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 悪魔になって1000年生きた。


 最初は戸惑ったものだ。一体何をどうすればいいのか分からなかった。親がいれば、或いは同種の存在すらおらず生きるための指針すらなかったのだ。


 ただ一度目の進化を目の当たりにして、まるでキャラクリエイトをするような感触にようやく現実を受け入れられた気がした。まぁゲーム気分に逃避したと言えなくもないが。




 とはいえ姿形は当然として、権能や才能まで自由になるとしたらそりゃ楽しいに決まってる。全員が同じ条件で始める生き残りを賭けたバトルロイヤルに俺はすぐに嵌まってしまった。


 敵を倒すため、ただそれだけの進化の方向性を模索し、今の機械っぽい身体に辿り着いた。そのおかげか、名うての悪魔の中でもそれなりに強くなれたのは僥倖だろう。




 しかし、しかしだ。闘争という名の混沌の果て、魔力を貯めて進化を繰り返し辿り着いた先がただの停滞というのは頂けない。まったく持ってつまらない。


 全てをねじ伏せて頂点に立ち、その上で退屈を甘んじて享受すべきだ。挑戦者に敗れるのを楽しみに待てばいい。


 でも見合って見合い続ける退屈は違うだろう。




 頂点が見えてきた身としては、とてもつまらないのでどんな手段を使っても一柱殺す。そして最後の進化を果たして頂きの景色を眺めるのが俺の根源的な行動理念だ。


 まぁ普通に戦ったら三柱のどれにも勝てないんだけどね。




「狙いはどうしましょう?」


「そうだなぁ、やっぱり一番活発に活動してるアトロシウスかな」




 この地方を占める三柱の特徴を簡潔に述べるなら、




アトロシウス→DQN


カルマゴグ→入院中


オルレアン→引きこもり




 と言ったところ。アトロシウスは魔界とは違う別世界を攻略中で、カルマゴグは怪我して療養中、オルレアンは数千年姿を現していなかった。


 弱ってるカルマゴグが一番攻略し易いかと思いきや、完全防御態勢に移行していて付け入る隙がない。俺自身勢力らしい勢力といものを持っていないため、守りに集中されてしまうと多勢に無勢となってしまう。その点はオルレアンも同様だ。




 俺のいるランク帯の魔王級の実力はピンキリだ。何せ三柱しかいない魔神と違って数が多い。しかし無視出来るほどの差もないので群れられると辛いのだ。いくら本丸が弱ろうと、その分を数で補われたら本末転倒だ。




 その中で唯一アトロシウスだけが外向きの活動をしていて、タイマンに持ち込むのに向いているというだけだ。戦闘力で言えば、格が一段上の魔神はどいつも強い。だが一対一で戦って負けるなら、数でボコられるのと違ってそれはそれで面白いじゃないか。




「どうにかして戦力を分散できればいいんだけどな」


「じゃあ天使も使いましょうよ。他にも燻っている悪魔もかき集めましょう」


「うむ、楽しそう。準備はソロモンに頼もうか。じゃあ俺は第三世界の方から攻略しようかな」


「挟み撃ちにするんですね。」


「そうそう。そうして単独になったところをズドンだ」




 星が瞬いて見える宇宙のような暗黒空間を漂いながら、俺とグレイシアの駄弁りは続く。




「大枠はそんなところでいこうか。細かいところはソロモンも入れて話さないとな」


「それでは向かいましょうか」




 そう言ってグレイシアが俺の腕に寄ってくる。俺は全長四メートル強なので、一メートルしかないグレイシアを腕に乗せるのは簡単ではあるが、自分で翔んでくれませんかねぇ。




「この方が早いではありませんか」




 まぁ?恐らく?俺は魔界で一番速いけど?




「しょうがないな」




 背面にジョイントされた骨格を広げ推進力を噴出すると、翼になった。これは姿勢制御用。翼とは別に直線用のスラスターに火を入れると、即座に飛び出しそうになる。


 勢いに振り回されようぐっと体に力を込めて、腕を曲げてグレイシアの圧避けにすして、制動を止めると次の瞬間、俺は光になった。


 魔界最速を叩きだす機械の翼は誰であろうと追い縋る事を許さない。これが全ての悪魔に対する俺の絶対的アドバンテージだ。


 所謂一つの頂である。




 魔王ソロモンの持つ星は巨大な宮殿だった。上下の区別はなく、ウニのように球形に伸びた居城の中心にある謁見の間で、ソロモンはソファに寝転び寛いでいた。


 俺は異端とよく言われるが、変わり者というならこいつもそうだ。本来星に持たせる防御機能を全て排して絢爛さに全振りしているのだから。




「よー久しぶりだなソロモン。調子はどうだ?」


「戻ってきたか、放蕩」




 ソロモンは琥珀色の透き通った形態を持つ美丈夫だ。悪魔には色んな奴がいるが、男型を取る物もいる。特徴は魔力の出力が安定する事だ。一定の魔力を長時間使い続ける事に向いていた。


