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プロローグ 月が見降ろしている

第二部スタートです。

 アルジャン公国のナンシー城から見える月は、幽かな光を放ち、不気味に光っていた。

 それは、アリアーヌの心が落ち着かぬ故の見え方であろうか。


 アルジャン女公を名乗るアリアーヌ・ダルジャンは、闇に紛れて叫ばれる兵たちの声を聴いて、身を震わせた。


――ブルグントの皇女ユーリア・フォン・ホーエンシュタウフェンの兵が攻め込んできたのだ。


 アリアーヌは両手で肩を抱いた。

 兵の声がだんだんと大きくなり、夜のしじまを破った。

 皆がアリアーヌを責めている気がする。


――お前は、アルジャン公にふさわしくない、と。


 アリアーヌは首を振った。


――私は先々代アルジャン公シャルルと主家に当たるレグザゴン王女の娘。先代アルジャン公であるヘレーネお姉様よりも高貴な血を引いているのに。


 なのに、なぜ姉のヘレーネは神聖イリア帝国の皇后を戴き、自分はアルジャン公国と同じくレグザゴン王国の親王領にすぎないリュクサン公国の公妃なのだ。


――許せない。


 そんな思いが、アリアーヌの心を蝕んだ。


 だから、アルジャン女公を名乗った。アリアーヌは奪われた地位を取り戻さねばならない。

 夫のリュクサン公も賛成したし、もう少しでレグザゴンの支援も得られそうだったのに。


 なのに、その前に領民から“レグザゴンが攻めてくる”と叫ばれ、“レグザゴンの勢力を入れるな”と責められた。

 挙句の果てに、アリアーヌがレグザゴンの血を直接引くことが槍玉に挙げられて、アリアーヌを“レグザゴン女”と蔑んだ。


 アリアーヌは顔を覆った。空色の瞳からは涙が零れた。

――アルジャン領民は、誰よりもアルジャン公に相応しいアリアーヌを否定して、家名にアルジャンの字が一文字も入らぬ外国人を戴こうとしている。


 アリアーヌはその事実が堪えた。

 もう、自分が捕らえられる番なのだ。

 アルジャン公国内での戦は全てアリアーヌ側が負けた。ナンシー城に籠るアリアーヌには碌な兵がいない。


「――公妃殿下、お逃げください!」


 リュクサンから連れて来た侍女がアリアーヌに言った。


――逃げる? 一体、どこに逃げるというの?


 アリアーヌは顔を覆ったまま思った。

 アリアーヌには逃げる場所がない。既にリュクサン公は捕らえられ、アリアーヌだけがナンシー城に残されている。


「公妃殿下!」


 侍女がアリアーヌの肩を抱いた。侍女の声には、涙が混じっていた。

 だめだ、しっかりしなければ。

 アリアーヌは顔を上げて、身体に力を入れた。

 だが、その瞬間、敵兵がアリアーヌのいる部屋に突入してきた。


「リュクサン公妃アリアーヌ・ダルジャンだな?」


 兵の一人が言った。

 アリアーヌは静かにそれを認めた。


 すると、暗闇に溶けているかのような黒衣の女がゆっくりと入ってきた。その足音は一瞬の静寂を破った。


「――捕らえなさい」


 美しい声がアリアーヌのいる部屋に響いた。

 アリアーヌは空色の目を見開いた。それは聞き覚えある声だった。

 アリアーヌは声の元に目を向け、蝋燭をかざした。

 アリアーヌはその女の背格好にも見覚えがあった。

 蠟燭の光は女の美しい顔を照らしていた。


――お姉様……。


 アリアーヌはその女に向かって突進しようとした。しかし、女を庇うかのように立ちふさがる男がいた。


「ユーリア様!」


 そう叫ぶ長身の男をなんとなく、アリアーヌは覚えていた。


「……クロード……」


 アリアーヌは力なく言うと、床にへたり込んだ。

 敵兵はアリアーヌを捕縛した。


 アリアーヌは、クロードと呼んだ男に庇われるように立っている女を見た。

 やはり、愛し憎んだ異母姉にそっくりであった。


 項垂れるアリアーヌを不気味に光る月が見降ろしていた。

レグザゴンのモデルはフランスです。

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