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第5話「仲間」~健康手弁当とドカドカバーガー~

※この作品は以前「小説家になろう」で連載していた『眼鏡の女の子〜』を大幅加筆・改題したリブート版です。


今週は月・水・金、21時半ごろに投稿予定です。


※前話を読んでいなくても、ある程度流れは追えるように構成しています。

 月曜日。オレはまだ日が昇らない時間に家をでた。


 乗り換えを繰り返し、目的の駅に着く直前ようやく太陽が顔を出した。駅からスタジオまでの長い道を歩く準備をする。


 専門学校で使っていた用具一式を買い直し、タブレットも気合いを入れて最新の機種を買った。乏しい貯金は底を突いたが、どちらにせよタブレットは必須だ。給与支給日何日って書いてあったっけ?そんな事を考えながら、ひたすら歩を進めた。


 あの面接の日、何か不思議な体験をしたが、スタジオに戻ったキズナさんは、再び鳴ったスマホに顔色を変え、月曜日からの出社とだけしか聞いていない。まあ仕事にはどのみち慣れていくしかない。そのつもりでスタジオで働ける環境を選んだんだ。


 *


「A Station」 ふぅ〜着いた。


 あきらかにまだ早いがスタジオのインターホンを鳴らしてみると、あっさりキズナさんが応答した。


 「おはよう、加藤さん。朝早いんですね」


 そう言って優しく微笑んでくれた。


 リビングを改装したスタジオの中は、朝の光がまだ薄暗く、機械音だけが静かに響いていた。まだ他のメンバーは来ていないらしい。


 あらためて今日からの職場となる。スタジオを見る。そこまで広くは無いけど、デスク、作業台、資料が並んだ書棚などそれなりのスペースだ。


「今日は、皆を紹介出来ると思うんですけど…みんな自由だからね。徐々に来る頃だとは思いますが…」


 ちょうどそのとき、玄関チャイムが鳴った。


 扉が開くと、オレより少し年上そうの目鼻立ちのクッキリした男性が入ってきた。デカフレームの白縁メガネをかけている。


 「キズニャ、おっはよーっ!新人くんだよね!湧口マナセですっ!」


 「マナセン。おはよう」


 「加藤アツです!よろしくお願いします!」


 間を置かずにチャイムが鳴り、今度は目のクリっとした可愛らしい女性が入ってきた。


「キズニャおはよう〜、新人さん今日からだっけ?館山ランです~」


 ふわふわとした髪に個性的なアクセサリーをじゃらりと下げたランさんもメガネだが、ノンフレームのオシャレなものだ。


 「ランラン。おはよう」


 「ちょうど2人来たわね。マナセとランは師匠マスター…星野先生のスタジオに入った時の同期だったの。一緒に手伝ってもらえる事になって…」


 キズナさんが懐かしそうな瞳で語る。


「キズニャ子ども通り越して赤ちゃんだったもんね〜」


 ランさんが軽くツッコミを入れる。


「…確かに子どもだったけど、そこまで小ちゃくないわ」


 キズナさんが言い返す。


 それをマナセさんが暖かく見守っている。この3人ホントに仲が良さそうだ。


 しばらく皆で談笑していると、また玄関チャイムが鳴った。

 入って来たのはキリッとした顔立ちのとてもキレイな女性。ただかけているのはそれに不釣り合いなメタリックなガチガチのメガネ、キズナさんがしているあの「眼鏡」だ。


師匠マスターおはようございます。新人さんおはようございます。盛沼サキです」


「サキおはよう。師匠マスターは……まあサキには無理ね。ワタシも師匠マスター師匠マスターだったしね」


 サキさんの目には表情が無い。その視線は決して冷たいわけではないのだが、感情の波を容易に見せるタイプでもないと感じた。


 そのときキズナさんが玄関の反対、裏口の方から控えめなノック音がずっと続いている事に気付いた。


「あら?マナセン裏口見てみてくれる?」


