2、観察
私が住んでいる京都は、いわゆるパワースポットと呼ばれる場所が多い。安倍晴明だったり、縁結び縁切りだったり。実際バラエティ番組でもパワースポット特集なんかでよく見かける。
遥か昔にここは都であった、なんて授業でも習ったが、ドラマや漫画でもよく見るいわば歴史の一幕であり、常識のようなものなんだと思う。
様々なところで神も人も問わず祈り祈られ、巡り巡っているのだろう。そのパワーをひしひしと感じている。
パワーを感じる理由、それは、なんと言ってもひどく身近に居る私の家族は異世界から転生した人達だから、である。
京都、パワースポット、異世界転生。
まさに役満、フルハウスど直球に縁を感じるわけである。
どこの三種の神器だよ!京都だけに!
おっとうっかり激しめに突っ込んでしまった。失敬失敬。
父風に言えば、女神セーロム様のお導きの賜物、魔神のティーカップくらい貴重かつ稀な合縁奇縁だね!
だそうだ。
奇抜かつ謎の言葉の組み合わせに混乱しただろうか?そうでしょうとも。
私だってそうだった。ファンタジックで空想的な言葉のオンパレードに頭はいつだってクラクラだ。理解するのにとても時間がかかる。事実理解できているかと聞かれると、答えはノー。
———でもまぁ、あれこれ言っても父が幸せそうに語る姿が私は好きなのだけれども。
「おはよう」
窓から水分を感じる冷たい空気が頬を掠めて、鼻先をひんやりとさせた頃、ベッドのマットレスが軋む音と、布擦れの音、そして低い声が耳のすぐ側で響いた。
「うっ、ひぇ」
「なんだい、その声は。おはようのキスだろうよそこは」
「……」
……欧米か!
なんて心の中で突っ込んでおく。
驚いて変な声が出てしまった。
「はっはっはっ!兄様の添い寝の効果かな!スッキリ目が覚めたようだね、ラ・ザッシーナ!」
「まぁ、スッキリはしたかな……」
「はっはっは、そうだろうとも!兄も朝一番に愛しの妹と寝れるとはこんないい日はないな!」
「言い方……」
「いやいや、愛しい存在はいつまでも目の前にあり続けるとは限らないものだ。どんな瞬間も二度と現れないからね」
ふふ、と微笑む兄の顔に、窓から一直線に伸びた朝日がキラキラと降りかかった。まつ毛がふるりと柔らかく震えてこれ以上ないほどの優しい笑みが私を捉える。
思わずドキッとしてしまうストレートな言葉と行動は、全然日本人らしくなくて慣れない。
日本人らしくなくて、と言うと語弊がある。
シャイで遠回りな言葉や「月が綺麗ですね」なんて届くかもわからない奥ゆかしさを持つのが日本人かな、なんて思ってる偏った考えの私にはちょっと直球すぎて照れてしまうのだ。ドスっと心に入り込む言葉は嬉しいけれど、ソワソワしちゃうのだ。
私の兄、目の前の青年は、本当に自分の兄妹なのか?と疑いたくなるほどの美貌を持っている。長いまつ毛、サラサラの銀の髪。兄弟じゃないのでは、なんていつぞや誰かに言われた言葉だけど、全然傷つきもしなかった。だって私もちょっと疑っている。
現在大学一年生の兄は、前世はどこぞの王子だったらしい。わかる。その前世めちゃくちゃ納得する。
ちょっと信じられないくらいの距離感のバグり具合に胸焼けがするもの。
絶対同じ国の地面踏んでない。
兄は私をぎゅぎゅっと抱きしめられて、じゃあ行ってくるよと優雅に部屋を出て行った。
所々で兄が叫ぶ「ザッシーナ」の意味は「神様!」みたいな意味らしく、感謝したりショックな時もよく聞くフレーズである。
今の所兄が叫ぶところしか聞いたことないが。
私はこの言葉結構好きだ。兄が底抜けに明るいせいかもしれないけれど。
———しまった。
私はついつい、この変わった家族の元に生まれたせいも相まって、観察するのが癖になっている。
今日もこの観察癖のせいで勝手に思春期の妹の部屋に入り込むのはいかがなものかと抗議し損ねてしまった。
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