第十一話 ささやかな願い
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夜になり、皇帝と皇后が皇女ユーリアを訪ねた。
ナタリーは、皇帝と皇后が唯一の嫡子を気に留めていることに喜んでいた。
ユーリアは寝台の上で上半身を起こして、両親の来訪を待っていた。既に寝巻に着替え、蠟燭の灯と月光で輝く柔らかな銀髪は背中を流れていた。
「お父様、お母様、来ていただきありがとうございます」
ユーリアの声には疲れの様子はなく、ただ心から両親の来訪に歓喜しているかのようだった。
「ユーリアよ、よく休めたか」
皇帝がユーリアに訊くと、ユーリアは少し微笑んで答えた。
「はい、でもお父様、お願いがあります」
それは誕生日の贈り物をねだる子供のような様子だった。
「どうした?」
「犯人を……調べていただけませんか?」
マクシミリアンは、一瞬、紫色の瞳を伏せた。
マクシミリアンの横に立っているヘレーネは、静かに夫を見た。
「調べは進めている。だが、お前は無事だった」
皇帝は、明確な回答をしない。ユーリアは父の言葉には何も返事はせず、話題を変えるかのように、小さな声で言った。
「今日の出来事で、夜眠るのが怖いので、今夜は一緒に眠ってくださいますか?」
ユーリアの言葉に、皇帝と皇后はわずかに表情を曇らせた。
「お前はもう子供ではあるまい」
と、マクシミリアンが言った。
返事の代わりに、ヘレーネがユーリアの銀髪をそっと撫でた。
「では、ナタリーに側にいてもらいましょう。ナタリー、よろしく頼みますわね」
ユーリアは、小さく、はい、と返事をした。
ユーリアの返事を聞いて、皇帝と皇后は「おやすみなさい、ユーリア」と言って、退出をした。
月明りと、蠟燭の光だけが明るい寝室が静まり返った。
ナタリーは堪らず、皇女ユーリアに抱き着く。
「殿下、殿下――!」
ナタリーは泣いていた。
どうして。どうして。どうして、娘が殺されそうになったのに、皇帝と皇后は冷静なの。どうして、犯人を積極的に探す約束をしてくれないの。
どうして、ささやかな願いすら聞き届けてくれないの。
皇太子エーミールが薨去し、後継問題で宮廷が揺れる中、ユーリアの味方になるべき人は皇后であるはずであるのに。
最早、皇女はケルンテン公よりも不安定な立場にいた。皇帝は、ケルンテン公側に傾いている可能性もある。
「ナタリー、泣かないで」
ユーリアは優しく、ナタリーの頭を撫でた。
「大丈夫だから」
その言葉は説得力に乏しかった。
月明りに皇女の顔が照らされる。皇女の表情は何も心を映し出していなかった。