 マナセさんが裏口を開けると、心細そうな少女が立っていた。


「……あ、あの、村上サチハです……ここ、で合ってますよね……?」


 印象的な長い髪に、黒縁メガネの中の大きな目が何処かしらキョドってる。


 「大丈夫だよ、サチハちゃん。こっち、こっち」


 マナセさんが手招きすると、その子はほっとした顔で小さく頭を下げた。


「おはよう、村上さん。面接に来てもらった時たまたま裏口に居たから、そのまま案内してたかな。…反対側に玄関あるから、明日からそっちから入ってね」


 苦笑いしながらキズナさんが言う。


 「今日から村上さん、加藤さんもチームに加わります……ってあと一人居ないですね」


 と、玄関が勢い良く開いて、Tシャツにジャージ、手にはコンビニ袋を幾つも抱えたお兄さんが駆け込んで来た。


 「いや〜道混んでてさぁ〜 先生、みんな、あと新人くん2人だよね?おはよ〜  オレは上迫ケン」


 「パイセン家近いし、道混むようなとこ無いじゃん」


 ランさんがツッコミを入れる。


 「っさいな〜 細けえこたぁいいんだよ」


 オレが自己紹介しようとするより早く、ケンさんは無造作にテーブルにお菓子をばらまいた。


 「朝メシ食ってないだろ?まず糖分と塩分の補給な」


 「ケンさんありがとう。あ、ポテチ類とかはデスクや原稿を汚さないようにね」再びキズナさんが苦笑しながら言う。


「これで全員ね。軽く栄養補給したら仕事に入りましょう」


 *


 簡単な挨拶を交わしたあと、それぞれが机に向かった。


 春からの連載予定と聞いていたが、読み切りが好評でパイロット版を前倒しして掲載していく事に変わって、スグに作業を進めて行く必要があるそうだ。


 「えっと、まずは消しゴムかけからお願いね」


 キズナさんがコピー用の原稿を数枚、オレとサチハさんの前に置いた。


「インクが乾いてるか確認してから、やさしくなぞる感じで」


「は、はいっ!」


 サチハさんが緊張した面持ちで消しゴムを持つ。


 オレも慎重に消し始めたのだが――


 「……あっ」


 「えっ……?」


 二人の手元から、ほぼ同時に妙な音が聞こえた。

 原稿用紙の端が、薄く破れてしまっていた。


 「……ご、ごめんなさいっ!」


 「うわっ、オレも……!」


 二人は顔を見合わせ、同時に青ざめた。


 「大丈夫だよー、コピー原稿だから」


 ランさんがすぐに明るくフォローしてくれる。


 「消しゴムも技術いるからさ、最初はそんなもん」


 マナセさんはニッと親指を立てた。


 オレ達、ってゆーかオレとサチハさんの苦闘は続いた。


 トーン貼りに作業が移り、オレにサキさん、サチハさんにはランさんが付いて作業する事になった。


 サチハさんが貼ったシートに気泡が入ってしまい、妙なカタチにブヨブヨになる。


 「もーっ!この気泡カエルさんみたいだよサチハちゃん!」


 ランさんが笑い転げる。


 オレはそれを見て、気泡が入らないように慎重に貼った、貼ったのだが、そこに意識が行き過ぎたのか端がズレてしまった。


 「アッチャー、アッチャ」


 「……もっと丁寧に、貼って」


 サキさんが小さくため息をつきながらも、トーンの端を直してくれる。


「す、……すみません」


 オレは謝ったが、サキさんは無表情のままではあるが、

「次、がんばって」とぽつりと返してくれた。

 その後も皆が一つひとつの作業を、やさしく、しかしきっちり説明しなおしてくれた。


(これが、「現場」なんだな……)


 *


「お昼にしようか」


 キズナさんの声で、作業場にほっとした空気が広がった。


 オレとサチハさんは思わず顔を見合わせ、同時にふーっと大きなタメ息をついた。


 お昼か。途中にコンビニ有ったけど、だいぶ戻るよな?この辺ご飯屋さんとか無さそうだし、とうしようかな?


