6、我が主人と共に(カロン編)
※流血、痛ましい表現があります
ご注意くださいませ。
孤児だった俺を拾い、育ててくれたのは国王様だ。
俺の生まれた国は、前国王はそれはもう差別が酷いもので、力の強い民族ゲルン族を毛嫌いしていた。
俺はその民族だった。
他の種族との違いなんてほとんどない。
見た目は同じ。
ただ生まれつき力が強い、それだけだ。たったそれぽちの理由だ。
反逆や王家の侵略を危惧した前国王が作った勝手な階級。
「ゲルン族は野蛮で残虐。下等な移民。見つけたら奴隷商人に引き渡すか、騎士団へ引き渡すように。」
そのせいで大勢の仲間が奴隷として売られ、殺された。
殴られる事は日常茶飯事。
いよいよ殺されるんじゃないかってところをある女性に救われた。
それが俺の最大の奇跡。
俺の人生の価値も何もかもが変わった。
その時はもう、生きる希望も、生きていく価値も、何も感じなくなっていた。
食べるものもない。
父や母、兄妹たちの顔はもう思い出せない。
生まれているのだから、当然家族は居る。居るはずだが、幼い頃にあっという間に忘れてしまった。
不思議なもので声を始めに忘れて、顔ばかりは忘れまいと必死に掴んでいたというのに、気がつけば手のひらの中には何も残っては居なかった。
何一つ思い出すこともできなくなった。家族が居たという事実、忘れていく過程の空虚感はよく覚えているというのに、綺麗さっぱり無くなっていくものだからなんだかおかしかった。
———今思えば、親兄弟を忘れたおかげで彼女の全てを覚えておけるのだと思っている。何一つ忘れはしない———。
体も大きくなって、もう路地の隙間に身を隠すこともできなくなって、ガタイばかり大きくなるこの体を殺さないようにするのには限界だった。
重労働でどうにかその日を凌ぐだけの、微々たる身銭を稼ぐ毎日 。1日に食べられる物といえば、パン一切れとコップ一杯の水。
ある日、ヘマをした。
大きなヘマだった。
王家に納める絢爛豪華な装飾が施された武器や宝具を運ぶ際に、重さに身体が耐えられず鞘から転げ落ちた刀身が床へと散らばった。当たり前だった。いくら力が強い種族といえど人間だ。疲れもすれば、腹も減る。
瞬間、激痛が体を襲った。
刀身が跳ねて、足と腕が宙を舞った。それが自分のものだと気がついた瞬間、視界が大きく揺れた。
血に染まる地面にドサリと身体が崩れ落ちる。
弾け飛んだ血雫はあちこちに大粒の雨を飛ばしたが、そんな事気にしている余裕なんてなかった。
食事も水分もろくにとっていない体からまだこんなに出るものがあったのか———痛みで意識が遠のく中、頭ばかりは冷静だった。
雇い主の罵声。
囁く声。
あらゆる罵倒が降りかかる。
消えゆく視界の中、いよいよ死ぬのか、そう確信した時、小さな影が血溜まりの中に飛び込んできた。
これが、彼女との初めての出会いだった。
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