第二話 継承宣言
サルグミーヌ卿ジャン・ド・サルグミーヌは、初めて会う己の主君をつぶさに見ていた。
十四歳と聞いているが、年齢よりも大人びた美貌の少女に圧倒された。
亡きエレーヌ女公に生き写しの少女は、一点だけ違う特徴を持っていた。
エレーヌ女公は空色の美しい瞳をしていたが、ユーリアは比類なき紫色の瞳をしていた。それは俗にいう“ホーエンシュタウフェンの紫”と呼ばれる瞳であり、アルジャンを支配するには別の血統を思い起こさせるが、むしろ神秘的に見えるし、レグザゴン王国を支配するラシーヌ家の血統を打ち消しているように見えた。
ディナーを終えたユーリアはサルグミーヌ卿に言った。
「……サルグミーヌ卿、準備ができ次第、サルグミーヌの広場にて公位継承宣言をします」
「はい、我々は援護いたします」
「サルグミーヌを出発したら、サルブールへ向かいます。そういう計画でしたね?」
「サルブール卿も殿下にお会いできることを楽しみにしておりましょう」
「……サルブール卿はどのような方でしょう?」
「サルブール卿はエレーヌ女公が公位を継承した際にも、お力になられた方です。ご心配なさらずとも大丈夫です」
サルグミーヌ卿は自信を持って言った。
サルブール卿は――とはいっても正確には先代サルブール卿だが、先々代のシャルル公が亡くなった当時、混迷を極めた中でエレーヌ女公を補佐した。
それが原因で敵方に処刑されてしまうが、その子息である現サルブール卿は父の遺志を継ぐようにエレーヌ女公に仕えていた。
「そなたがそう言うのであれば、信じられますね」
ユーリアは微笑みながら言った。
サルグミーヌ卿はユーリアに微笑まれて、胸の奥が熱くなるのを感じた。
――この新アルジャン女公をお助けしなければ。
サルグミーヌ卿は決意を固めた。
「サルブールだけでなく、途中の領主たちも加わってくれると嬉しいですね」
ユーリアがそう言うと、サルグミーヌ卿も肯定した。
「そのための継承宣言でもあります」
サルグミーヌ卿が言うと、ユーリアは、「では、心に響くように宣言しなければなりませんね」と言った。
ディナーの席は片づけられ、サルグミーヌ卿は騎士たちを連れ、城門の前に終結をした。
ユーリアの隣には、娘婿のユラン伯が侍っている。ユーリアは高らかに言った。
「――これから、サルグミーヌの広場にて、継承宣言を行います。その後はサルブールへ向かいますが、継承宣言がリュクサン公妃側に伝われば、危険な旅となります。それでも、私は歩みを止めません。皆にもそれを求めます」
「勿論でございます。殿下、我々は殿下に従います!」
サルグミーヌ騎士団長の男がタガーを抜いて宣言した。
「ありがとう。では、手始めの広場に向かいましょう」
おお、という雄叫びがサルグミーヌ城に響いた。
ユーリアは馬に乗った。そして、乗馬した騎士たちが守るように囲いながら、広場を目指した。
サルグミーヌ広場において、ユーリア・フォン・ホーエンシュタウフェン改め、ジュリー・ド・ブルゴーニュがアルジャン公位継承を宣言した。
領民から慕われた先代エレーヌ女公に生き写しのその美しい容姿を領民たちは非常に歓迎した。
サルブールへ向かうことを告げると、領民たちの中には、着いていこうとする者たちもいた。
広場での宣言後、ユーリアたちはすぐさまサルブールへ旅立ったが、途中通ることとなったハンバッハとアシャンの領主たちが、新アルジャン女公ジュリー・ド・ブルゴーニュの噂を聞きつけ、騎士団を連れて合流した。
ユーリアとサルグミーヌ卿の目論見通り、ユーリア側の領主が徐々に増えていくことになった。