 「やったお昼だ!月曜はキズニャのお弁当デイだから毎週楽しみなんだよね!」とマナセさんが言う。


 「村上さん、加藤さん。言って無かったと思うけど、月曜日はワタシお弁当作って来てるんですよ。よろしければですが、召し上がってください」


 「キズニャのお弁当、ホントに美味しいんだよ!コンビニで買ってくるくらいなら、食べて食べて」とランさん。


 サキさんも仕事中の無表情が柔らかいものに変わっている。


 ケンさんは「ドリンクとスイーツはオレの担当だ。糖分と塩分も補給しとけよ」と朝買って来ていたコンビニ袋を取り出してくる。


 「わぁっ、ありがとうございます!」


 さっきまで沈んていたサチハさんの表情もとたんに緩くなる。

 オレは少しとまどい「なんかみんなで一緒に飯食うの……ちょっと緊張します」と呟く。


 「すぐ慣れるよ。ウチはそういうとこ、いい加減だから」


 とランさんが言ったら


 「……"いい加減"というより、"ユルい"とした方が適切でしょう」


 サキさんが冷静に訂正した。


 キズナさんがフロシキを広げて、お弁当を取り出す。


 ちょっと変わった太巻き?を中心にだし巻き卵、唐揚げ、ちくわにチーズを入れて大葉巻きにして揚げてる?ゴボウのサラダも自製感がある。他に野菜や果物まで、見るからに栄養バランスも良さげだ。


 「これホントにキズナさんが作ったんですか?」


 思わず失礼なことを口に出してしまった。


 「キズニャの事ナメてると痛い目にあうよ。僕はこのお弁当のタメに、星野先生の所から移って来たと言っても過言では無い」とマナセさん。


 「……料理作るの本当に好きなんだよね。さすがにこうやって皆んなの分も作れるのは、週一が限界かなとは思うけど。あ、あと唐揚げはお母さんに揚げてもらってます」苦笑しながら語るキズナさん。


 と、「ホントに美味しい〜!」といつの間にかに、だし巻き卵を咥えてサチハさんが叫ぶ。いや、さすがに早すぎだろ。


 すると「ウチは弱肉強食、先生先輩関係無し。サチハちゃん初日なのにわかってるね〜 ほらアツ君も食え。あ、マナセは本気出すなよ」とケンさんが言う。


 見るとランさんと、意外なことにサキさんも素早く自分の分を確保している。


 オレも慌てて食いに走る。皆をキズナさんがニコニコ見守っている。最初の緊張は何時の間にか綺麗に吹き飛んでいた。


 お弁当はあっと言う間に片付いた。


 実際どの料理も本当に美味しく、正月に実家から帰って来て以来、カップ麺とか菓子パンが主食だったオレには感動的な味だった。


 さらにケンさんが買ってきてくれた、コンビニスイーツもたいらげ、ようやく皆の食欲が満たされた。


 昼休みが終わる頃、キズナさんがふと告げる


「お二人予定が無ければですが、夜は歓迎会も用意してます」


 おもわずサチハさんと顔を見合わせた。


 ちょっと思案したが、すかさず

「ホントですか〜楽しみ〜」と答えるサチハさんのクシャっと崩れた笑顔を見たら、一瞬浮かんだ緊張はまた飛んで行った。


 「それじゃケンさん、7人で…適当なお店を見繕って予約をお願いできますか?」


 「まかせとけ。てかもう予約してあるよ」


 「え、いつの間に……」


 「段取りは先回りしとくもんだ。みんなでチームなんだし」


 そう言ったケンさんは「さあ、美味しい食事とお酒のために午後も気合いを入れてガンバロ〜」とワキから取り出した塩飴を一掴み、バリバリと食べ始めた。


 「……ケンさん。いつも言ってるけど、炎天下の肉体労働じゃ無いんですから。はぁ~っ塩分……」

  

 栄養バランスの取れた食事の直後の塩分過多に、キズナさんがアタマを抱えるが、「これ食べないと気合い入らないんだよね」と涼しい顔で返すケンさん。


 確かに気合いを入れて頑張らないと。


 *


 夕方、制作作業が一区切りすると、スタジオに一息ついた空気が流れた。

 オレとサチハさんはノーミスという訳にはいかなかったが、何とか任せられた仕事をやり終えた。

 机の上を整理しながら、こっそりと目配せし合う。 (……今日、何とか乗り切った……!)