 それに対して女型は瞬間出力に優れている。


 他には竜型や獣型、果てには不定形など色々いるが、色々いても大体は能力を発揮し易い形態を取っているのだ。




 ソロモンも同様で体中に入った契約紋がその能力を現していた。彼の特性は悪魔を従えれば従えるほど強くなる軍団信仰。魔王の中でも集団戦に特化したソロモン軍団は、階級が同じであれば他の魔王が従える悪魔よりも強くなる。


 寄り集まれば自身も部下も強くする契約悪魔、それがソロモンだった。




「ってか数少なくね?どこ行ったん?」


「情報収集に向かわせている。必要だろう、貴様にも」


「ふむ、尤もだ。ところでパーティしようぜ」


「貴様は一体何を言ってるんだ?」


「コホン、私がご説明致しましょう。まずは第三世界へと繋がる次元門を取ります。これは放蕩様にお願いするとして、そこを天使に支配させつつアトロシウス軍と争わせ戦力を削らせましょう。しかし本命は彼奴が侵攻している第三世界。そちらを放蕩様が取ればアトロシウス本人が動くでしょう。ソロモン様にはその間、野良悪魔を集めて対アトロシウス軍を結成して頂きたいのです」




 まぁ単純も単純な陰謀と呼ぶのすら烏滸がましいそんな戦略だ。


 アトロシウスが第三世界へ干渉するために必須な時空を繋ぐ次元門を取り上げて、奪還に躍起になっている間にこちらは包囲網を完成させる。


 それらをひっくり返せる手札の魔神出陣を起こせれば、それは俺の理想通りの結末だ。




「ふむ、大事になるな」


「まぁ俺ら全員第三世界に行ったことないからどうなるか分からんけどな。割と博打だよ」


「ですがやってみる価値があるでしょう?何せ飽きもせず千周期も攻略しているんですから」


「他の二柱を牽制しつつ千周期。やはりそれほどの価値ある物が存在するのだろう」




 ソロモンの言う通り、アトロシウスの拘る何かがある確率は高いと思う。


 ただ同時に魔神が千年も時間を掛けなければならないほどの反抗勢力がいる可能性も高かった。




「期間はどうするつもりだ。こちらもある程度の時間は必要だ」


「そうだなー、じゃあ百周期くらいを目途にしようか。それだけやってダメなら俺らじゃ無理だろうし、どう?」


「決まりだな。それと貴様は第三世界に着いたら連絡方法を確立しておけ」


「あー確かに、必要か。了解了解」


「では天使は私にお任せを」


「よし、行くぞ」




 俺たちは早速とばかりに行動を開始した。大きな猶予があるのはソロモンのみで、俺もグレイシアも急ぎで済ませる事は山積みだ。


 天界へと向かうグレイシアと途中で別れ、俺単独で向かうは次元門だ。




 鋼の大地に鉄の空。次元門があるのはそんな星だった。主はとうに死んでいる。残された星を次元を操る悪魔が間借りした。その悪魔も既にいない、という曰くの星で 今は無数の悪魔達に警備されていた。


 厳重と言えば厳重ではあるが、大して意味はない。


 というのも、悪魔の階級は一つ変わると次元が変わるからだ。存在の桁が一つ変わるとでも言えばいいのか。


 ただでさえ格上のアトロシウスと戦う場合に居て貰っては困る雑兵たちだが、そうでなければ物の数にもならなかった。それくらい悪魔の階級には開きあった。




 下級悪魔、上級悪魔、魔王、魔神の四回、悪魔の見る世界は変わる。




 まぁ余談はともかく今は目の前に集中だ。


 名乗り上げる事もなく俺は翼から吐き出された余剰エネルギーを纏めて矢じりと成し無数の悪魔達に向かって次々と飛ばした。


 同時に速度を上げて、腰に付属された柄を引き抜いた。柄から伸びた赤い魔力の刃で悪魔を切り裂いて倒した。




 意思を失った悪魔はただの魔力の塊だ。集まった魔力が四散する時に花火のような爆発が起こる。その無数の爆発を背景に佇んだ俺は、頭部のツインカメラを光らせた。うん、俺カッコイイ!




「クフフ、生きていたか異端者」


「お前は……ッ!」




 ラグビーボールのような扁長楕円体の胴体から手足と尻尾そして蛇のような顔の頭を生やした悪魔がいた。名前は知らない。


 銀の体色を持つそいつは胴を縦に真っ二つに割り、無数の牙が生えた口内を見せつけてくる。自慢か?


