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聞いてない。
わたしは聞いていないよ。
なんなのこれは?
つむぎは泣き声だけは大きかったけれど、しばらくの間、自分で動くことはなかった。それがどうだ。いつのまにかわたしやタロチャンと同じような体勢で動くようになったのだ。なんとなくこの子はいずれ動き出すのだろうとは思っていたから、それはいい。
だけど、突進してくるのはやめてほしい。
わたしをむぎゅっと掴むのもやめてほしい。
わたしの耳を口に入れないでほしい。
そういうことはしちゃいけないんだ。ダメなんだよ。
だからわたしは「ガウッ」ってちょっと怖い声を出した。そしたらひどくびっくりした様子のつむぎが、思いっきり泣きだしてしまった。
どうしよう。
泣かせるつもりはなかったんだ。ただダメだって教えただけなんだ。
……どうしよう。
「あらあら」
ひまりがつむぎを抱き上げる。それでもつむぎは泣いたままだ。
わたしのせいじゃないよ?
だってつむぎが、わたしのしっぽをむぎゅってしたんだよ。ほかのところなら許してあげてもいいけど、しっぽは駄目だよ。
泣き止まない。どうしよう。
「ハナちゃん、大丈夫だった? ごめんね、つむぎはまだ赤ちゃんだから、加減がわからないのよ。怪我はないかな」
ひまりがわたしを撫でてくれる。
よかった、ひまりはわたしを怒っていなかった。
「いつもありがとね、ハナちゃん」
わかってるよ、ひまりが大事なものは、わたしが大事なものなの。
つむぎはどんどん巨大化した。
なんで。ねぇなんで。
ふにゃふにゃしてたはずなのに、すでにわたしと同じくらいの大きさなのはどうして。
どんどん動きが大きくなって、たまに手に負えなくてガウッって言ったり、とてもとても軽く噛んだりしてみたり、いろいろしても結局つむぎはわたしに寄ってくる。
しまった、目が合った。そっと逸らしてもきっと意味はない。ほら、楽しそうにずんずんとやってきた。
「あー、うー。ん、ば、ば、ば」
わたしはひまりやショウタサンが言っていることが全部わかるわけではない。だけど少しは分かることもある。だけどつむぎが言っていることは全くわからない。わかるのは、わたしが狙われてるってことだけだ。
むぎゅ。
そうなりますよねそうですよねわかりますよえぇわたしの毛並み気持ちが良いですよね知ってます。
わたしは遠い目をした。
あぁ、よだれがかかっている。むぎゅは強すぎなければ好きだけど、よだれはやめてほしいなぁ、などと思ったところでつむぎに通じないことは分かっている。
わたしは諦めて横になった。しっぽを動かしてみたり、軽く触ってみたりする。どうやらつむぎは楽しんでいるらしい。
ひとしきり遊んだあと、つむぎも横になりだした。つむぎはわたしにぴったりとくっついていて、なんだかほわほわとして温かい。わたしもちょっとうとうとしかけたところで気が付いた。
……ひまり! 大変だよ! つむぎが寝ちゃった!
わたし、動けないんだけど! どうしたらいいの!
笑ってないで助けて!
いつの間にか、つむぎはひまりたちと同じような歩き方をするようになった。一緒にお散歩に行くと、途中でつむぎの乗り物を降りて歩く。よちよちと倒れそうで、わたしはハラハラする。だからいつも、つむぎのすぐ隣にいることにしている。
つむぎはすぐにしゃがみこむし、なんでも口に入れようとする。おうちの中でもそうだけど、外でもやる。わたしがちゃんと見張っていないと危険なのだ。
「あらハナちゃん、つむぎに駄目って教えてあげてたの? ありがとね。ふふ、少し前はハナちゃんだって同じことしてたのに」
今ならば、タロチャンがおじいさんとゆっくり歩いていた意味がわかる。タロチャンはおじいさんが心配だったんだ。走り回りたい気持ちだってもちろんあるけれど、それ以上におじいさんといるのが大事だったんだ。
そう、今のわたしとつむぎのように。
ひまりとショウタサン、つむぎ、それからわたしとタロチャンの全員が乗ると、車はとても狭く感じる。車の中でもわたしはつむぎを見守っている。車の中ではつむぎは静かなことが多いから、わたしも休むんだ。
わたしたちは久しぶりに青空公園までやってきた。つむぎはつむぎの乗り物に乗ったり、ひまりとゆっくり歩いたりしている。
「よし、タロウ、ハナちゃん。行こうか!」
ショウタサンがわたしとタロチャンのヒモを持って、走り出した。
えっ、つむぎは?
「ハナちゃん、つむぎは大丈夫だよ。それより、ボールもフリスビーも持ってきたんだ。いつもつむぎにつき合ってもらってるから、今日はめいっぱい遊ぼう」
広場につくと、わたしはボール、タロチャンはフリスビーを追いかけて走り回った。楽しい。遠くにひまりとつむぎも見えた。あちらも楽しんでいるらしい。
その日の夜はぐっすりと寝てしまった。途中でつむぎが泣いていたような気がするけれど、わたしは起きられなかった。
わたしはその夜、つむぎと一緒に走り回る、とても楽しい夢を見た。