第十五話 懐妊情報が漏れた理由
ユーリアは、私室へ戻ると、皇后を見舞いたい、と落ち着かぬ様子で言い募った。
ユラン伯が一先ず、自分が見舞うと言い、ユーリアを落ち着かせた。
ユーリアは、一人静かに、ユラン伯を待った。そんな彼女にナタリーが心配そうに寄り添った。
暫くすると、ユラン伯が皇女の私室に戻ってきて、皇后の状態が芳しくないことを告げた。
ユーリアの紫色の瞳は大きく揺れた。
ナタリーは二人の様子を見て、二人にリンデンティーを淹れた。
皇女の私室に、リンデンティーの甘く芳しい香りが漂った。
ナタリーは、リンデンティーが淹れられた焼き物のマグカップを二人に配ると、皇女の部屋から退室をした。暫しの間、ユーリアとユラン伯は互いに沈黙していたが、おもむろにユーリアが口を開いた。
「……助からないのですか」
「侍医殿は、持って四、五日だと言っております」
「……では、私は覚悟をしないといけないのですね」
ユーリアの紫色の瞳が伏せられ、長い睫毛が目立った。
ユラン伯は、皇女の冷静さに舌を巻いた。彼も冷静に対応しなければならない。
「……ユーリア様が唯一のホーエンシュタウフェン家の嫡子であり、アルジャン公の後継者でもあります」
「では、後ほどお母様を見舞います」
お母様を見舞う。それは、ユーリアが母に遺言状を求めるという意味だった。
ユーリアは十四歳であり、この年齢の王侯貴族はもう結婚している者もいた。アルジャン公国を統治するには若すぎるということもない。
「我々、アルジャン人侍従や侍女、騎士たちはユーリア様に従います」
ユラン伯が恭しく、頭を垂れた。
「ありがとうございます」
ユーリアの表情は真摯さがあり、紫色の瞳に力強い意志が宿っているように見えた。
二人が話していると、入り口に控えていたナタリーが、ユーリアたちに来客を告げた。
「ラーヴェンスベルク伯閣下が皇女殿下にお目通りを願っております」
「――ベルンハルトが?」
ユーリアが驚いた様子で言うと、ユラン伯の榛色の瞳がぴくりと動いた。
「通して、ナタリー」
ユーリアはナタリーに命じた。ナタリーは一礼すると、入り口に向かい、ベルンハルトを連れて戻ってきた。
ベルンハルトは一礼し、
「皇女殿下、ユラン伯閣下、このようなときに申し訳ございません」
と言った。
「どうしたのですか?」
ユーリアが問うと、ベルンハルトは青い瞳に戸惑いの色を浮かべながら言った。
「実は、狩猟会からお戻りになられたら、お伝えするつもりだったのですが――このような時に申し上げることになってしまいました。皇后陛下の侍女のエルメンガルト嬢のことです」
「エルメンガルト嬢?」
ユラン伯が思わず、繰り返し言った。彼にとっては思いがけない名前だったのだ。
「はい、エルメンガルト嬢は、ケルンテン公と親密です」
「親密? 本当に?」
ユーリアが確認すると、ベルンハルトが答えた。
「はい、エルメンガルト嬢は美しいため、騎士の間でも有名な侍女でした。そんな令嬢がケルンテン公と親しいのです。最近噂になっていたので、皇女殿下にお伝えせねばと思っておりました」
「……ユラン伯、エルメンガルト嬢はお母様のご懐妊を知っていましたか」
ユーリアの声は、冷たく、固いものだった。
「……知っておりました」
ユラン伯は、エルメンガルトのその時の様子を思い出していた。
――おめでとうございます。
エルメンガルトの嬉しそうな顔が浮かんだ。
ゲルツ伯家は、代々皇后の侍女を輩出しているという歴史ある一族であり、その一員であるエルメンガルトも年若いとはいえ、ある程度の秘密も共有された。
そのような立ち位置にいたエルメンガルトが、あろうことか今、対立関係になっているケルンテン公と通じている。
ユラン伯は己の迂闊さに呻いた。
「本日、エルメンガルト嬢はどうしていますか?」
ユーリアの冷たい声が、私室に響く。
「……母君の具合が悪いということで、ゲルツ伯邸に帰省しております」
「では、明日、エルメンガルトを呼びなさい。皇后陛下が会いたがっていると言って」
それは、有無を言わせぬ命令であった。
ユラン伯は、ユーリアの瞳を見つめた。
彼女の瞳は、ゆっくりと赤く変色していった。
紫色の瞳は青色の瞳に血管が透けて見えていることらしいです。
なので作中では興奮すると赤目になる設定です。