 魔力量はそこらの魔王級。つまり俺と同格だ。




「単独で突っ込んでくるとは愚か愚か。今日こそ貴様が持つ魔王筆頭の座を譲って貰おう!大して魔力を持たぬ貴様には不似合いよ!」


「ばっちぇ来いよ!挑戦者上等!!」




 まぁアトロシウスに受けろ言っている以上、俺も受けないと嘘だよな。合戦中に何故か一騎打ちをし始める古の武将が如く、いつでも挑戦を受け付けよう。




 俺は勇ましい事を言いつつ上方に回避運動を行った。肉眼では消えたように映っただろう。対象地点との距離を圧縮する事で結果的に時間を飛ばす魔法だ。これの利点は圧縮率を調整する事で態勢も自在に変えられる事だ。


 俺の正面に向かい合うラグビーボール魔王と触手で奇襲してきたタコ型宇宙人魔王の頭頂があった。恐らく毒持ち暗殺戦法が得意なのだろうが、俺の全包囲高精度センサーは誤魔化せんのだ。




「なにぃ!?」


「ええい、この役立たずのタコめ!」


「貴様の囮が下手くそだったのだ!」




 腰に付いた折り畳み式腰部魔導砲が展開し、その砲身を伸ばした。喧嘩しているタコ魔王に向けて発射されたのは魔力集中を防ぐジャミング弾だ。


 霞みのように姿を消そうとして上手くいかないタコさんが焦っている。魔導ジャミングなんて俺しか使わないだろうしな




「タコ焼き一丁お待――」




 虚空格納庫から4メートル級の全長を持つ俺が、小脇に抱えなければならないほどのクソデカ長距離砲を取り出しタコさんに照準を付ける。




 だがそれを邪魔したのはラグビーボール魔王だった。


 縦に割れた大きな口からブレスが吐き出された。放射状に広がる高熱の波は鉄の空を溶かし赤く染め上げた。


 馬鹿っぽくても流石は魔王である。上級の悪魔には星を傷つけるほどの出力がない。




 とはいえ、焼けたのは俺の背後を除いた部分だ。虚空格納庫から射出した空間遮断フィールド発生装置によって、ブレスは完全に防がれた。


 逆に俺は長距離砲を発射する。




「――ちー」




 撃ち出された魔力が通り抜けた後は世界が剥がれて虚無が顔を覗かせていた。あらゆる世界が帰結する最後の場所。それが虚無だ。




 周囲を削りながら魔力がタコさんを貫いた。


 この長距離砲だが、威力は高いものの致命的な欠点が一つある。それは意思を失った悪魔の魔力が経験値にならず虚無へ飲み込まれることだった。


 爆発したタコさんの魔力は大部分が虚無へ消え、残ったのは魔界が吸収し修復に使われていく。


 もったいないが、武器は強いんだから仕方ない。負けるよりマシだ。




「おのれ異端者!」




 向かってくるラグビーボール魔王を羽根矢で牽制しつつ翼から噴き出すエネルギーで後退する。前にかっ飛ぶためのスラスターがないので速度が遅く、ラグビーボール魔王がどんどん距離を詰めてきた。


 尻尾を軸に魔力を纏い、遠心力で刃を形成する様はさながらドリルのようだ。それとも吸引力に着目して竜巻というべきか。何にしろ荒れ狂う魔力の奔流に巻き込まれたらただでは済むまい。




「くたばれぇい!」




 ところで話は変わるが、俺個人の魔力で使える武装の中で最大の破壊力を持つ物は近接攻撃だ。近づいてきてくれるなら、それに越したことはない。




 両手の平に異なる指向性の魔力を集め、それらを合わせて対消滅させる。その崩壊に相手の魔力を巻き込む事で、悪魔の生命力というべき魔力自体を強制的に自壊させるのが一番威力が高い攻撃だ。しかし威力は必殺と言っていいものの射程が短く、相手に触れないといまいち効果が出ないという短所も持つ。


 デメリットばっかりだな俺の武装。




 ラグビーボール魔王が回転する中心に、掌底をブチ当てる。一瞬の拮抗の末に俺の掌底が押し切った。




 一部壊れてはいるものの、ラグビーボール魔王の意思が失われて集まった魔力が爆発四散した。魔王の魔力は高密度だ。多少減ってもその総量が多いのは事実。俺はいそいそと経験値を回収しexpの魔石として虚空格納庫に保管した。




 そこらの魔王程度ではもうまともな戦闘にすらならない事に悲しみすら覚えてしまう。




 逃げて行く格下の悪魔達を見て、さてどうするかと迷った。殺してもいいが、ソロモン的にはどうだろう?


 まぁよく分からないから放置でいいか。死んでるより生きてる方がいいはずだ。




 次元門は底の見えない巨大な穴だった。鉄の大地に開いたすり鉢のような勾配のある穴だ。底は見えず闇が佇んでいる。




「一応対策しとくか」




 俺は第三世界に行くのは初体験だ。怖いから対策しておこうかな。




 両手と両足、それとバックパックをパージして換装を行う。虚空格納庫から代わりの装備が飛び出し、胴体とドッキングした。それと同時に胴体の魔力核から魔力が通り、カラーリングが青く染まった。


 換装後の外観は黒の時より流線形が多く、両肩のスフィアから隠蔽が、そしてバックパックから四方に伸びる六本のアンテナでジャミングが行われる隠密仕様だ。肉眼でも探知でも本気を出したこのブルーシルエットを見抜くことはできない(経験則)。


 まぁ尖った性能な分、戦闘力が落ちるのが代償だ。便利なブルーシルエットではあるが余り長時間の使用は避けたいところ。




 隠密システムを起動すると魔力が球形に広がり全身を囲うと姿が完全消え去った。


 さっさと行こうかね。

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