第六話 戦争
民兵から見た戦闘
しがない民兵であるジャンは、リュクサン軍を待ち構えていた。
ジャンは貴族の次男でもなければ、三男でもなく、騎士を志してもいない、平時はただの職人だったが、自分の住まう国が大国レグザゴンの脅威に晒されていると聞いて馳せ参じた。
民兵として訓練はほとんどなく、装備も貧弱――と言いたいところだが、民兵にしてはそれなりに良い装備に身を包み、ジャンは後方部隊を任されていた。
リュクサン公妃アリアーヌ・ダルジャンは、先代アルジャン女公エレーヌ・ダルジャンの妹だが、母親はエレーヌ女公と異なり、レグザゴン王女らしい。
リュクサン公妃はアルジャン公国を我が物にせんと、母親の母国レグザゴンの武力を以て、本来のアルジャン女公である、エレーヌ女公の娘、ジュリー・ド・ブルゴーニュを抹殺せんとしている。
ジャンには、高貴な方々の争いはよくわからなかったが、レグザゴンに故郷が組み込まれることは嫌だった。
ジャンが幼い頃、エレーヌ女公がアルジャンを継承したての時、レグザゴンはエレーヌ女公を脅かし、国内は荒れに荒れた。ジャンはその幼い頃の恐ろしい記憶を繰り返したくなかった。
ジャンは己の子どもには平和な世に生きていってほしいと思う。だから、ジャンはこうして民兵として志願した。
ジャンは離れたところにあるサルブール城の主塔に目を向けた。油布で覆われた窓は開けられ、窓の奥にはタンプレットからきらりと輝く髪を覗かせた、黒い喪服の美少女が立っていた。横には一際目立つ美しい男がいる。
――あの方が、ジュリー・ド・ブルゴーニュ様だろうか。
遠くても、美しい者はわかった。
あの美しい方のために、ジャンは戦うのだ。
民兵というのは、一般に騎士より士気が低いと言われている。当然、普段から鍛えていない民兵は騎士より弱い上に、身分も低い。民兵は殺してもいい人間だった。なので、民兵は危険とあらら逃げる。それは間違ってはいないだろう。
だが、今回の戦争での民兵たちの士気は、普段とは違った。
誰もが侵略を恐れ、美しい主君を守りたい。
ジャンは、クロスボウを構えた。一本一本、力を込めて打ち込んだ。
砂埃と喧騒が激しく、刃がぶつかり合う金属音が響いていた。その合間を破るように、大砲の音が炸裂していた。
ジャンは、負けじと、右足でフットスティラップ(足掛け)を踏み込み、寝そべると弓で引いた。
クロスボウ自体は費用がかさむというが、ジュリー・ド・ブルゴーニュは、この戦争で金に糸目をつけなかった。
敵兵に当たれ、と願いながら、ジャンは矢の飛ぶ方向を見た。なんとか敵兵に当たった。敵兵は衝撃で膝から崩れ落ちる。
――やった。
ジャンは、心の奥で喜んだ。ジュリー女公に貢献できたことが嬉しく、国を守る礎になれることを喜んだ。
だが、戦況はまだ安定していない。
サルブール城が落ちれば、ジュリー女公は無事では済まない。絶対に守れ、と戦が始まる前に騎士が皆を鼓舞していた。
だが、敵兵はリュクサン軍とトゥール、リュドゥル軍の連合軍だ。数も多い。
サルブール、サルグミーヌを始めとする軍は多くいるとはいえ、リュクサンという国全体から連れてこられた兵はあまりに多い。
負ければ、アルジャンは滅びてしまう。
ジャンは、焦りながらクロスボウを構える。クロスボウ隊のところまで敵兵がやってきたら、ジャンはあっさり殺されるだろう。
――そうはさせるか。
ジャンの掌は汗で濡れ、矢を掴む指が震えていた。それでもクロスボウで敵兵を射た。
でも、まだ敵を制圧するには足りない。矢が心許ない。
叫び声が至るところで聴こえ、砂埃の舞う中、斃れている者も多くいた。
――ああ、やはり戦争は恐ろしい。
そう、ジャンが思ったところで、歓声が聴こえた。
「ランガット軍とロルカン軍、アティニー軍だ!」
三領の軍隊が馬の蹄の音を立てて、リュクサン軍の後ろに迫る。リュクサン軍は俄かに混乱し、歩兵は敗走する者もいた。騎兵の列は乱れていく。
ジャンは命が助かりそうでほっとした。
そして、ジャンも負けじとクロスボウを構えた。ジャンの放った矢は、大きく弧を描いて地へと向かおうとし、逃げようとするリュクサンの騎兵の馬に当たり、馬の嘶きと共に、騎兵は振り落とされた。
振り落とされた騎兵を見て、ジャンは、やけに豪華な鎧を着た騎士だなあ、と思った。