 まだまだ慣れないことばかりだけれど、ひとまず一日目を終えた達成感に、思わず小さなガッツポーズを取る。

 

 「片付け、終わったら集合ねー」


 ランさんが明るく声をかけてくる。


 「はいっ」


 「了解です!」


 返事をしながら、オレとサチハさんは急ぎ手を動かし資料や原稿、私物をそれぞれの場所に片付けた。


 スタジオの前に待機していたケンさんの車に、全員で乗り込んだ。

 中古かな? 正直あまりピカピカでは無いが、必要十分な3列シートのミニバンだ。


 「ケンさん、帰りはちゃんと代行頼んでくださいよ」


「あたぼうでしょ。皆に迷惑かける訳にもイカンしね」


「駅チカの居酒屋を取ってある。皆もその方が都合良いよね? あ、マナセは歩いて帰れるよな?」


「僕、駅だと真逆なんだけど……」


 マナセさんがこぼす。何故かケンさんはマナセさんに当たりが強い。


「でも駅チカなら、前に行ったあの店だよね? あそこならアレが有るから、それなら良いや」


「そりゃマナセの事も一応考えてるよ」


 ケンさんが返す。


「それじゃ新歓親睦会にレッツゴー!」



 店に入ると、奥の区切ったエリアに通され、メニューがやってくる。


「えーっと、ドリンクからね。ビールはオレとマナセだけかな? アツくんとサチハちゃんはどうする?」

 こういう場の仕切りはやはりケンさんなんだろう。


 「え〜っ、じゃあファジーネーブルで」


 サチハさんは不思議に決断が早い。


  「アタシはカシスソーダっ」


 「ではグラスワインを白で」


 とランさんとサキさん。皆決めるのが早い。


 「それではクリームソーダを」


 と未成年のキズナさん。


 「あとは…アツ君はどうする?」


 いつの間にか皆決まっていて、オレに視線が集まる。

 慌ててメニューに目を落とし、悩んだ結果。


 「レ、レモンサワーを」


 と無難そうな選択をした。


 「じゃあドリンクは頼んどくから、フードを考えといて」


 とケンさんが言っている間に、既に手元のスマホで、ドリンクはオーダーし終わっているらしい。て、手早い。


 「えっと、ポテトフライと、唐揚げ…は昼に食べたからイカリングとタコ焼きと……」


 次々続々入力していくケンさん。


「…もう、みんな野菜も食べてよね。シーザーサラダとトマトのカプレーゼを」

 とキズナさんが口を挟む。


 各々がケンさんにオーダーを伝えるなか、マナセさんが「ここに来たらこれを食べなきゃ〜」とメニューの中でひときわ存在感のある写真を指さす。


 「ドカドカバーガー」いわゆるプレミアムバーガー的な代物のようで、分厚い肉の塊2枚をフワッとしたゴマバンズで挟み、タップリのチーズとベーコンと申し訳程度の野菜が間に入っている。


 「食べる人〜!」


 とマナセさんが自ら手を上げつつ、挙手を求めてくる。


 「オレは食うならシメかな? まだいいや」


 とケンさん。


 「ワタシは遠慮します」


 「アタシもいいかな〜?」


 とキズナさんとランさんが続けた中、意外にもサキさんが手を挙げた。

 少し迷っていたサチハさんも手を挙げ、どんなモノか興味有ったオレも続いて、結局4人が食べることになった。


 一通りフードメニューも頼み終わった頃合いに、ちょうどドリンクが運ばれてきた。

 各員に行き渡ったところでケンさんが、「え〜本日の新歓親睦会にあたり、まずは戸隠先生に乾杯の音頭を取って頂きます」と、突然かしこまった挨拶をした。


 「もう〜ケンさん、先生はカンベンしてっていつも言っているのに…師匠マスターならまだしも」


 「いやいやキズナちゃん、協会員でも無いオレに師匠マスターって呼ぶ資格は無い。せめて先生とは呼ばせてくれ」  

 

