシー城の地下牢に監禁しております。必要最低限の者以外の接触は一切許可しません」
そのユーリアの言葉を聞いて、サルグミーヌ卿は僅かに頷いた。
「リュクサン公はナンシー城の一部屋にて軟禁。妃への接触は許さない。公妃は独りきりです」
「殿下、公妃をどのようにされるのでしょう?」
サルブール卿が口火を切った。
「――サルブール卿は如何にしますか?」
ユーリアは逆にサルブール卿に訊いた。ユーリアの隣には、ユラン伯が着席しており、サルブール卿はユラン伯の反対隣りに座っている。ユーリアの比類なき紫色の瞳はサルブール卿を捕らえていた。
「……国内の修道院に送るのがよろしいかと。生涯出ることはなく」
サルブール卿の言葉に、サルグミーヌ卿は強く反応を示した。
「サルブール卿はお優しい。わたしは処刑すべきと存じます」
ユーリアの隣――ユラン伯とは反対隣りに座るサルグミーヌ卿は、力強く言った。
「他の皆さんは?」
ユーリアは小首を傾げながら言った。ユーリアの紫色の瞳は妖しく光っているように、ランガットには見えた。
領主たちの意見は割れていた。アンラン領主やアティニー領主などは声高に処刑を主張するも、レディング領主などは修道院送りを主張した。
ランガットは何か言わねば、と思いながらも黙っていた。
彼には会議の雰囲気が恐ろしく思えた。領地にいたときには領地運営をすればよかったし、麦の収穫量を見極めたり、予測したりすることも得意ではあった。だが、ランガットの手が届くことはない貴人の処遇を決めることは荷が重く感じた。
「――ランガットはどう思います?」
ランガットの斜め向かいに座るユーリアがランガットに紫色の瞳を向けた。
その瞳の色は美しいが、ランガットには恐ろしく見えた。
――叔母の運命をこの円卓で軽く決めようとしている。
ランガットには存在しない冷酷さがそこにはあった。これは戦とは違う。静かなる場所で命の行方を選ぼうとする寒々とした処断だった。
ランガットは自身の焦げ茶色の瞳をユーリアの瞳に向けた。
その紫色の瞳は、既に決断を終えているように見えた。
「――わたしは、処刑すべきと存じます」
ランガットの口はからからに乾いていた。
「わかりました。ユラン伯はどう思いますか?」
ユーリアは隣に座るユラン伯に視線をやった。
「――ユーリア様、あのお方はユーリア様の叔母君です。助命すべきでは」
ユラン伯の言葉を聴いて、ランガットは先ほどの緊張をどこかへやった。
――あれ、これは面白くなってきたかもしれない。
ランガットはそう思い、斜め向かいの主君をちらりと見た。
ユーリアの表情は冷たく、部屋の空気が凍り付いていた。
「婿殿! 殿下とリュクサン公妃は同じ血を引く危険な存在。生きていれば災いが起こる!」
サルグミーヌ卿がユラン伯に向かって大声を出した。
「サルグミーヌ卿、静かに。皆の意見はわかりました。また、明日、この時間にここに来るように。明日、私は決断をいたします」
ユーリアがそう言うと、領主たちは頭を垂れ、立ち上がった。
ランガットも他の領主と同じように礼をし、退室しようとした。だが、退室間際に、ユーリアの言葉を聴いてしまった。
――ユラン伯はここに残るように。
ランガットは、残って二人の様子を見たいな、と思った。




