第十三話 美しいものを見る
ケルンテン公ニコラウスは、昨晩、伯父のクロイ公と喧嘩していた。
昨日、皇女ユーリアが毒殺されかけんとした事件のことで揉めたのだった。
――ユーリアに手を出さぬ、と約束したはずです!
そう、ニコラウスが詰め寄るも、クロイ公は、ことなげに、
――何を言いますか。あの小娘が死ねば、皇太子の位は貴方様のものでしょう。例え、イリア王になれずとも、ブルグント王太子の位は貴方様のもの。
と言った。
――でも、ユーリアを殺したくありません。殺さずともよいでしょう。女であれば結婚すれば、この国を出ていくのですから。
――ケルンテン公、貴方様は、“阿婆擦れの子、愛人の子、妾の子、正しくない子”とこれからもずっと言われ続けたいのですか?
呪詛を吐くような伯父の言葉は、昨晩から耳に残っていた。
ニコラウスは胸にむかつきを覚え、美しいものが見たいと思った。彼は薔薇の庭園に向かって歩き出していたのだった。
薔薇の庭園には、薄紫のローブを纏い、黒いタンプレットから月光のような銀髪が覗いている、美しき異母妹ユーリアと簡素な紅のローブを着ているユーリアの侍女のナタリー、それとニコラウスが見たことない、少し背が低いが、均整の取れた肢体の美女がいた。
「ニコラ!」
ユーリアがニコラウスの姿を認めるや、声をかけて来た。
ニコラウスは気まずかった。だが、ユーリアに声をかけられて観念した。
「久しぶりだね。どうしたの?」
「ブリュンヒルド様に薔薇水をいただきに来たの」
ブリュンヒルド――薔薇の宮殿に出入りしながら、ニコラウスや母のグラティアを蔑むように見つめてくる修道女のことだった。
その名前を聴いて、ニコラウス心は重く沈んだが、努めて平静を装った。
「そう、薔薇水をね……そちらの綺麗な娘は?」
ニコラウスは話題を変えたかった。よって、薄紅色のローブの美女のこと聞くことにしたのだった。
「ゲルツ伯が長女、エルメンガルト・フォン・ゲルツでございます。皇后陛下の侍女を勤めております。ここは美しい場所でございますね。このよう離宮であること、初めて知りました」
感嘆するエルメンガルトの声は非常に可愛らしく、また、エルメンガルトの青い瞳は、湖畔のさざ波のように輝いて見えた。ニコラウスにはそれが蠱惑的に見えた。
「そうか、よろしく、エルメンガルト嬢」
ニコラウスはじっとエルメンガルト嬢の姿を見ていた。彼女の姿は胸の奥を微かにくすぐった。
皇女ユーリアほどではないが、充分美しい娘だとニコラウスは思った。




