第二十話 皇女の行動
ホラー主人公です。
ユラン伯は、不意に己に抱き着いてきた皇女を思わず抱き留めた。
泣いているはずの皇女から、ひくっという痙攣の音が聴こえた。ユラン伯は思わず、眉を動かした。
――笑っている?
ユラン伯は動揺を隠そうと、必死になった。抱き留めた皇女に回した腕の力が強まった。
「痛いわ、ユラン伯」
皇女のくぐもった声が聴こえた。
「申し訳ございません」
ユラン伯が小さな声で囁いた。
ケルンテン公ニコラウスがじっと、ユラン伯とユーリアを見ていた。その表情はあまり歓迎しているようには思えなかった。
「閣下、皇女殿下はお疲れなので、お部屋に戻らせていただきます」
「わかった」
ニコラウスの声は固かった。
ユラン伯とユーリアは道すがら、黙っていたが、おもむろにユラン伯が口を開く。
「先ほどは、どうして笑っていたのですか?」
「……ニコラウスが呆れることを口に出していたものですから」
「そうですか」
「ニコラは少し甘いのです」
ユーリアはそう言って嗤った。
ユーリアの私室へ着くと、ユーリアは少し疲れた、と言い、ユラン伯を別室へ出し、寝巻に着替えた。
着替え終わると、ユーリアはユラン伯を呼んだ。
ユラン伯が再度入室すると、ユーリアは寝台にいて、上半身を起こしていた。
タンプレットも身に着けず、晒されている柔らかに美しいユーリアの銀髪を見て、ユラン伯は二日前の深夜のことを思い出した。
皇后付き側仕えたちとナタリーとの会議の後、ユラン伯はナタリーと共に皇女の私室へ向かったのだった。
だが、皇女はそこに居なかった。ナタリーが皇女は確かに眠っていたのだ、と取り乱したところで、ふらりと寝間着姿のユーリアが戻ってきたのだ。
むせ返るような薔薇の香りと共に。
――このような時分に、なぜ動き回ったのですか?
ユラン伯が強く咎めると、ユーリアは、眠れなくて風に当たりたかったのです、と小さく答えた。
――皆が貴女様を守るために苦心しているのです。それを……。
ユラン伯が尚も言い募ると、ユーリアは、すみません、と謝った。
思い出しているユラン伯を見て、ユーリアは怪訝そうな顔をしていた。
「ユーリア様、淑女であられるのなら、そのような格好を私めに見せてはなりません」
ユラン伯が咎めるも、ユーリアは事もなげに言う。
「そなただから、良いでしょう」
「ユーリア様」
「それよりも、そなたは出国の準備はできているのですか?」
「わたしはできております」
「ご夫人とご息女は? 家族がいるのはそなただけ故、どうするつもりです?」
「妻と娘は、ユルシュルに出国を任せます」
「それならよかった」
そうユーリアは言うと、少し寝るつもりなのか、上体を寝台に沈みこませた。
ユラン伯は黙って、ユーリアに毛布を掛けた。




