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第1話「序章」 「封書の中身とおせちの中身」

【今週は月・水・金21時半頃 更新予定】

本作は、カクヨムで連載中の『描線眼鏡 または師匠の異常な情熱』のリブート版です。

以前「眼鏡の女の子~」として掲載していた作品を、構成・演出を見直して再出発しました。


——「眼鏡」をかけると、世界の歪みが視える。

「想像力」が「武器」に変わるとき、少年は戦場に立つ。


異能×青春×SF×芸術×バトル──そんな物語を、少しずつ描いていきます。

 この世界には、ふたつの現実がある。 ひとつは、私たちが普段見ている現実。 もうひとつは、「想像力の眼鏡」を通さなければ見えない現実。 昔の漫画家たちは、科学と物語の力でその境界を越え、未来への技術と記憶を残した。

 今、その眼鏡を受け継いだ若き描き手たちは、「描くこと」と「戦うこと」で、世界の真実に触れようとしている。

 これは、彼らの戦いと創作の日々を描く、ちょっと不思議な物語である。


 *


 元旦 北海道札幌近郊の郊外 加藤アツの実家


 東京のアパートを出る直前に到着した手紙の封を切ってみる。 「ふぅ〜」っと、長くタメ息をついた。


 「貴殿の作品はこの度の受賞が叶いませんでした。 貴殿の創作活動が充実される事を、心よりお祈り申し上げます」


 そりゃそうだよな。 数々の出版社の賞に送り続けて、落選し続けてきたオレの作品が最大手集談館の権威ある賞に引っかかる訳もない。 お祈り文がメールじゃなくて封書で来る辺りが、さすが集談館といった感じだ。


 「プロの漫画家になりたいなんて、夢見てるだけだって言われてはいたけど…」 それでもオレは…帰省した


北海道の実家のベッドに寝っ転がりながら、今後の事を考えていた。


 *


 同日 神奈川県某市 戸隠キズナの自宅


「貴殿の作品は集談館科学漫画大賞新人賞を受賞しました。おめでとうございます。 副賞として週刊コスモス新年発売号に掲載させて頂きますとともに、社団法人日本科学漫画協会様から記念品として眼鏡一式を別途送らせて頂きます」


「フッ」 短く息を吹き文面を読み返す。


 正直コレは出来レースだ。 ワタシの受賞はだいぶ前から決まっており、新年発売号に載る読み切りがよっぽど評判が悪くない限り、春からの新連載も決まっている。


 他の応募者に悪い、との思いが一瞬よぎったがすぐに振り払った。 実力が有れば同時受賞だって有り得たんだし、この「眼鏡」はワタシが実力で掴みとったものだ。

 眼鏡は毎年、一月二日の朝に受賞者の元に届くらしい。


「初夢ってことなのかしらね?」


 *


 スマホの明るい画面がシンドくなると、電気を落とした暗い天井に目を移し、また気がつけばスマホの画面を眺めている。


「東京に戻ったら仕事も決めないとな」


 この半年バイトも辞めて、貯金で過ごしてきたがそろそろ限界だ。


「マンガ家 アシスタント 募集」


 検索画面を見ると、それ用に最適化された既に登録済みのマッチングサイトが出てくる。 ログインして「アシスタント先募集」宛に来たボックスをチェックしてみる。 当たり前のように空だ。


 新着の案件を見ても、ほとんどがアシスタント先を募集する人達の長い列、たまに「アシスタント募集」があっても経験者のみ、Webでのデザイナー募集などオレとは当てはまらない条件ばかりだ。


「なかなかマッチングなんてしないんだな」 呟いて、他のサイトをあたる。


 2段目からは普通の求人サイト内にあるアシスタント募集の案件だ。 色々と当たってみるがほとんどWebサイトでのコミック運営アシスタントや、リモートでのアシスタントばかりで、俺がイメージしている、マンガ家さんの近くで仕事しながら経験を積めるようなものは無さそうだ。


