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第四話 守られる者

 サルブール城に戻ったユーリアは、油布が貼られた窓を開け、外をずっと眺めていた。

 アルル宮殿とは違い、サルブール城には窓ガラスはなく、窓は油布で覆われていた。

 尤も、サルブール城だけでなく、サルグミーヌ城も同様だった。


 ユーリアの後姿を見守っていたユラン伯は、彼女の全身から警戒が滲み出ているのを感じ取った。


「ユーリア様」


 ユラン伯が声を掛けるも、ユーリアは返事をしなかった。

 ただ、ユーリアは何も受け入れようとせず、窓の外を見続けていた。


 ――アルチュール・ド・シュヴァリエのことが衝撃だったのだろうか。


 ユラン伯はまだ幼さの残る主君の気持ちを慮った。

 アルチュールとユーリアは長い付き合いではなかったが、旅を通してアルチュールの存在を認識し、信頼できる騎士と認識していたのだろう。


 ユーリアとユラン伯のいる部屋がノックされ、エルキュール・ド・シュヴァリエが入室した。エルキュールは臣下の礼を取った。


「殿下、只今戻りましてございます」


 エルキュールが言うと、ユーリアは窓を閉じた。そして、紫色の瞳をエルキュールの鎧に向けた。


「ご苦労様です。それで、アルチュールを害した犯人は?」

「どうやら毒を仕込んでいたようで、あの場で自害してしまいました」


 エルキュールの声には悔しさが滲んでいた。


「では、背後にいる者もわかりませんね」

「申し訳ございません」

「そなたはよくやってくれました」


 そう言うと、ユーリアはアルチュールに背を向けた。


「殿下……」


 エルキュールは感じ入ったように言った。言葉にされなくとも、アルチュールの死を主君が悼んでいることをエルキュールは感じ取っているようだった。


「――エルキュール・ド・シュヴァリエ、そなたの弟を害した黒幕はリュクサン公妃でしょう」

「はい、殿下、その可能性は高いと思われます」

「そなたは弟を喪った。私は母を喪っている。どちらも取り返せぬ。我らは戦いを続けます。そうすれば、そなたの弟の死も私の母の死も意味を持つでしょう」


 ユラン伯はユーリアのその言葉を発する声が異常に冷たく聴こえ、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 それは、エルキュールも同じだったのだろう。エルキュールは弟の死の悔しさ以上に、戸惑いの表情を浮かべていた。それでも、エルキュールは力強く、


「はい、殿下。必ず弟の仇を討ちます」


 と、言った。


「これからもお願いします。エルキュール・ド・シュヴァリエ」


 そう言ったユーリアに、油布の隙間から漏れた夕陽が降り注いでいた。黒い喪服を纏ったユーリアの輪郭は夕陽を影に濃く浮かび上がっていた。

 エルキュールは礼を取ると、部屋から退室をした。


 ユーリアはそれを確認すると、突然、力を失ったかのように座り込んだ。


「ユーリア様?」


 ユラン伯が驚き、ユーリアの側へ行き、同じ目線になるようにしゃがんだ。


「……これが戦争なのですね」


 ユーリアはぽつり、と呟くように言った。そして、自嘲気味にはは、と嗤った。


「ユーリア様……」


 そうだ、それが戦争だ、とはユラン伯には言い切れなかった。今最も戦争を解しつつある少女には酷だろう、と思った。


「……これから何人死ぬことになるのかしら」

「――ユーリア様、例え犠牲が多くなろうとも」

「私は死んではいけない?」


 ユーリアは可笑しそうに笑った。


「はい、その通りです」

「守られるだけは性に合わないと言ったこともありますが、これから、私を守るために何人も死んでいくのですね」

「わたしは貴女様を死んでも守る覚悟がございます」


 そうユラン伯が言うと、ユーリアの紫色の瞳が揺れた。

 ユーリアは立ち上がろうとして、ユラン伯の手に手を伸ばした。ユラン伯はユーリアの白く美しい手を優しく握り、ユーリアを助け起こした。


 ユーリアの手は冷たかった。



中世ヨーロッパにおいて、ガラスは大変貴重で、窓ガラスではなく、油布などを貼っている城も多くありました。

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