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 それから花が舞う季節が二回ほど過ぎ、おうちにまた、小さかったつむぎみたいなのがやってきた。


「タロちゃん、ハナちゃん、弟だよ。そらっていう名前なの。仲良くしてね」


 そらが来て、わたしはとても忙しくなった。つむぎだけじゃなくて、そらも見てなくちゃいけない。本当に大変だ。


 動くようになると、そらはつむぎよりも大変だった。わたしにもタロチャンにも突撃するし、つむぎよりも力が強かった。

 あの滅多に怒らないタロチャンがガウッって声を出すから、わたしも驚いてしまった。


 ひまりはそらがわたしたちになるべく近寄らないようにしてくれたけれど、それでもそらはいつもわたしとタロチャンにいい笑顔で向かってきた。

 そんな姿は可愛い。可愛いのだけれど。


「こら、そらくん! そんなに毛をひっぱっちゃ駄目。ハナちゃんだって痛いんだからね」


 あぁ、そらが泣いてしまった。どうしよう。

 ひまり、わたしは大丈夫だよ。そらにもガウッてしたから、大丈夫だよ。

 そらの泣き声はすごく大きい。わたしはそらの足を舐めた。顔は舐めちゃいけないんだって。だから足と、腕を舐めた。


「ハナちゃんはわたしのだから、そらはダメ!」


 いつのまにか、つむぎがわたしを守ってくれるようになった。もはやつむぎはわたしよりも全然大きく、そして強くなってしまった。

 あぁ、そらの興味の対象がタロチャンに……。



「そらのお昼寝布団持った?」

「忘れてた、とってくる。水筒は入ってる?」

「入れた。タロちゃん、ハナちゃん。ごめん時間がない! 行ってくるね。つむぎ、もう出るよ!」

「まって、おしっこ」

「えーっ、急いで!」


 朝は非常にバタバタしている。わたしとタロチャンはいつもショウタサンと短い散歩に出て、すぐ戻って、それからわたしたちを残してみんな一緒に出ていく。

 そらがつむぎたちと同じように歩くようになってから、いつもそんな感じだ。日中はわたしとタロチャンだけがおうちにいることが多い。


 わたしは玄関のドアが閉まるとふぅと息をはいた。いきなりこの賑やかさがなくなって、寂しいけれど、でもちょっとホッとする時もある。


 やっと静かになったね。


 わたしはタロチャンに擦り寄った。最近、そらはタロチャンがお気に入りらしく、タロチャンはちょっとお疲れ気味だ。賑やかなのは好きだけど、タロチャンと二人だけで過ごす静かな昼も、わたしは嫌いじゃない。


 タロチャン、みんなが帰ってくるまで、のんびりしようね。

 わたしはつむぎもそらも、大好きなのだ。タロチャンだって、疲れているけれどそらが大好きだって、わたしは知ってる。



 そらは少し大きくなって、いたずらの威力が増した。


「こら、そら! 床に水撒いちゃ駄目だって言ってるでしょう? 昨日もやったじゃない。なんで言う事が聞けないの!」


 あぁ、そらが怒られてる。

 あのね、そらはね、たぶんね、タロチャンにお水をあげようとしたんだ。だからね、ひまり、そんなに怒らないであげて?

 わたしはひまりとそらの間に入ってひまりを見上げ、それから床に零れた水を舐めてみる。ほら、おいしいよ。


「あぁハナちゃん! その水飲んじゃダメ!」


 わたしまで怒られた!


「そら、こうやってハナちゃんたち零れた水を飲んじゃったら、病気になっちゃうかもしれないんだよ? だから絶対にダメよ!」


 あぁそらが泣いちゃった。どうしよう。



「見て見てハナちゃん。かわいいでしょ? これランドセルっていうの。わたしね、小学生になるんだよ」


 つむぎが大きなバッグを背負っている。お散歩のときにこれを背負って歩いている人をよく見る。


「今日はお散歩がてら、学校まで歩いてみようか」


 お散歩という声が聞こえて、わたしとタロチャンはむくっと立ち上がった。

 つむぎはその大きなバッグをもって、ひまりと一緒に外に出た。ショウタサンとそらはお留守番らしい。

 わたしたちはいつものお散歩ルートから少し外れ、違う道を歩いた。

 道、違うよ? って教えたけれど、ひまりはこっちだと言ったから、今日はこっちに行くみたい。


「ついた。ここだ。つむぎはこれから毎日ここまで歩くんだよ。できそう?」

「できる」


 着いた場所の入口は閉まっていて、中には入れなかった。

 わたしたちはそのまま来た道を戻った。


「ハナちゃん、タロちゃん。今日は学校まで歩く練習だから、寄り道しないで帰るよ」

「わたしはもっと歩けるよ? まだ全然疲れてない」

「じゃあ次は、ランドセルの中に本を入れて歩く練習をしようね」

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