ネジの外れたお嬢様、学園に行くらしい
「はぁ…はぁ…」
ようやく、ようやく追い詰めた…!
ローラースケーターで移動するお嬢様を捕まえるのは非常に困難だった。
お嬢様は異様にローラースケーターによる移動がお上手なので、どうにかして壁へ追い詰めるしかないのだ。
そんなこんなで壁へと追い詰めたお嬢様は、目を左右へ動かし、どこか逃げ道を探しているようだ。
「お嬢様ぁ…逃げるのはおやめください…!」
私はジリジリとお嬢様に詰め寄る。
そんな私に構えたお嬢様だが、突如何かを思いついたかのようににやりと笑みを浮かべ、珍しい橙色の透き通った瞳で私を見つめる。
「リヴェ」
急に私の名前を呼ぶときは、決まって何か悪知恵を働いているときだ。私は警戒しながら聞き返す。
「はい」
「ここまで追ってこれるなんて流石だ。けどな」
お嬢様は肘で後ろの壁を強く押した。
「ちょっと甘かったな」
その瞬間、壁だったはずの場所は、外通路へとつながるドアと化していた。
お嬢様は軽やかに方向転換すると、綺麗に伸ばされた黒髪をたなびかせながら、どこまでも続く外通路へと消えていった。
「…お嬢様ぁ!!!!!!!!」
そう叫ぶと、お嬢様はくるっ、と振り向き、こちらに手を振った。
流石に追いつけないと悟った私は対策を練ることにし、今日は壁の隅々をチェックして次は絶対に追い詰められるようにしておこうと歩き出したその時だった。
「リヴェちゃん!!ちょっと来て!!」
焦った様子の先輩がこちらに走ってくる。
あの穏やかな先輩が焦るなんて珍しいとそちらに向かおうとすると、私を待たずに先輩は叫んだ。
「お嬢様、来年からあのグラン帝国学園に入学することが決まったのよ!!」
グラン帝国学園。
その名を知らない国民はいないほど、様々な国から貴族、王族がやってくる学園だ。
そのレベルはほかの有名な学園とは比にもならず、生徒の位も高い。
お嬢様はあんな性格だが聡明な方だ。内情を知らない学園から推薦が来るのは理解できるが…
あんなお嬢様が、レベルも品性も高い学園で、まともに生活できるはずがない!!
私はかつてないほど取り乱してしまった。
「お、おおお嬢様は、そのことを、知、知っておられるのですか?」
「ええ、りょ了承したらしいわ。」
「ええ!?」
来年度と言っても、あと数か月しかない。それまでにお嬢様をどうにかしないと…!
さすがに先輩もそう思っているらしい。柄にもなく焦っている。
「ど、どうしましょうリヴェちゃん!!このままだと、学園の友達と遊んでばっかりで、私たちメイドにかまってくれなくなってしまうかも…!」
あ、そっち。
途端に冷静になった私は、あることを思い出す。
たしか、グラン帝国学園には…
グラン家第一皇子、ウェール・グランが通い始める、はず…。
もし皇子の気を損ねたら、この家ごと取りつぶされるかもしれない!!
しかし、私は妙案を思いついてしまった。
「グラン帝国学園」生徒の年齢層と、私の年齢は一致している。
私はメイドになるための過程で、読み書きや多少の知識は得ている。
つまり、もしかしたら…
私も学園に潜入して、お嬢様を何とかできるかもしれないということに…!