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第二十一話 ゲルツ伯の訪問


 昼頃になって、エルメンガルトの死の報を受けたゲルツ伯ハインリヒ・フォン・ゲルツは、皇女ユーリアに目通りを願った。


 皇女は寝起きであったらしいが、ゲルツ伯を迎えるために、水色のローブを着込んで現れた。

 ゲルツ伯は真っ赤に充血した目を皇女の水色のローブに向けた。


「――ようこそ、ゲルツ伯。この度は残念でしたね」


 ユーリアがそう言うと、ゲルツ伯は頭を下げた。


 タンプレットから麦藁のような金髪を覗かせた侍女が焼き物のマグカップにカモミールティーを淹れた。


 湯気と共に立ち上がる爽やかな香りに、ゲルツ伯は、一瞬、肩を震わせた。

侍女はカモミールティーを配置するとすぐに退室した。


 部屋に残されたのは、ユーリアとゲルツ伯、ユーリアのすぐ横に立っているユラン伯だけだった。


「……皇女殿下、あの子と最後に会ったのは、皇女殿下です」


 ゲルツ伯が絞り出すように言うと、ユーリアは首を振る。


「いえ、私ではなく、皇后陛下です」

「……しかし、皇后陛下は倒れられ、お休みになられております。最後に会ったのは、皇女殿下といっても差支えはないでしょう」

「それも、そうですね」

「……エルメンガルトの様子はいかがでしたでしょうか」

「エルメンガルト嬢ですが、皇后陛下のご様子を聞いて、落ち着かぬ様子ではありました。ゲルツ伯家は代々、皇后の侍女を輩出してきた家系ですし、エルメンガルト嬢は責任感と忠誠心が強い方だったのでしょう。まさか、自害までするとは思いませんでした」

「……たしかにあの子はお役目を全うする子でした」


 ゲルツ伯はそう言いながら、エルメンガルトの小さい頃を思い出していた。


 ふわふわとカールする金髪を揺らし、水色の瞳は誰よりも輝かせて、野に咲く花を摘んで、ゲルツ伯に手渡す瞬間を彼は目に浮かべた。


 あんなに可愛かった子が一体どうして。


 ゲルツ伯は歯嚙みした。そして、自身の水色の瞳を皇女に向けた。タンプレットから美しい月光のような銀髪を覗かせ、比類なき紫色の瞳の美少女を憎々しげに見やった。

 この美しさが憎かった。


――あの手紙を見て、皇宮へ行かせなければ。


 ゲルツ伯は、後悔してもしきれなかった。


 エルメンガルトが自害などするはずがない。ケルンテン公と付き合って、毎日が楽しそうだった。


 ケルンテン公との交際は、ゲルツ伯は賛成していた。ゲルツ伯家は皇后、皇女から離れたかったからだ。皇帝もケルンテン公側に傾いているように思えたのもある。


 だが、それが皇女にばれてしまったとしたら。

 エルメンガルトを自害に追い込む理由となる。

 エルメンガルトを死に追いやったのは、皇女だ。


「……皇女殿下、わたしはエルメンガルトが自ら死を選ぶとは思えません」


 ゲルツ伯は皇女を睨みつけた。

 ゲルツ伯の視線の意味に感づいたのか、ユラン伯は眉を上げた。

 彼は、半歩だけユーリアの前に出る。彼の動きは威圧的ではなかったが、室内の空気が張り詰めた。


「……閣下、貴方がどう思おうと、事実は変わるわけではありません。エルメンガルト嬢はもう戻らない」


 ユラン伯が静かに言うと、ゲルツ伯が顔を怒りで赤くした。


「……なんですって」


 ゲルツ伯の声の調子は怒りを隠せていなかった。追求するな、ということであろうか。だが、母親を喪いつつある皇女に何ができる。


「皇后陛下も私も、エルメンガルト嬢の献身を忘れません」


 ユーリアは静かに言った。


「……皇女殿下、わたしは娘を死に追いやった人間を絶対に許しません」

「――そうですか。親の鑑ですね」


 ユーリアはカモミールティーを飲んだ。

 カモミールティーの爽やかな香りは、ゲルツ伯の鼻腔に届いた。

 その香りを嗅いだところで、ゲルツ伯の心は落ち着かなかった。

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