表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/49

第十五話 懐妊情報が漏れた理由

 ユーリアは、私室へ戻ると、皇后を見舞いたい、と落ち着かぬ様子で言い募った。

 ユラン伯が一先ず、自分が見舞うと言い、ユーリアを落ち着かせた。


 ユーリアは、一人静かに、ユラン伯を待った。そんな彼女にナタリーが心配そうに寄り添った。


 暫くすると、ユラン伯が皇女の私室に戻ってきて、皇后の状態が芳しくないことを告げた。


 ユーリアの紫色の瞳は大きく揺れた。


 ナタリーは二人の様子を見て、二人にリンデンティーを淹れた。

 皇女の私室に、リンデンティーの甘く芳しい香りが漂った。

 ナタリーは、リンデンティーが淹れられた焼き物のマグカップを二人に配ると、皇女の部屋から退室をした。暫しの間、ユーリアとユラン伯は互いに沈黙していたが、おもむろにユーリアが口を開いた。


「……助からないのですか」

「侍医殿は、持って四、五日だと言っております」

「……では、私は覚悟をしないといけないのですね」


 ユーリアの紫色の瞳が伏せられ、長い睫毛が目立った。

 ユラン伯は、皇女の冷静さに舌を巻いた。彼も冷静に対応しなければならない。


「……ユーリア様が唯一のホーエンシュタウフェン家の嫡子であり、アルジャン公の後継者でもあります」

「では、後ほどお母様を見舞います」


 お母様を見舞う。それは、ユーリアが母に遺言状を求めるという意味だった。

 ユーリアは十四歳であり、この年齢の王侯貴族はもう結婚している者もいた。アルジャン公国を統治するには若すぎるということもない。


「我々、アルジャン人侍従や侍女、騎士たちはユーリア様に従います」


 ユラン伯が恭しく、頭を垂れた。


「ありがとうございます」


 ユーリアの表情は真摯さがあり、紫色の瞳に力強い意志が宿っているように見えた。


 二人が話していると、入り口に控えていたナタリーが、ユーリアたちに来客を告げた。


「ラーヴェンスベルク伯閣下が皇女殿下にお目通りを願っております」

「――ベルンハルトが?」


 ユーリアが驚いた様子で言うと、ユラン伯の榛色の瞳がぴくりと動いた。


「通して、ナタリー」


 ユーリアはナタリーに命じた。ナタリーは一礼すると、入り口に向かい、ベルンハルトを連れて戻ってきた。


 ベルンハルトは一礼し、


「皇女殿下、ユラン伯閣下、このようなときに申し訳ございません」


 と言った。


「どうしたのですか?」


 ユーリアが問うと、ベルンハルトは青い瞳に戸惑いの色を浮かべながら言った。


「実は、狩猟会からお戻りになられたら、お伝えするつもりだったのですが――このような時に申し上げることになってしまいました。皇后陛下の侍女のエルメンガルト嬢のことです」

「エルメンガルト嬢?」


 ユラン伯が思わず、繰り返し言った。彼にとっては思いがけない名前だったのだ。


「はい、エルメンガルト嬢は、ケルンテン公と親密です」

「親密? 本当に?」


 ユーリアが確認すると、ベルンハルトが答えた。


「はい、エルメンガルト嬢は美しいため、騎士の間でも有名な侍女でした。そんな令嬢がケルンテン公と親しいのです。最近噂になっていたので、皇女殿下にお伝えせねばと思っておりました」

「……ユラン伯、エルメンガルト嬢はお母様のご懐妊を知っていましたか」


 ユーリアの声は、冷たく、固いものだった。


「……知っておりました」


 ユラン伯は、エルメンガルトのその時の様子を思い出していた。


 ――おめでとうございます。


 エルメンガルトの嬉しそうな顔が浮かんだ。


 ゲルツ伯家は、代々皇后の侍女を輩出しているという歴史ある一族であり、その一員であるエルメンガルトも年若いとはいえ、ある程度の秘密も共有された。

 そのような立ち位置にいたエルメンガルトが、あろうことか今、対立関係になっているケルンテン公と通じている。


 ユラン伯は己の迂闊さに呻いた。


「本日、エルメンガルト嬢はどうしていますか?」


 ユーリアの冷たい声が、私室に響く。


「……母君の具合が悪いということで、ゲルツ伯邸に帰省しております」

「では、明日、エルメンガルトを呼びなさい。皇后陛下が会いたがっていると言って」


 それは、有無を言わせぬ命令であった。

 ユラン伯は、ユーリアの瞳を見つめた。

 彼女の瞳は、ゆっくりと赤く変色していった。

紫色の瞳は青色の瞳に血管が透けて見えていることらしいです。

なので作中では興奮すると赤目になる設定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