「マンガ家 アシスタント 未経験」


 検索条件を変えてみる。 経験者求むを除いて、さっきと大してかわらない。


 いくつか検索条件を変えてみて、ふとオレは


「マンガ家 アシスタント 情熱」


 と入力してみた。 そう俺はまだマンガ家になる情熱を捨てていない。 捨てていないはずだ。

 瞬間、画面の中で“何か”が歪んだ。 いや、俺の顔の奥で“誰か”が覗いた気がした。 すると検索結果の最初に、これまで見かけなかったサイトが表示されていた。


「日本科学漫画協会」求人斡旋


「たしか集談館の賞を共催してたところだよな?」 あまり知らなかったが、目ぼしいモノに片っ端から応募していくしか無い。


 俺は内容に目を落としていく。


「ユーザー名  guest」 「password   *****」


 あれ急にログイン画面に変わった? サイト登録とか途中あったかな?

 とりあえずmangaと入れてみる。 普通に先に進み色々と案件が出てくる。

  おっ和田先生とか福田先生とか普通に知ってる名前が出てくる! しかもスタジオ勤務だ。 ただ勤務地が群馬に埼玉だけど結構奥だな~。 ウォッチにして他も探そう。


 あ、神奈川のここなら今のアパートから通えるな。 新規オープンのスタジオでイチから始められるって。 まずはここにエントリーしよう! ってPDFか何か自動で落としてるけどやけにファイルサイズ大きいな? なんだろ?


 *


「こんな時間になっちゃった」


 新連載に向けたネームを先出ししておく。 ただでさえ新人はやることが多い。


 アシスタントはマナセとランが一緒に来てくれるように、星野先生が取り計らってくれたし、サキは優秀だけど、まだメンバーが足りない。


「ケンさん年が明けたら、眼鏡が見えるように__はならないか。 こればかりは適性だし。 協会の斡旋で来る応募者なら、実務はともかく実戦で眼鏡を使える研修は受けているはずだけど」


 *


 翌朝


 実家で食事を考えなくても済むのはありがたいが、居心地は悪い。 正月だからか親も気を使って何も言わないが、空気で「これからどうするのよ?」と責めて来る。


「俺だってどうかしたいよ」


 口には出さず昼前には家を出た。 土産代わりに買って置いてくれたバターサンドをナップザックに突っ込み、バスと電車を乗り継ぎ新千歳空港に向かう。 定刻では15時50分発、日が暮れた頃には東京に居るはずだ。


 *


 チャイムが鳴り玄関を目指す。


 昨夜はグッスリ寝て初夢も見てないが、現実の方から来たから問題無い。 受け取った小さめの段ボールから、早速中を取り出してみる。


 厳重な梱包材を解くと、キレイで古風な風呂敷に包まれ、ちょっとしたおせち料理のようだ。 一昔前には付属機器が幾つもついて、本当に豪華三段おせちのようだったという。

 のし紙に包まれた箱を開ける。 一本上に置かれた眼鏡がワタシので、あとはアシスタントのみんなのものだ。 横にはあのペンが入っている。 こちらは本質的に変わりは無いらしい。


「これがワタシの眼鏡」


 早速掛けてみる。 屋内で誰も居ないし何も見えないハズだが、光学的に最適化もされている眼鏡はキズナの目には、モワッと光と影が入ってくる。


「眼鏡に慣れてても、職人さんの技でワタシの目に合わせるとこんな風に入ってくるのね。早く慣れないと」


 これを受け取る為に帰省を遅らせていた一家は、夜の羽田発の福岡行きを取ってある。


「おばあちゃんに早く見せたいな」




最後までお読みいただき、ありがとうございました!


第1話は、主人公・加藤アツが異変に触れる“始まりの朝”を描いています。

彼の前に現れる謎の「眼鏡の少女」は、一体何者なのか?


次回(第2話)は、6/11(火)21時頃の投稿を予定しています!


■次回あらすじ:

飛行機で東京に向かうアツ。その空の下、異常な現象が発生し──世界は、音を立てて“裂ける”。


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