第二十八話 焚火と星空の下での言い合い
夜半、ユーリアは焚火を眺めていた。春先の夜の寒さで、ユーリアが微かに震えるのを見たユラン伯は、ユーリアにそっと毛布を掛けた。
「……ありがとう、ユラン伯」
「夜は冷えます故、天幕にお入りください」
「……まだ、起きていたいの」
ユーリアは空を見上げた。小さな星々は、地上に落ちてきそうなほど、煌々と輝いている。
「――星がお好きで?」
「そうね、眺めるのは好き。時々、ニコラとこっそり薔薇の庭園で星を眺めたものだわ」
ユーリアがそう言うと、ユラン伯は微かに眉を顰めた。
――また、あの男の話題だ。
ユラン伯は、夕刻のシロツメクサの冠を思い浮かべた。あの時もケルンテン公ニコラウスに教わったと言っていた。
ユラン伯はユーリアの心の奥底まで、ケルンテン公が侵食していることに不快に思った。
「――また、そのような顔を」
ユーリアの顔は焚火の明かりで、赤く見えた。その表情は切なげであった。
「……ユーリア様がこのように苦難の旅路を急ぐのも、ケルンテン公によるものではありませんか。何故、ケルンテン公を懐かしむのです」
ユラン伯は努めて感情を抑えて言った。
「――兄妹だから」
ユーリアの言葉には、明らかな情が見てとれた。
「兄妹と言っても、半分しか血の繋がりはないではありませんか」
「――ユラン伯は、ユルシュルにもそう思うのですか」
「ユルシュルとケルンテン公は違います。わたしとユルシュルの間に継承争いはありません。ユーリア様とケルンテン公の間には、渡れぬ川がございます」
「それでも、懐かしいのです」
「ユーリア様!」
ユラン伯は声を荒げた。
「情など捨ててください」
ユラン伯は厳しく言うと、ユーリアが覇気のない声で、
「だから、夕刻のシロツメクサの冠が似合わぬ、と言ったのですね」
と、言った。
子ども時代など忘れろ、と言われたと認識しているようだった。
「そうではありません」
「――では、なんです」
「貴女様は――何故そうなのですか?」
ユラン伯は、ユーリアの紫色の瞳を見つめた。
「そうとは?」
「――エルメンガルト嬢を処断したと思えば、ケルンテン公には甘い」
「だって、ニコラは――」
尚も言い募ろうとするユーリアの顔に、ユラン伯は手を伸ばした。
「――お辛くなるのは、貴女様です」
ユラン伯はユーリアの頬に触れようとした。ユーリアは驚いたのか、紫色の瞳を大きく開けた。だが、ユーリアは顔を逸らし、ユラン伯の手から逃げた。
「心配せずとも、大丈夫です」
「ユーリア様」
「ごめんなさい、天幕に戻るわ」
ユーリアはそう言うと、足早に天幕へ戻っていった。
ユラン伯は星空の元、独り溜息を吐いた。
足元の焚火は、ユラン伯の罪悪感に苛まれた顔を照らしていた。