「ケンさん変わらないよね…わかりました」


 あらためて全員に視線をやってからキズナさんが言う。


「ワタシ達にとって、チームワークは本当に大事です。新メンバーのサチハとアツもそうです。それでは過去と現在と未来の師匠マイスター達に乾杯!」


 ちょっと良くわからないやり取りもあったが、オレ以外全員の手元のグラスやソフトドリンクが掲げられたのを見て、慌ててオレもグラスを持ち上げる。


「アツくん、サチハちゃん、ようこそ!」


「これから一緒にがんばろうね!」


「「かんぱーい!」」


 賑やかにグラスを合わせる音が響く。



 しばらくして、一通りフードも揃ったあと、あの「ドカドカバーガー」がやって来た。


 デカい。縦横高さそれぞれ10cmはある。これ、どうやって食べれば良いんだろう?


 するとマナセさんが、待ってましたとばかりに両手で掴んで眼前に持ってくると、カッと目を見開き、同時に口が巨大に開かれ、10cm角の円柱が見る間に呑み込まれていった。口腔に収まりきると、しばし咀嚼が続いたが、じきに胃腸へと吸い込まれていった。――いや、有り得ないだろ。


 「いや〜マナセは相変わらず本気出すとスゴイな〜」


 ケンさんは言うが、キズナさんは「……大量の炭水化物と脂質を短時間に摂取・吸収すると。はぁ〜血糖値……」と、再び頭を抱える。


 ランさんは「マナセン、目も口も、ついでに鼻の穴も開き過ぎだから!」とケロケロ笑う。


 サチハさんはそれを見て真似しようとしたが、うまくいくはずもなく、手元と口元にソースが溢れてしまう。すると隣にいたサキさんが、優しく口元を拭いてあげて、

「コレ、最初にソースをこぼさないように、外側から徐々に潰していって、一口に収まるようにして食べるんだよ」


 と教えた。すると、ふわふわのバンズが思いのほか縮まり、縦横はともかく高さは一口の範囲に納まるようになって――もちろん、それなりには口を開けてだが――上品と呼べる範囲で食し始めた。


 サチハさんもそれに続き、オレも習って食べ始めた。


 お、美味しい。昼に続いて、こんな良いモノが食べられるとは。


 マナセさんは「僕ももう一回食べようかな」って。――いや、有り得ないだろ。



 宴も進み、不意に皆を見てみる。


――みんな、こんなに自然に笑ってるんだ。


(……ここが、オレの居場所になるのかな)


 この人たちとなら――何とかやっていけそうだ。


 昼食を皆でとると聞いたときの緊張感をふと思い出しながら、そんなことを考えていた。


 「明日もあるから、そろそろ皆帰りましょう」


 2時間ほどが過ぎ、キズナさんが言った。


 まださほど夜も更けてないが、考えてみるとキズナさんはまだ高校生。良い頃合いだろう。オレ自身も、乗り継ぎを考えるとそれなりに帰路はかかる。


 ケンさんはきちんと運転代行を呼び、家路に向かう。


 キズナさんとランさんは駅前から相乗りでタクシーに乗って帰るそうだ。


 マナセさんは……帰りにラーメンでも食ってから帰るそうだ。――いや、有り得ないだろ。


 駅に向かったのは、オレとサキさんとサチハさんの3人。

 改札で別れて、反対のホームに向かう。2人は逆方向らしい。


 階段を登ると、線路を挟んで2人が見えた。何かしら仲良さげに話しこんでる。


 「ドカドカバーガー」が距離を縮めてくれたようだ。


 2つのホームに、ほぼ同時に電車が滑り込んできた。


 車内でオレに気づいたサチハさんが大きく手を振る。


 サキさんも手元で小さく手のひらを揺らした。


 オレも手を振り返し、それぞれが見えなくなるまで続けた。



 


 



ここまで読んでくださってありがとうございます!


今回はアツのスタジオ2日目。

漫画制作と戦闘のはざまで、個性的な仲間たちが次々と登場します。


彼らはみな、ただのアシスタントではなく、それぞれに“武器”と“視線”を持つ戦士でもあります。

でもまずは一緒にカレーを食べてくれる、そんな仲間から始まるんですね。


次回、少し不穏な気配が忍び寄ります。

「眼鏡がないのに、見えるもの」──ぜひ次回もお付き合いください。

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